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相続セミナー第33回 :遺産分割協議の進め方 ~相続人全員の合意形成のために~

みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして民事信託(家族信託)に関する情報を、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。

前回の第32回相続セミナーでは、「相続財産の調査と評価 ~財産目録の作成ポイント~」と題し、亡くなった方(被相続人)が遺した財産を正確に把握し、その価値を評価する方法、そしてそれらを一覧にする財産目録の重要性について詳しく解説いたしました。相続財産の全体像が明確になることで、ようやく次のステップへと進む準備が整います。

さて、相続人が誰であるか確定し(第31回)、相続財産の内容も明らかになった(第32回)後、いよいよ相続手続きのクライマックスとも言える段階に入ります。それが「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」です。これは、相続人全員で、被相続人が遺した大切な財産を具体的にどのように分けるかを話し合い、合意を形成する非常に重要なプロセスです。

しかし、この遺産分割協議は、ご家族間の感情が複雑に絡み合い、最もデリケートで、時に「争族」の引き金にもなりかねない難しい局面でもあります。

そこで今回の第33回では、「遺産分割協議の進め方 ~相続人全員の合意形成のために~」というテーマで、この大切な話し合いを円満に進め、相続人全員が納得できる合意に至るための具体的な手順、心構え、そして押さえておくべきポイントについて、詳しくご説明してまいります。

この記事を最後までお読みいただければ、遺産分割協議をスムーズに進めるための羅針盤を手に入れ、無用な争いを避け、故人の想いを尊重した円満な解決を目指すための一助となるはずです。

遺産分割協議とは何か? なぜ必要なのか?

まず、「遺産分割協議」とは何か、その基本的な定義と必要性について確認しておきましょう。

遺産分割協議とは、被相続人が遺した相続財産について、共同相続人(法的に相続権を持つ人たち)全員が参加し、誰が、どの財産を、どのくらいの割合で取得するのかを具体的に話し合い、合意を形成することを指します。

  • 法定相続分と異なる分け方も可能: 法律では、相続人の組み合わせ(配偶者の有無、子の人数など)に応じて、各相続人が取得する目安となる「法定相続分」が定められています。しかし、遺産分割協議においては、必ずしもこの法定相続分通りに分けなければならないわけではありません。相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で財産を分けることも自由です。
  • 遺言書がない場合に不可欠: 被相続人が遺言書を遺していなかった場合、または遺言書はあっても、 उसमें全ての財産の分け方が具体的に指定されていなかった場合には、残された相続人がこの遺産分割協議によって分割方法を決定する必要があります。
  • 手続きを進めるための前提: 遺産分割協議で合意した内容をまとめた「遺産分割協議書」は、その後の預貯金の解約・名義変更、不動産の相続登記(名義変更)、株式の名義変更といった多くの相続手続きにおいて、必要不可欠な書類となります。つまり、協議がまとまらなければ、これらの手続きを進めることができません。
  • 「争族」を回避する最大の山場: 相続財産の分け方は、相続人間の利害が直接的に対立しやすいテーマです。この協議をいかに円満に進められるかが、無用な争いを避け、ご家族の絆を守る上で極めて重要となります。

遺産分割協議は、単に財産を分けるという事務的な作業ではなく、故人の想いを汲み取り、残された家族が新たなスタートを切るための大切な話し合いの場なのです。

遺産分割協議を始める前に、必ず確認すべき4つのこと

円滑な遺産分割協議を行うためには、事前の準備と確認が欠かせません。話し合いを始める前に、以下の4つのポイントを必ずチェックしましょう。

  1. 相続人の確定は完璧ですか?(最重要確認事項!) これは、第31回のセミナーでも詳しくお伝えしましたが、遺産分割協議は「相続人全員」の参加が絶対条件です。一人でも欠けていたり、逆に相続権のない人が参加していたりすると、その協議は法的に無効となってしまいます。戸籍謄本等を丹念に収集・読解し、法的に正確な相続人を一人残らず確定させていることが、全ての前提です。
  2. 相続財産の全容は正確に把握できていますか? 第32回のセミナーで解説した通り、プラスの財産(不動産、預貯金、有価証券など)だけでなく、マイナスの財産(借金、ローンなど)も含め、被相続人が遺した全ての財産を網羅的に調査し、その評価額を把握しておく必要があります。財産目録を作成し、相続人全員でその内容を共有することが、公平な話し合いの土台となります。
  3. 遺言書の有無とその内容は確認しましたか? 被相続人が遺言書を遺していた場合、原則としてその遺言書の内容が遺産分割よりも優先されます。まずは遺言書がないか、ある場合はその内容(自筆証書遺言の場合は家庭裁判所での「検認」手続きが必要な場合も)をしっかりと確認しましょう。
    • 遺言書で全ての財産の分け方が指定されていれば、原則として遺産分割協議は不要です。
    • 遺言書で指定されていない財産がある場合は、その財産についてのみ遺産分割協議を行います。
    • ただし、相続人全員と受遺者(遺言で財産を受け取る人)全員が合意すれば、遺言書の内容と異なる遺産分割を行うことも可能です。
  4. 相続人の中に未成年者や判断能力の不十分な方はいませんか? 相続人の中に未成年者がいる場合、その未成年者の代理として親権者が協議に参加しますが、親権者自身も相続人である場合(例えば、母と未成年の子が相続人となるケース)は、利益が相反するため、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。また、相続人に認知症などで判断能力が不十分な方がいる場合は、「成年後見人」などの法定代理人が協議に参加することになります。これらの手続きには時間がかかる場合があるため、早めに確認し、対応することが重要です。

これらの事前確認を怠ると、協議が無駄になったり、後々大きなトラブルに発展したりする可能性があります。

円満な遺産分割協議を進めるための「7つの黄金律」

いよいよ遺産分割協議の本番です。ここでは、話し合いをできるだけ円満に進め、相続人全員が納得できる合意に至るための「7つの黄金律」をご紹介します。

黄金律1:相続人全員が参加する(欠席者は委任状で対応)

前述の通り、遺産分割協議は相続人全員の参加が絶対条件です。遠方に住んでいたり、仕事の都合でどうしても直接参加できない相続人がいる場合は、他の相続人や弁護士などに協議への参加と意思決定を委任する「委任状」を作成し、代理人を立てることで対応できます。

黄金律2:冷静かつ建設的な話し合いを心がける

相続の話し合いは、時に感情的になりやすいものです。しかし、過去の不満や個人的な感情を持ち出すことは避け、故人の冥福を祈り、残された家族が今後も良好な関係を築いていくことを第一に考え、冷静かつ建設的な態度で臨むことが大切です。お互いの意見を尊重し、真摯に耳を傾ける姿勢が求められます。

黄金律3:「法定相続分」は絶対ではない、あくまで目安と理解する

法律で定められた「法定相続分」は、あくまで遺産分割の目安の一つです。これに固執しすぎると、話し合いが進まなくなることがあります。被相続人の生前の意思(遺言がない場合でも、その想いを推し量る)、各相続人の生活状況や経済状況、被相続人への貢献度(寄与分)、生前に受けた援助(特別受益)などを総合的に考慮し、相続人全員が納得できるような、柔軟な分割を目指しましょう。

黄金律4:「特別受益」と「寄与分」を適切に考慮に入れる

  • 特別受益(とくべつじゅえき): 相続人の中に、被相続人から生前に住宅購入資金の援助や、事業資金の提供、多額の学費の援助といった特別な利益(贈与)を受けていた人がいる場合、それを相続財産の前渡しとみなし、その分を差し引いて相続分を計算することで、相続人間の公平を図る制度です。
  • 寄与分(きよぶん): 被相続人の事業に無償で貢献したり、長期間にわたり療養看護を行ったりするなどして、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした相続人がいる場合に、その貢献度に応じて相続分を増やす制度です。 これらは、具体的な金額の算定が難しく、相続人間で意見が対立しやすいポイントでもあります。客観的な資料(贈与の証拠、介護記録など)を基に、冷静に話し合うことが重要です。

黄金律5:様々な「分割方法」のメリット・デメリットを検討する

遺産の分け方には、いくつかの方法があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、相続財産の種類や各相続人の希望に応じて、最適な方法を選択しましょう。 * 現物分割(げんぶつぶんかつ): 不動産は長男に、預貯金は長女に、株式は次男に、というように、個々の財産をそのままの形で分ける方法です。最もシンプルですが、各財産の価値が異なるため、完全に公平に分けるのが難しい場合があります。 * 代償分割(だいしょうぶんかつ): 特定の相続人が不動産や自社株といった分けにくい財産を相続する代わりに、その相続人が他の相続人に対して、相続分に応じた金銭(代償金)を支払う方法です。財産を現物のまま残したい場合に有効ですが、代償金を支払う側の資力が必要となります。 * 換価分割(かんかぶんかつ): 不動産などの相続財産を売却して現金に換え、その現金を相続分に応じて分配する方法です。公平に分けやすいですが、売却の手間や費用がかかり、また、思い入れのある財産を手放すことになります。 * 共有分割(きょうゆうぶんかつ): 不動産などを、複数の相続人の共有名義とする方法です。一見、公平に見えますが、前回のセミナーでも触れたように、将来的に売却や管理で意見が対立したり、さらに相続が発生して共有者が増えたりするリスクがあるため、できる限り避けるべきとされる分割方法です。

黄金律6:協議がまとまったら、必ず「遺産分割協議書」を作成する

口頭での合意だけでは、後になって「言った、言わない」のトラブルが生じる可能性があります。協議で合意した内容は、必ず「遺産分割協議書」という書面にまとめ、相続人全員が内容を確認した上で署名し、実印を押印しましょう。この遺産分割協議書が、その後の不動産の相続登記や預貯金の解約手続きなどにおいて、法的に有効な証拠書類となります。(遺産分割協議書の具体的な作成方法については、次回のセミナーで詳しく解説します。)

黄金律7:期限を意識しつつも、焦らず、じっくりと話し合う

相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)などを考慮すると、あまり悠長にはしていられませんが、だからといって焦って結論を出すのは禁物です。特に感情的なしこりが残るような合意は、将来に禍根を残します。必要であれば、複数回に分けて話し合いの場を設けたり、第三者(専門家など)に間に入ってもらったりすることも検討しましょう。

話し合いがどうしてもまとまらない場合は?

相続人全員が努力しても、残念ながら遺産分割協議がまとまらないケースもあります。そのような場合は、以下の法的な手続きを利用することになります。

  1. 家庭裁判所の「遺産分割調停」: 相続人の一人または複数人が家庭裁判所に申し立てを行い、調停委員(通常は弁護士と一般市民から選ばれた学識経験者)が中立的な立場で間に入り、各相続人の意見を聞きながら、話し合いによる合意を目指す手続きです。あくまで話し合いなので、強制力はありません。
  2. 家庭裁判所の「遺産分割審判」: 調停でも合意に至らなかった場合、または調停を経ずに最初から審判を申し立てた場合に、家庭裁判所の裁判官(家事審判官)が、一切の事情を考慮して、法律に基づき遺産の分割方法を決定する手続きです。審判には法的拘束力があり、相続人はその内容に従わなければなりません。

ただし、調停や審判は、時間も費用もかかり、何よりもご家族間の感情的な対立を深めてしまう可能性があります。できる限り、相続人同士の話し合い(協議)によって円満に解決することが望ましいと言えるでしょう。

遺産分割協議における行政書士の役割とサポート

私たち行政書士は、遺産分割協議そのものを代理して交渉する権限はありません(これは弁護士の業務領域です)。しかし、円満な遺産分割協議を実現するための前提作りや、合意形成のサポート、そして合意内容の法的な文書化において、みなさまのお力になることができます。

遺産分割協議は、いわば「家族の未来を描く設計会議」です。私たちは、その会議が円滑に進むための「環境整備」と「議事録作成」の専門家として、以下のサポートを提供します。

  1. 協議の前提となる正確な資料作成のサポート:

    • 遺産分割協議に不可欠な「相続人調査(戸籍収集)」と「相続財産調査・財産目録作成」を、専門家として正確かつ迅速に行い、協議の土台となる客観的な資料をご提供します。
  2. 遺産分割協議の進め方に関する中立的なアドバイス:

    • どのように話し合いを進めればよいか、どのような分割方法が考えられるか、それぞれのメリット・デメリットは何か、といった点について、法的な観点から中立的な立場で情報提供やアドバイスを行います。
  3. 各相続人の意向整理と円満な合意形成の促進サポート:

    • 直接的な交渉代理はできませんが、各相続人のお考えやご希望を丁寧にヒアリングし、それを整理して他の相続人に伝えたり、誤解が生じないようコミュニケーションの橋渡しをしたりすることで、円満な合意形成を側面からサポートします。(ただし、利害が対立している場合は弁護士への相談をお勧めします。)
  4. 法的に有効な「遺産分割協議書」の作成支援:

    • 相続人全員の合意が得られた内容に基づき、その後の手続き(不動産登記、預貯金解約など)にスムーズに使用できる、法的に有効で、かつ将来の紛争を予防するための明確な遺産分割協議書を作成(またはその案を作成)します。
  5. 他の専門家との適切な連携:

    • 協議がまとまらず調停や審判に進む必要がある場合には弁護士を、相続税の申告が必要な場合には税理士を、不動産登記が必要な場合には司法書士を、といったように、それぞれの専門分野に応じて、信頼できる専門家とスムーズに連携し、みなさまをサポートします。

行政書士は、みなさまが感情的な対立を避け、故人の遺志と残されたご家族全員の幸福を考えた、最善の結論に到達できるよう、親身になってお手伝いすることをお約束します。

まとめ:遺産分割協議は「心の整理」と「未来への準備」。尊重と対話が鍵。

今回の「相続セミナー」では、相続手続きの最大の山場である「遺産分割協議の進め方」について、その重要性、事前準備、円満に進めるためのポイント、そして難航した場合の対処法などを詳しく解説してまいりました。

遺産分割協議は、単に財産を分けるだけの作業ではありません。それは、故人との思い出や感謝の気持ちを胸に、残された家族がそれぞれの想いを共有し、お互いを尊重し合いながら、未来に向けて新たな一歩を踏み出すための、いわば「心の整理」と「未来への準備」の機会なのです。

そのためには、何よりも相続人全員が協力し、お互いの立場や気持ちを理解しようと努める「尊重」と「対話」の精神が不可欠です。そして、時には感情的になりそうな場面でも、冷静さを保ち、建設的な解決を目指す努力が求められます。

もし、ご自身たちだけでの話し合いが難しいと感じられたり、法的な知識に不安があったりする場合には、決して一人で悩まず、私たち行政書士のような専門家を上手に活用することも考えてみてください。専門家は、みなさまが納得のいく円満な結論に到達できるよう、客観的な立場からサポートを提供してくれるはずです。

次回の「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」第34回相続セミナーでは、「遺産分割協議書の作り方 ~法的効力と記載事項~」というテーマでお届けします。遺産分割協議で合意した大切な内容を、法的に有効な証拠として残し、その後の手続きをスムーズに進めるための「遺産分割協議書」の具体的な作成方法や、必ず記載すべき事項、注意点について詳しく解説する予定です。どうぞご期待ください。

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