
相続セミナー第31回 :相続手続き、まず何から? ~戸籍収集と相続人調査の進め方~
みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして民事信託(家族信託)に関する情報を、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。
前回の「相続セミナー特別編」では、本ブログの新章となる「第4部 相続手続きの実務と注意点」のスタートをご案内し、今後取り上げていくテーマの概要をお伝えいたしました。いよいよ今回からは、実際に相続が発生した際に直面する具体的な手続きについて、一つひとつ詳しく解説してまいります。
大切なご家族がお亡くなりになった直後は、深い悲しみとともに、葬儀や関係各所への連絡などで慌ただしい日々が続くことでしょう。そして、少し落ち着いた頃にふと、「相続の手続きって、一体何から手をつければいいのだろう…」という大きな戸惑いや不安に直面される方が少なくありません。
そこで、第4部の幕開けとなる今回の第31回では、全ての相続手続きの出発点であり、最も基本かつ重要なステップである「相続手続き、まず何から? ~戸籍収集と相続人調査の進め方~」というテーマでお届けします。
この記事を最後までお読みいただければ、なぜ相続人の調査が必要なのか、そのために不可欠な戸籍とは何か、そして膨大な戸籍をどのように集め、読み解いていくのか、その基本的な流れとポイントをご理解いただけるはずです。
なぜ「相続人調査」がすべての始まりなのか?
相続手続きを進めるにあたり、まず最初に行わなければならないのが、「誰が法的な相続人なのか」を正確に確定させることです。これを「相続人調査」または「相続人の確定」と呼びます。
なぜこれが最初で、かつ最も重要なのでしょうか。
- 後続の全手続きの前提となるため: 遺産分割協議(遺産の分け方の話し合い)は、相続人全員の参加がなければ法的に有効となりません。また、金融機関での預貯金の解約手続き、不動産の名義変更(相続登記)、相続放棄や限定承認の申述、さらには相続税の申告に至るまで、あらゆる相続手続きにおいて「正確な相続人の範囲」が明らかになっていることが大前提となります。
- 一人でも漏れや間違いがあれば大変なことに: もし、相続人調査が不十分で、一人でも法的な相続人が漏れていたり、逆に相続権のない人が相続人として扱われていたりした場合、後になってその事実が判明すると、既に行った遺産分割協議が無効になったり、金融機関や法務局での手続きを全てやり直さなければならなくなったりと、深刻なトラブルや多大な時間・費用のロスに繋がる可能性があります。
- 「家族だから分かっているつもり」は危険: 「うちは家族構成が単純だから、相続人は誰か分かっている」と思われるかもしれません。しかし、法律上の相続人の範囲は、ご自身が思っている以上に複雑な場合があります。例えば、被相続人(亡くなった方)に前妻(または前夫)との間に子がいた、認知した子がいた、養子縁組をしていた、あるいは本来相続人となるはずの子が既に亡くなっていてその子(被相続人から見て孫)が代わって相続する「代襲相続」が発生している、といったケースは決して珍しくありません。思い込みで進めてしまうことは非常に危険です。
したがって、客観的な公的書類に基づいて、法的に正確な相続人を一人残らず確定させることが、円満かつスムーズな相続手続きの第一歩であり、揺るがぬ土台となるのです。
相続人調査の鍵を握る「戸籍」とは何か?
相続人調査を行う上で、最も重要な公的書類が「戸籍(こせき)」です。
戸籍とは、日本国民の出生、結婚、離婚、養子縁組、死亡といった身分関係(親族関係)を登録し、公に証明するための制度です。個人の一生の重要な身分事項が記録されており、これを丹念に辿っていくことで、誰が被相続人の法的な相続人となるのかを明らかにすることができます。
相続人調査で主に関わってくる戸籍の種類には、以下のようなものがあります。
- 戸籍謄本(こせきとうほん)/全部事項証明書(ぜんぶじこうしょうめいしょ): その戸籍に入っている全員の身分事項が記載されている写しです。相続人調査では、原則としてこの謄本を使用します。
- 戸籍抄本(こせきしょうほん)/個人事項証明書(こじんじこうしょうめいしょ): その戸籍に入っている特定の一人または数人分の身分事項のみを抜粋した写しです。相続人調査では情報が不足するため、通常は使用しません。
- 除籍謄本(じょせきとうほん): 結婚や死亡などによって、その戸籍に記載されていた人が誰もいなくなった(全員が除かれた)状態の戸籍の写しです。被相続人が亡くなると、その方の戸籍は除籍となります。
- 改製原戸籍(かいせいげんこせき/はらこせき): 戸籍法が改正されると、戸籍の様式も変更されることがあります。その様式変更前の古い様式の戸籍のことを「改製原戸籍」と呼びます。「はらこせき」と読むこともあります。被相続人が生まれてから亡くなるまでの全ての身分関係を確認するためには、この改製原戸籍も漏らさず取得する必要があります。明治時代や大正時代に作られた手書きのものも多く、読解に苦労することもあります。
これらの戸籍を請求する際には、「本籍地(ほんせきち)」と「筆頭者(ひっとうしゃ)」の情報が必要になります。本籍地は戸籍が置かれている市区町村、筆頭者はその戸籍の最初に記載されている人の氏名です。
膨大な戸籍をどう集める?具体的な収集の手順
相続人調査のための戸籍収集は、多くの場合、1通や2通では済みません。特に被相続人が高齢で、かつて何度も転籍(本籍地を移すこと)を繰り返していたり、法改正による戸籍の改製が複数回あったりした場合には、10通以上に及ぶことも珍しくありません。
基本的な収集手順は以下の通りです。
手順1:亡くなった方(被相続人)の「出生から死亡まで」の連続した戸籍謄本等(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)を全て取得する。
- 死亡時の戸籍からスタート: まず、被相続人が亡くなった時点での本籍地を管轄する市区町村役場で、最新の戸籍謄本(多くは除籍謄本)を取得します。
- 一つ前の戸籍へ遡る: 取得した戸籍謄本には、その一つ前の戸籍(従前戸籍)の本籍地や筆頭者が記載されています(記載がない場合は、その戸籍が作られた経緯が記されています)。その情報を手がかりに、一つ前の本籍地を管轄する市区町村役場で、さらに古い戸籍謄本等を請求します。
- 出生まで繰り返す: この作業を、被相続人が出生した時点の戸籍にたどり着くまで、ひたすら繰り返します。途中で結婚による新戸籍の編製や、養子縁組、法改正による戸籍の改製など、様々な理由で戸籍が新しく作られたり、様式が変わったりしているため、根気強く遡っていく必要があります。
手順2:判明した相続人全員の「現在の戸籍謄本」を取得する。
被相続人の出生から死亡までの戸籍を全て集めると、配偶者や子供(養子も含む)、場合によっては父母や兄弟姉妹といった、相続人となる可能性のある人が判明してきます。 次に、これらの相続人候補者について、現在の生存状況や正確な身分関係を確認するために、それぞれの現在の本籍地で戸籍謄本(または抄本でも可の場合あり)を取得します。
- 相続人が既に亡くなっている場合: もし、相続人となるはずの子などが被相続人より先に亡くなっている場合は、その亡くなった相続人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本等も必要になります。これは、その亡くなった相続人に子(被相続人から見て孫など)がいれば、その子が代わって相続する「代襲相続」が発生する可能性があるためです。
<戸籍の請求方法>
- 請求できる人: 戸籍を請求できるのは、原則として、その戸籍に記載されている本人、その配偶者、直系尊属(父母、祖父母など)、直系卑属(子、孫など)に限られます。行政書士などの専門家は、委任状なしに職務上の権限で戸籍を請求すること(職務上請求)が認められています。
- 請求場所: 各戸籍の本籍地がある市区町村の役所(役場)の戸籍担当窓口です。
- 必要なもの(窓口請求の場合):
- 戸籍交付請求書(役所に備え付け)
- 請求者の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 手数料(1通あたり戸籍謄本は450円、除籍・改製原戸籍謄本は750円が標準)
- 関係を証明する書類(例えば、孫が祖父母の戸籍を請求する場合など、直系であることが請求者自身の戸籍で確認できない場合)
- 郵送での請求: 遠方の役所に対しても、郵送で戸籍を請求することができます。その場合は、上記に加えて、手数料分の定額小為替(郵便局で購入)と、返信用封筒(切手を貼付し、宛先を記入したもの)を同封します。
難解な戸籍を読み解く際のポイントと注意点
苦労して集めた戸籍も、それを正確に読み解けなければ意味がありません。特に古い戸籍は、手書きであったり、旧字体が使われていたり、独特の言い回しがされていたりするため、読解には慣れと専門知識が必要です。
- 身分事項のチェック: 「婚姻」「離婚」「養子縁組」「離縁」「認知」「死亡」「失踪宣告」といった身分事項の記載は、相続人の範囲や相続分に直接影響するため、細心の注意を払って確認します。
- 代襲相続の確認: 被相続人の子が被相続人より先に死亡している場合、その子に子(被相続人の孫)がいれば、その孫が代襲相続人となります。さらに孫も死亡していてひ孫がいれば再代襲、といった具合に確認が必要です。
- 養子の扱い: 普通養子縁組の場合、養子は養親と実親の両方の相続人となります。特別養子縁組の場合は、原則として実親との親族関係が終了するため、実親の相続人とはなりません。
- 非嫡出子と認知: 婚姻関係にない男女間に生まれた子(非嫡出子)も、父から認知されていれば、父の相続人となります。戸籍の認知欄の記載を確認します。
- 記載漏れや誤記の可能性: 極めて稀ですが、戸籍の記載に漏れや誤りがないとは限りません。疑問点があれば、役所に確認することも必要です。
相続人調査が完了したら行うこと:「相続関係説明図」の作成
全ての戸籍を収集し、相続人が確定したら、その結果を分かりやすくまとめた「相続関係説明図」を作成することをお勧めします。
これは、被相続人と各相続人の関係(続柄、生年月日、死亡年月日など)を家系図のように図示したもので、法務局での不動産の相続登記手続きや、金融機関での預貯金解約手続きなどの際に、大量の戸籍謄本一式の代わりに提出できる場合があり、手続きの簡略化と迅速化に役立ちます。また、相続人全員が相続関係を一覧で把握できるというメリットもあります。
戸籍収集と相続人調査における行政書士の役割とサポート
ここまでご説明してきたように、戸籍収集と相続人調査は、相続手続きの根幹をなす非常に重要な作業ですが、同時に多くの時間と手間、そして専門的な知識を要する煩雑な作業でもあります。
「戸籍を集める時間がない」「古い戸籍の読み方が分からない」「本当にこれで全ての相続人が確定できたのか不安」… そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ私たち行政書士にご相談ください。 行政書士は、みなさまに代わって、相続手続きの最初の関門である戸籍収集と相続人調査を、迅速かつ正確に行うお手伝いをいたします。
-
戸籍収集の代行(職務上請求): みなさまからのご依頼に基づき、行政書士は「職務上請求」という特別な権限を用いて、日本全国の市区町村役場から必要な戸籍謄本等を代理で収集することができます。これにより、みなさまが平日に役所へ出向いたり、遠方の役所に郵送請求したりする手間を大幅に省くことができます。
-
難解な戸籍の正確な読解と相続人の確定: 収集した戸籍謄本等を専門家の目で丹念に読み解き、法的に正確な相続人を一人残らず特定いたします。代襲相続や数次相続といった複雑なケースにも対応し、見落としのない確実な調査を行います。
-
「相続関係説明図」の作成: 調査結果に基づいて、法務局や金融機関等への提出にも耐えうる、正確かつ分かりやすい相続関係説明図を作成いたします。これにより、その後の相続手続きがよりスムーズに進むようサポートします。
-
相続手続き全般に関するご相談とアドバイス: 相続人調査の結果を踏まえ、今後の相続手続きの流れや、必要となる書類、注意点などについて、分かりやすくご説明し、みなさまの疑問や不安にお答えします。
行政書士は、法律と実務に精通した専門家として、客観的かつ法的に正確な相続人調査を行い、その後の円満な相続手続きの実現に向けた確かな土台作りをサポートすることをお約束します。
まとめ:正確な相続人調査は、円満な相続の礎。迷ったら専門家の力を。
今回の「相続セミナー」では、相続手続きの第一歩である「戸籍収集と相続人調査」の重要性と具体的な進め方について解説してまいりました。
正確な相続人の確定は、その後の全ての相続手続きを左右する、まさに「礎」となる作業です。 この最初のステップでつまずいてしまうと、後々大きなトラブルに発展しかねません。ご自身で進める場合は、時間と手間を惜しまず、慎重に、そして正確に行うことが何よりも大切です。
しかし、「時間がない」「手続きが複雑で分からない」「戸籍の量が膨大で手に負えない」と感じられた場合には、決して無理をせず、私たち行政書士のような専門家の力を借りることも、賢明な選択肢の一つです。専門家に依頼することで、時間的・精神的な負担を大幅に軽減し、より迅速かつ確実に手続きを進めることが可能になります。
次回の「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」第32回相続セミナーでは、「相続財産の調査と評価 ~財産目録の作成ポイント~」というテーマでお届けします。相続人が確定したら、次に行うべきは「何をどれだけ相続するのか」を明らかにする財産調査です。その具体的な方法や、分かりやすい財産目録の作成ポイントについて詳しく解説する予定です。どうぞご期待ください。