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相続セミナー第30回 :家族信託にかかる税金 ~贈与税、相続税、所得税など~

みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして民事信託(家族信託)に関する情報を、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。

前回の第29回相続セミナーでは、「家族信託の注意点とリスク」と題し、その設計・運用段階で気をつけるべきポイントについて詳しく解説いたしました。光もあれば影もある、その両面を理解することが、より安全な信託実現への鍵となります。

さて、家族信託を検討する上で、多くの方が気になるのが「税金」の問題ではないでしょうか。「家族信託を利用すると、税金はどうなるの?」「何か特別な税金がかかるの?」「節税になるって本当?」といったご質問は、私たち専門家にも頻繁に寄せられます。

そこで今回の第30回では、この避けては通れない「家族信託にかかる税金 ~贈与税、相続税、所得税など~」というテーマに真正面から取り組みます。どのような種類の税金が、どのタイミングで、誰に関わってくるのか、その基本的な考え方と注意点を、できるだけ分かりやすくご説明してまいります。

税金の話は複雑で難解に感じられるかもしれませんが、基本的なルールを知っておくことは、安心して家族信託を活用するための第一歩です。この記事が、そのための道しるべとなれば幸いです。

家族信託と税金の「基本原則」は“受益者課税”

まず、家族信託における税金の基本的な考え方として、「受益者課税の原則」というものがあります。

これは、信託された財産(信託財産)から生じる利益(収益)や、信託財産そのものの実質的な価値は、最終的に「受益者」に帰属するものであるため、原則として税金もその「受益者」に対して課税される、という考え方です。

つまり、信託契約の形(委託者、受託者、受益者の組み合わせ)によって、課税される税金の種類やタイミングが異なりますが、誰に課税されるかという点では、多くの場合「受益者」が中心となることを覚えておきましょう。

  • 委託者=受益者(自益信託)の場合: ご自身(委託者)が、ご自身(受益者)のために財産を信託するケースです。この場合、財産の実質的な所有者は変わらないため、信託を設定した時点では、原則として贈与税は課税されません。
  • 委託者≠受益者(他益信託)の場合: ご自身(委託者)が、ご自身以外の方(例えばお子さんやお孫さんなど=受益者)のために財産を信託するケースです。この場合、受益者は無償で財産から利益を受ける権利(受益権)を取得することになるため、信託設定時に受益者に対して贈与税が課税される可能性があります。

この基本原則を頭に入れた上で、次に家族信託の各段階でどのような税金が関わってくるのかを見ていきましょう。

家族信託の各段階で関わる主な税金とは?

家族信託は、「①信託設定時(契約締結時)」、「②信託期間中(運用時)」、「③信託終了時(契約満了・解除時)」という各段階で、それぞれ異なる種類の税金が関わってくる可能性があります。

① 信託設定時(契約締結時)にかかる可能性のある税金

  • 贈与税: 前述の通り、委託者と受益者が異なる「他益信託」の場合で、受益者が対価を支払わずに受益権を取得した際には、その受益権の評価額に対して受益者に贈与税が課税されることがあります。例えば、父親が委託者となり、長男を受託者、孫を受益者として金銭を信託した場合などです。 一方、委託者自身が受益者となる「自益信託」の場合は、財産の実質的な移転はないため、原則として贈与税の対象とはなりません。

  • 不動産取得税: 信託財産に不動産が含まれる場合、通常、不動産を取得すると不動産取得税が課税されます。しかし、家族信託における委託者から受託者への不動産の移転は、一定の要件(例えば、委託者が信託後も実質的な所有者であると認められる場合など)を満たせば、形式的な所有権の移転とみなされ、不動産取得税が課税されないケースが多くあります。ただし、信託の内容や自治体の判断によって取り扱いが異なる場合があるため、事前に専門家や管轄の都道府県税事務所に確認することが重要です。

  • 登録免許税: 不動産を信託財産とする場合には、法務局で「所有権移転登記」と「信託登記」を行う必要があり、その際に登録免許税が課税されます。税額は、不動産の固定資産税評価額に一定の税率を乗じて計算されます。税率は、土地と建物、信託の原因(売買か、相続か、贈与かなど)によって異なる場合があります。

② 信託期間中(運用時)にかかる可能性のある税金

  • 所得税・住民税: 「受益者課税の原則」に基づき、信託財産から生じる収益(例えば、賃貸不動産からの家賃収入、預金の利子、株式の配当金など)は、その信託の受益者の所得として扱われ、所得税および住民税の課税対象となります。受託者は、信託財産を管理・運用し、そこから得られた収益から必要な経費を差し引いたものを、受益者に交付または帰属させ、受益者がそれに基づいて税金を納めることになります。

  • 固定資産税・都市計画税: 信託財産に不動産が含まれる場合、毎年課税される固定資産税および都市計画税の納税義務者は、登記簿上の所有者である「受託者」となります。ただし、これらの税金は信託財産を維持管理するための費用(信託費用)として、通常は信託財産の中から支払われるか、実質的には受益者が負担するように信託契約で定められるのが一般的です。

③ 信託終了時(契約満了・解除時)にかかる可能性のある税金

  • 相続税: 委託者と受益者が同一人物(自益信託)であった場合で、その受益者(=委託者)の死亡によって信託が終了し、信託契約であらかじめ定められた次の権利者(帰属権利者、例えば相続人)に信託財産が引き継がれるようなケース(いわゆる「遺言代用信託」や「受益者連続型信託」の最終段階など)では、その引き継がれる財産は相続税の課税対象となります。

  • 贈与税: 信託が終了した際に、信託契約で定められた残余財産の帰属権利者が、当初の受益者でもなく、また相続による承継でもない第三者であり、かつ無償で財産を取得した場合には、その帰属権利者に対して贈与税が課税される可能性があります。

  • 所得税(譲渡所得など): 信託が終了する際に、信託財産(例えば不動産や株式)を売却して金銭に換え、それを受益者や帰属権利者に分配するような場合には、その売却によって生じた利益(譲渡所得)に対して、受益者に所得税が課税されることがあります。

誤解しやすい「家族信託と税金」のポイントと注意点

家族信託と税金の関係については、誤解が生じやすいポイントがいくつかあります。ここでは特に注意すべき点を挙げます。

  • 注意点1:「家族信託=節税対策」という過度な期待は禁物! 時折、「家族信託は節税になる」といった情報を見かけることがありますが、これは必ずしも正しくありません。家族信託の主な目的は、財産の円滑な管理・承継や、認知症対策、親なき後問題への対応などであり、直接的かつ大幅な節税効果を主目的とする制度ではありません。 もちろん、信託の設計次第では結果的に税負担が軽減されるケースも皆無ではありませんが、不適切な節税目的での信託利用は、税務当局から否認されるリスクも伴います。税金対策を考えるのであれば、その可否や方法について、必ず税理士に相談することが不可欠です。

  • 注意点2:受益者が変わるたびに課税の可能性(受益者連続型信託など) 例えば、当初の受益者(親)が亡くなった後、次の受益者(子)、さらにその子が亡くなった後は孫が受益者になるといった「受益者連続型信託」の場合、受益権が次の世代に移転するたびに、その時点での受益権の評価額に対して相続税または贈与税が課税される可能性があります。長期的な視点での税負担を考慮する必要があります。

  • 注意点3:「みなし贈与」「みなし相続」に注意 税法には、「みなし贈与」や「みなし相続」といった考え方があります。これは、形式的には贈与や相続でなくても、実質的に財産的価値の移転があったと認められる場合には、贈与税や相続税が課税されるというものです。家族信託の設計においても、このような「みなし課税」のリスクがないか、慎重な検討が必要です。

  • 注意点4:専門家(特に税理士)との連携は絶対不可欠! これまで述べてきたように、家族信託に関する税務は非常に複雑で、個別の契約内容、財産の種類や評価額、関係者の状況などによって、その取り扱いが大きく異なります。ご自身や、税務に詳しくない専門家だけの判断で進めることは極めて危険です。 必ず、家族信託の税務に精通した税理士に相談し、信託設計の段階から関与してもらい、適切なアドバイスと税務処理(申告・納税)のサポートを受けるようにしてください。

【簡略版】具体的なケースで見る税金のイメージ

少しでも具体的にイメージしていただくために、簡単なケースで税金がどう関わるかを見てみましょう(あくまで基本的なイメージであり、実際の課税関係は個別の詳細な状況によります)。

  • ケース1:父が委託者兼当初受益者、父の死亡により信託が終了し、長男が残余財産(自宅不動産)を取得する信託

    • 信託設定時:
      • 贈与税:父から父への財産移転なので、原則かかりません。
      • 不動産取得税:一定の要件を満たせばかからない可能性が高いです。
      • 登録免許税:信託登記のためにかかります。
    • 信託期間中(父が受益者):
      • 所得税:もし自宅を賃貸に出していれば、その家賃収入は父の所得となります。
      • 固定資産税:納税義務者は受託者ですが、実質負担は父(受益者)となるよう契約で定めます。
    • 信託終了時(父の死亡により長男が取得):
      • 相続税:長男が取得した自宅不動産の評価額が、父の相続財産として相続税の課税対象となります。
  • ケース2:祖父が委託者、父が受託者、孫が受益者として教育資金(金銭)の給付を受ける信託

    • 信託設定時:
      • 贈与税:孫が受益権(教育資金を受け取る権利)を取得するため、その評価額に対して孫に贈与税がかかる可能性があります。(ただし、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の要件を満たす場合は非課税となることもあります。)
    • 信託期間中:
      • 所得税:信託された金銭から運用益が生じ、それが孫に帰属する場合は、孫の所得となる可能性があります。
    • 信託終了時:
      • 信託契約の内容(残余財産の帰属先など)によって、相続税や贈与税が再度問題になることがあります。

税務面で行政書士ができること、そして限界

私たち行政書士は、家族信託の設計や契約書作成の専門家ですが、税金に関する業務には法律上の制限があります。

  • 行政書士ができること(税務関連):

    • 家族信託の目的やご家族の状況をお伺いし、どのような信託スキームが考えられるかをご提案する際に、一般的な税務上の影響について情報提供を行うこと。
    • 信頼できる税理士と連携し、信託設計の初期段階から税理士に相談する橋渡しをすること。
    • 税理士が適切な税務判断を行うために必要な、信託契約の内容に関する情報を提供すること。
  • 行政書士ができないこと(税理士法に抵触する行為):

    • 個別具体的な税額の計算や、節税に関する具体的なコンサルティングを行うこと。
    • 税務申告書の作成や、税務代理行為(税務署との交渉など)を行うこと。 これらは、税理士の独占業務であり、行政書士が行うことは法律で禁じられています。

したがって、家族信託における税務上の問題については、必ず税理士にご相談いただく必要があります。 私たち行政書士は、そのための適切な連携とサポートをさせていただきます。

まとめ:税金の理解は円滑な家族信託の第一歩。必ず税理士に相談を。

今回の「相続セミナー」では、家族信託に関わる税金の種類や基本的な考え方、そして注意点について解説してまいりました。

家族信託と税金は、切っても切れない密接な関係にあります。 その仕組みは複雑で、専門的な知識が不可欠ですが、基本的な考え方を理解しておくことは、安心して家族信託を進める上で非常に重要です。

そして何よりも強調したいのは、家族信託の税務については、必ず信託に詳しい税理士に相談するということです。自己判断や不確かな情報に基づいて進めてしまうと、後で思わぬ税負担が発生したり、税務署から指摘を受けたりするリスクがあります。適切な税務対応を行うことが、信託の目的を円滑に達成し、将来にわたるご家族の安心を守ることに繋がります。

「うちのケースでは、どんな税金がかかるのだろう?」「税金のことが心配で、なかなか踏み出せない…」 そのようなご不安をお持ちでしたら、まずは私たち行政書士にご相談ください。私たちは、信頼できる税理士と連携しながら、みなさまの家族信託が税務面でも適切に進められるよう、しっかりとサポートさせていただきます。

次回の「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」第31回相続セミナーでは、いよいよ第4部「相続手続きの実務と注意点」に入ります。その最初のテーマとして、「相続手続き、まず何から? ~戸籍収集と相続人調査の進め方~」をお届けする予定です。実際に相続が発生した際に、多くの方が最初につまずきやすい戸籍の収集と相続人の確定について、具体的な手順やポイントを分かりやすく解説します。どうぞご期待ください。

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