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相続セミナー第29回:家族信託の注意点とリスク ~設計・運用で気をつけること~

みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして民事信託(家族信託)に関する情報を、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。

前回の第28回相続セミナーでは、「家族信託の始め方」と題し、具体的なステップや契約書作成のポイント、信頼できる専門家選びの視点について解説いたしました。家族信託実現への第一歩を踏み出すための具体的なイメージが掴めたのではないでしょうか。

さて、これまで家族信託の多くのメリットや活用事例をご紹介してきましたが、どんな優れた制度にも「光」があれば「影」も存在します。家族信託も決して例外ではありません。その効果を最大限に引き出し、将来にわたって「やってよかった」と心から思える信託を実現するためには、事前にその注意点や潜在的なリスクを正しく理解し、適切な対策を講じておくことが不可欠です。

そこで今回の第29回では、「家族信託の注意点とリスク ~設計・運用で気をつけること~」というテーマで、家族信託を検討・利用する上で特に注意すべきポイントや、起こり得るリスク、そしてそれらにどう備えるべきかについて、詳しく掘り下げてまいります。

この記事を最後までお読みいただくことで、家族信託の「影」の部分も理解した上で、より安全で確実な信託設計・運用が可能になるはずです。

家族信託「設計段階」で特に注意すべき5つのポイント

家族信託の骨格を作る「設計段階」は、将来の成否を左右する最も重要な局面です。ここで見落としや誤りがあると、後々大きな問題に発展しかねません。

ポイント1:目的と信託財産のミスマッチを防ぐ

  • 曖昧な目的はNG: 「何となく将来が不安だから」といった曖昧な目的では、どのような財産を、誰に、どのように管理・承継させるべきかという具体的な設計ができません。信託の目的(例:認知症による資産凍結防止、障がいのある子の生活支援、円滑な事業承継など)を明確にすることが、適切な財産選定の第一歩です。
  • 適切な財産の選定: 必ずしも全財産を信託する必要はありません。目的に照らし合わせ、本当に信託すべき財産は何かを慎重に検討しましょう。例えば、生活費の確保が目的なら預貯金、不動産の管理なら当該不動産、といった具合です。
  • 信託になじまない財産も: 農地のように、法律で信託が制限されている財産もあります。また、借入金の担保になっている不動産などは、金融機関の承諾が必要になる場合があるため注意が必要です。

ポイント2:受託者選任の難しさとリスク

受託者は信託財産の管理・処分という重責を担うため、その選任は極めて重要です。

  • 求められる資質: 受託者には、財産管理能力、法律や税務に関する一定の知識、時間的な余裕、そして何よりも誠実さと責任感が求められます。
  • 親族受託者の課題: 信頼できるご家族が受託者となるケースは多いですが、その方が高齢であったり、専門知識が不足していたり、他の兄弟姉妹との間で感情的なしこりが生じたり、負担が重すぎたりするリスクも考慮しなければなりません。
  • 専門職受託者の課題: 弁護士や司法書士、信託会社などが受託者となる場合、専門性は高いですが、継続的な信託報酬が発生します。また、ご家族の細やかな想いを汲み取ってくれるか、相性が合うかといった点も重要です。
  • 受託者が欠けた場合の備え: 受託者が死亡したり、病気で任務遂行が困難になったり、あるいは辞任したりする可能性も考慮し、次の受託者(後継受託者)をあらかじめ定めておくか、選任方法を契約に明記しておくことが不可欠です。この備えがないと、信託が機能不全に陥る可能性があります。

ポイント3:受益者の権利保護とバランス

信託は受益者のために行われるものですから、その権利保護は最優先事項です。

  • 権利内容の明確化: 受益者がどのような利益(金銭給付、不動産の使用権など)を、いつ、どのように受けられるのか、その範囲と内容を信託契約書に明確に記載する必要があります。
  • 受託者の権限濫用防止: 受託者の権限が強大になりすぎると、受益者の意向が無視されたり、不利益を被ったりするリスクがあります。受託者の権限範囲を適切に定め、必要に応じて「信託監督人」や「受益者代理人」といった、受託者を監督・牽制したり、受益者の権利を代弁したりする役割の人を設置することも有効な対策です。

ポイント4:将来の状況変化への対応力不足

信託は長期にわたる契約となることが多いため、契約締結時には予測できなかった状況変化が起こり得ます。

  • 変化への備え: 関係者の高齢化、家族構成の変化(結婚、出産、死亡など)、受益者のニーズの変化、法令や税制の改正など、様々な変化が想定されます。
  • 硬直的な契約のリスク: あまりに厳格で融通の利かない契約内容にしてしまうと、こうした変化に対応できず、かえって不都合が生じる可能性があります。信託契約の変更や一部解約、終了に関する条件や手続きを、ある程度の柔軟性を持たせて定めておくことが望ましいでしょう。

ポイント5:遺留分への配慮不足による紛争リスク

特定の受益者に多くの財産が渡るような信託設計をした場合、他の相続人の遺留分(法律で保障された最低限の相続分)を侵害してしまう可能性があります。

  • 遺留分侵害額請求のリスク: 遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。これが信託財産に対して行われると、信託の目的達成に支障が出ることもあります。
  • 事前の対策: 信託を設計する際には、全相続人の遺留分を考慮し、可能な限り紛争の火種を残さないような財産配分を心がける必要があります。この点については、弁護士などの専門家にも相談し、慎重な検討が求められます。

家族信託「運用段階」で気をつけるべき4つのリスク

無事に信託契約を締結し、運用が開始された後も、安心はできません。運用段階においても、様々なリスクや注意点が存在します。

リスク1:受託者による義務違反のリスク

受託者は、法律や信託契約に基づき、様々な義務を負っています(善管注意義務、忠実義務、分別管理義務、帳簿作成・報告義務など)。

  • 義務違反の影響: これらの義務が果たされない場合、例えば、受託者が信託財産を私的に流用したり、不適切な管理で財産価値を損ねたり、受益者への報告を怠ったりすると、受益者に損害が生じ、信頼関係が崩壊する可能性があります。
  • 対策: 受託者自身がその責任と義務を十分に自覚することが大前提ですが、それだけでなく、信託契約の中で定期的な報告体制を明確に定めたり、信託監督人を選任して業務執行をチェックしたりすることが有効です。

リスク2:帳簿作成・税務申告の負担と誤り

信託財産の収支計算や帳簿の作成は、煩雑で専門的な知識も必要となる場合があります。

  • 税務の複雑さ: 信託に関する税務(受益者に対する所得税、信託財産にかかる固定資産税、信託終了時の相続税や贈与税など)は複雑であり、申告漏れや計算ミスが起こりやすいポイントです。
  • 対策: 帳簿作成や税務申告については、無理に受託者自身で行おうとせず、早い段階から税理士などの専門家のサポートを受けることを検討しましょう。

リスク3:受益者とのコミュニケーション不足による不信感

受託者が受益者の状況や意向を十分に把握せず、一方的な財産管理を行ったり、情報提供を怠ったりすると、受益者との間に不信感や誤解が生じ、紛争の原因となることがあります。

  • 対策: 受託者は、定期的に受益者と面談の機会を設けたり、信託財産の運用状況や収支について分かりやすく報告したりするなど、積極的なコミュニケーションを心がけることが重要です。

リスク4:信託財産の価値変動リスク

家族信託を設定したからといって、信託財産の価値が永続的に保証されるわけではありません。

  • 市場リスクなど: 不動産であれば地価の変動や災害リスク、株式であれば株価の変動リスクなど、市場環境や外部要因によって信託財産の価値が上下する可能性は常にあります。
  • 対策: 受託者は、信託契約で許容される範囲内で、専門家のアドバイスも参考にしながら、適切な資産管理・運用方針を検討する必要がありますが、過度なリスクテイクは避けるべきです。

リスクを最小限に抑え、安全な家族信託を実現するために

これまで述べてきたような注意点やリスクを前に、「家族信託はやっぱり難しいのでは…」と感じられたかもしれません。しかし、これらのリスクは、事前にしっかりと認識し、適切な対策を講じることで、その多くを回避したり、最小限に抑えたりすることが可能です。

そのための鍵となるのは、以下の3点です。

  1. 専門家との徹底した連携(設計から運用まで): 家族信託は、法務(行政書士、司法書士、弁護士)、税務(税理士)など、多岐にわたる専門知識が必要です。設計段階だけでなく、運用段階においても、必要に応じて各分野の専門家から継続的なアドバイスやサポートを受ける体制を整えることが、安全な信託運営には不可欠です。

  2. 当事者間の十分な理解と合意形成: 委託者、受託者、そして主要な受益者となる可能性のあるご家族が、信託の目的、内容、各自の役割や権利、そして潜在的なリスクについて、事前に十分に理解し、心から納得して合意していることが、将来の紛争を防ぐ最大の防波堤となります。

  3. 定期的な見直しとメンテナンスの実施: 一度作成した信託契約も、社会状況の変化やご家族のライフステージの変化などに応じて、定期的にその内容を見直し、必要であれば変更や調整を行うといった「メンテナンス」の視点を持つことが大切です。

それでも家族信託が有効な選択肢である理由

確かに、家族信託には注意すべき点やリスクも存在します。しかし、それらを理解し、専門家と共に適切な対策を講じることで、他の制度では実現が難しい、以下のような大きなメリットを享受できる可能性が高まります。

  • ご自身の意思を、より柔軟に、より長期的に反映させた財産管理・承継の実現。
  • 認知症などによる資産凍結リスクの回避。
  • 障がいのあるお子さんなど、支援が必要なご家族への継続的な生活支援。
  • 円滑な事業承継や、不動産の共有化防止。

リスクを恐れて何もしないのではなく、リスクを正しく理解し、それに賢く備えることこそが、真の「安心」への道ではないでしょうか。

家族信託のリスク管理における行政書士の役割

私たち行政書士は、家族信託の専門家として、単に契約書を作成するだけでなく、みなさまが安心して家族信託を活用できるよう、リスク管理の側面からも強力にサポートいたします。

家族信託の航海には、時に嵐も訪れるかもしれません。私たちは、その嵐を予見し、船が転覆しないよう安全な航路へと導く「熟練の航海士」としての役割を果たします。

  1. 潜在リスクの徹底的な洗い出しと対策のご提案: みなさまのご家族構成、財産状況、そして信託の目的に潜む可能性のあるリスクを、過去の事例や専門知識に基づいて多角的に洗い出します。そして、それぞれのスクに対して、どのような対策(契約条項の工夫、関係者の役割分担、専門家の活用など)を講じることができるのか、具体的な選択肢をご提案します。

  2. バランスの取れた「安全な信託契約書」の設計支援: 例えば、受託者の権限を適切に設定しつつ、受益者の権利もしっかりと保護する条項を盛り込んだり、将来の不測の事態に備えた柔軟な変更規定を設けたりするなど、リスクと効果のバランスを考慮した、堅牢かつ実用的な信託契約書の設計をサポートします。

  3. 受託者への義務の周知徹底と運用サポート: 受託者となられる方に対し、その法的義務や責任について分かりやすくご説明し、適切な任務遂行をサポートします。必要に応じて、帳簿作成の指導や、定期報告の雛形提供など、運用面でのアドバイスも行います。

  4. 関係専門家との連携による包括的なリスク管理体制の構築: 税務リスクについては税理士、法務紛争リスクについては弁護士、登記手続きについては司法書士といったように、それぞれの分野の専門家と緊密に連携を取りながら、信託全体のリスクを包括的に管理し、最小化するための体制づくりをお手伝いします。

私たちは、みなさまが家族信託のメリットを最大限に享受できるよう、潜在するリスクから目をそらさず、それらに真摯に向き合い、最善の解決策をご提案することをお約束します。

まとめ:リスクを知り、賢く備えることで、家族信託は真価を発揮する。

今回の「相続セミナー」では、家族信託を検討・利用する上での注意点や潜在的なリスク、そしてそれらへの対策について詳しく解説してまいりました。

家族信託は、決して「魔法の杖」ではありません。しかし、その特性と限界を正しく理解し、専門家と共に慎重な準備と設計、そして適切な運用を行うことで、他のどの制度にも代えがたい、大きな安心と希望をもたらしてくれる強力なツールとなり得ます。

大切なのは、リスクがあるからといって可能性を閉ざしてしまうのではなく、リスクを直視し、それをコントロールするための知恵と工夫を凝らすことです。そのプロセスを通じてこそ、ご自身とご家族の未来にとって本当に価値のある家族信託が実現できるのです。

「うちのケースでは、どんなリスクが考えられるだろう?」「そのリスクに、どう備えればいいのだろうか?」 もし、そのような具体的な疑問やご不安をお持ちでしたら、どうぞお気軽に専門家にご相談ください。専門家は、みなさまの状況に合わせた的確なアドバイスを提供し、安心して家族信託という選択肢を検討できるようサポートしてくれるはずです。

次回の「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」第30回相続セミナーでは、「家族信託にかかる税金 ~贈与税、相続税、所得税など~」というテーマでお届けします。家族信託を利用する際に避けては通れない「税金」の問題について、どのような種類の税金が、どのタイミングで、誰にかかってくるのか、基本的なポイントを分かりやすく解説する予定です。どうぞご期待ください。

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