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相続セミナー第35回 :相続放棄の手続きと注意点 ~期限と必要書類~

みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして民事信託(家族信託)に関する情報を、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。

前回の第34回相続セミナーでは、「遺産分割協議書の作り方」と題し、相続人全員の大切な合意を法的に有効な形で残すためのポイントについて詳しく解説いたしました。正確な協議書は、円満な相続の証となり、その後の手続きをスムーズに進めるために不可欠です。

さて、相続というと、多くの方が不動産や預貯金といったプラスの財産を受け継ぐことをイメージされるかもしれません。しかし、相続はそれだけではありません。亡くなった方(被相続人)が遺した借金やローン、誰かの保証人になっていたといったマイナスの財産(債務)も、原則として相続人が引き継ぐことになるのです。

もし、プラスの財産よりも明らかにマイナスの財産の方が多い場合、あるいは相続争いに巻き込まれたくない場合など、「相続したくない」と考えるのは当然のことでしょう。そのような場合に用意されている法的な選択肢の一つが、今回取り上げる「相続放棄(そうぞくほうき)」です。

今回の第35回では、「相続放棄の手続きと注意点 ~期限と必要書類~」というテーマで、この相続放棄とはどのような制度なのか、どのような場合に検討すべきなのか、そして何よりも重要な手続きの期限や必要書類、注意すべき点について、詳しくご説明してまいります。

この記事を最後までお読みいただければ、相続放棄という重要な権利について正しい知識を身につけ、万が一の際に適切な判断と行動ができるようになるはずです。

相続放棄とは何か? なぜ必要な場合があるのか?

まず、「相続放棄」とは何か、その基本的な定義と、どのような場合に利用が検討されるのかについてご説明します。

相続放棄とは、相続人が、被相続人のプラスの財産(不動産、預貯金など)もマイナスの財産(借金、保証債務など)も一切相続しない(受け継がない)と法的に意思表示し、その結果、初めから相続人でなかったことになる制度です。

この相続放棄は、主に以下のような場合に検討されます。

  1. 被相続人に多額の借金がある場合: 調査の結果、被相続人が遺したプラスの財産よりも、借金やローンといったマイナスの財産の方が明らかに多いことが判明した場合、相続してしまうと相続人がその借金を背負うことになります。このような事態を避けるために相続放棄が選択されます。
  2. 被相続人が誰かの連帯保証人になっていた場合: 被相続人が他人の借金の連帯保証人になっていた場合、その保証債務も相続の対象となります。主債務者が返済できなくなれば、相続人が代わりに返済義務を負うことになるため、相続放棄を検討する重要な理由となります。
  3. 特定の相続人に財産を集中させたい場合(間接的な効果): 例えば、家業を継ぐ長男に全ての財産を集中させたいと他の兄弟姉妹が考えた場合、その兄弟姉妹が相続放棄をすることで、結果的に長男の相続分が増えることになります(ただし、この目的のためだけであれば、遺産分割協議でその旨を合意する方が一般的ですし、相続放棄をすると次順位の相続人に権利が移る点にも注意が必要です。また、贈与税などの問題も別途考慮が必要な場合があります)。
  4. 相続争いに巻き込まれたくない、縁の薄い親族の相続に関わりたくない場合: 相続人間の関係が複雑で、遺産分割協議が難航することが予想される場合や、ほとんど付き合いのなかった遠い親戚の相続に関わりたくないといった場合に、相続放棄を選択することで、それらの煩わしさから解放されるという側面もあります。

相続放棄をすると、その人は法的に「初めから相続人でなかったもの」とみなされます。そのため、その人が相続するはずだった財産も債務も、他の相続人に引き継がれるか、または次の順位の相続人に相続権が移ることになります(例えば、子が全員相続放棄をすると、被相続人の父母(第二順位)が相続人となります)。相続放棄によって代襲相続(子が放棄した場合に孫が相続すること)は発生しない点も重要なポイントです。

最も重要!「3ヶ月の熟慮期間」という厳格な期限

相続放棄を検討する上で、何よりもまず知っておかなければならないのが、「熟慮期間(じゅくりょきかん)」と呼ばれる厳格な期限の存在です。

熟慮期間とは、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から原則として3ヶ月以内と定められています。この期間内に、相続人は、単純承認(全て相続する)、限定承認(プラスの財産の範囲でマイナスを相続する)、または相続放棄のいずれかを選択し、相続放棄または限定承認の場合は家庭裁判所にその旨を申述(申し立て)しなければなりません。

  • 起算点(いつから3ヶ月か): 「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、一般的には、①被相続人が亡くなった事実を知り、かつ、②自分がその相続人であることを知った時、と解釈されます。
  • 期間の伸長: 相続財産の調査に時間がかかり、3ヶ月以内に相続放棄等の判断ができないといったやむを得ない事情がある場合には、熟慮期間が満了する前に家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間伸長」の申立てを行うことで、期間を延長してもらえる場合があります。
  • 熟慮期間を過ぎてしまったら?: この3ヶ月の熟慮期間内に何の手続きもしないでいると、原則として「単純承認」したものとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続することになってしまいます。つまり、相続放棄ができなくなってしまうのです。

この「3ヶ月」という期限は非常に短く、あっという間に過ぎてしまいます。相続が発生したら、まずは財産調査を急ぎ、相続放棄の必要性があるかどうかを早急に検討し始めることが極めて重要です。

相続放棄の手続きの流れと主な必要書類

相続放棄は、単に「相続しません」と口頭で伝えたり、他の相続人に書面を渡したりするだけでは法的な効力は生じません。必ず、家庭裁判所に対して正式な「申述」の手続きを行う必要があります。

主な手続きの流れと必要書類は以下の通りです。

  1. 申述先の家庭裁判所の確認: 相続放棄の申述は、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。

  2. 必要書類の収集と相続放棄申述書の作成: 一般的に必要となる書類は以下の通りですが、事案によって(申述人と被相続人との関係などによって)追加の書類が必要となる場合がありますので、事前に申述先の家庭裁判所に確認することをお勧めします。

    • 相続放棄申述書: 家庭裁判所の窓口やウェブサイトから入手できます。申述人(相続放棄をする人)が記入します。
    • 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票): 被相続人の最後の住所地を確認するために必要です。
    • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本: 被相続人の死亡と、相続関係の基礎となる戸籍です。
    • 申述人(相続放棄をする人)の戸籍謄本: 申述人が被相続人の相続人であることを証明するために必要です。
    • 収入印紙: 申述書1通につき800円分(令和7年5月現在。変更される可能性あり)を申述書に貼付します。
    • 連絡用の郵便切手: 家庭裁判所から連絡を受けるために必要な額の郵便切手を納めます(金額は裁判所によって異なります)。
    • 【申述人が被相続人の子または孫(代襲相続人)の場合の追加書類例】
      • 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
      • 被相続人の子が既に死亡している場合は、その死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
    • 【申述人が被相続人の父母・祖父母などの直系尊属の場合の追加書類例】
      • 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
      • 被相続人の子が既に死亡している場合は、その子の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
      • 被相続人の直系尊属で死亡している方がいれば、その方の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本
    • 【申述人が被相続人の兄弟姉妹または甥姪(代襲相続人)の場合の追加書類例】
      • 上記に加えて、被相続人の父母の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本など、非常に多くの戸籍が必要となる場合があります。
  3. 家庭裁判所への申述書の提出: 収集した必要書類を添えて、相続放棄申述書を管轄の家庭裁判所に提出します(郵送も可)。

  4. 家庭裁判所からの照会・回答(必要な場合): 申述後、家庭裁判所から申述人に対し、「相続放棄照会書」または「回答書」といった名称の書類が郵送されてくることがあります。これは、相続放棄が本当に申述人の真意に基づくものか、相続財産を処分していないかなどを確認するための質問状です。これに対し、誠実に、かつ正確に回答し、返送する必要があります。

  5. 「相続放棄申述受理通知書」の受領: 家庭裁判所が相続放棄の申述を正式に受理すると、「相続放棄申述受理通知書」という書面が申述人に送付されます。この通知書が、相続放棄が法的に認められたことを証明する大切な書類となります。債権者から支払いを求められた際に提示したり、他の相続人が不動産登記などの手続きを進める際に必要となったりする場合があるため、紛失しないよう大切に保管しましょう。場合によっては、「相続放棄申述受理証明書」の交付を別途申請することもできます。

相続放棄をする上で絶対にやってはいけないこと・注意点

相続放棄は、一度受理されると原則として撤回できない重大な法的手続きです。そのため、以下の点には特に注意が必要です。

  • 注意点1:相続財産を一部でも処分・隠匿・消費しないこと!(法定単純承認) 相続放棄を検討しているにもかかわらず、被相続人の預貯金を引き出して自分のために使ってしまったり、不動産を売却してしまったり、価値のある遺品を勝手に持ち帰ってしまったり(形見分けとして社会通念上相当な範囲を超える場合)すると、**「法定単純承認」**といって、相続を承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。相続財産には一切手を付けないのが原則です。 (ただし、被相続人の葬儀費用を相続財産から支払うことについては、社会通念上相当な範囲内であれば許容されるケースが多いですが、高額な葬儀や仏壇・墓石の購入などは慎重な判断が必要です。)

  • 注意点2:借金の取り立てに安易に応じない・一部でも返済しない! 被相続人の債権者から借金の返済を求められても、相続放棄を検討している間は、安易に一部でも返済したり、支払いを約束したりしないようにしましょう。これも単純承認とみなされるリスクがあります。相続放棄の手続き中である旨を伝え、家庭裁判所からの受理通知書が届き次第、提示する旨を伝えるのが適切な対応です。

  • 注意点3:全ての相続人が放棄した場合の財産管理の問題 相続人となるべき人全員が相続放棄をした場合、相続財産を管理する人がいなくなってしまいます。このような場合、債権者などの利害関係人や検察官の申立てにより、家庭裁判所が「相続財産清算人(旧:相続財産管理人)」を選任し、その清算人が相続財産を換価・清算し、債権者への支払いや国庫への帰属といった手続きを行うことになります。この清算人の選任には費用(予納金)がかかる場合があります。

  • 注意点4:相続放棄は原則として撤回できない! 家庭裁判所に相続放棄の申述が受理された後は、たとえ後から多額のプラスの財産が見つかったとしても、原則としてその相続放棄を撤回することはできません(ただし、詐欺や強迫によって意思に反して放棄させられた場合など、極めて例外的な状況では取消しが認められる余地はあります)。したがって、相続放棄をするかどうかの判断は、財産調査をしっかり行った上で、極めて慎重に行う必要があります。

  • 注意点5:次の順位の相続人に影響が及ぶことへの理解と配慮 例えば、被相続人の子(第一順位相続人)全員が相続放棄をすると、相続権は被相続人の父母(第二順位相続人)に移ります。父母も既に亡くなっているか放棄すれば、被相続人の兄弟姉妹(第三順位相続人)へと移っていきます。自分が相続放棄をすることで、他の親族に相続権が移り、その親族が意図せず借金を背負うことになる可能性も考慮し、必要に応じて事前に連絡を取り、状況を説明するといった配慮が望ましい場合もあります。

相続放棄をしても受け取れる可能性のあるもの(生命保険金など)

相続放棄をすると全ての財産を受け取れないのが原則ですが、例外的に受け取れる可能性のあるものもあります。代表的なものが、受取人が具体的に指定されている生命保険金や死亡退職金です。

これらは、民法上は相続財産ではなく、受取人固有の財産と解釈されるため、相続放棄をしても受け取ることができるのが一般的です。ただし、保険契約の内容(例えば、受取人が「被相続人」本人と指定されている場合など)によっては相続財産として扱われるケースもありますし、相続税法上は「みなし相続財産」として課税対象になる点は別途注意が必要です。

相続放棄手続きにおける行政書士の役割とサポート

相続放棄の手続きは、厳格な期限があり、必要書類も多く、ご自身で行うには不安を感じる方も少なくないでしょう。私たち行政書士は、相続放棄を検討されている方に対し、以下のようなサポートをご提供できます。

相続放棄という重要な決断を、法的な知識と実務経験に基づき、的確にサポートするのが私たちの役割です。

  1. 相続放棄の判断材料となる財産調査のサポート:

    • 相続放棄をすべきかどうかの適切な判断のためには、まず被相続人の財産状況(プラスの財産とマイナスの財産)を可能な限り正確に把握することが不可欠です。そのための調査方法や必要書類の収集についてアドバイスし、サポートいたします。
  2. 複雑な戸籍収集の代行(職務上請求):

    • 相続放棄の申述には、多くの戸籍謄本等が必要となります。特に、次順位の相続人への影響を考慮する場合など、広範囲な戸籍収集が必要になることもあります。行政書士は職務上の権限でこれらの戸籍を代理で収集し、みなさまの負担を軽減します。
  3. 「相続放棄申述書」作成の支援:

    • 家庭裁判所に提出する相続放棄申述書の作成を支援いたします。記載内容に不備がないよう、正確な書類作成をお手伝いします。
  4. 家庭裁判所からの照会書への対応に関するアドバイス:

    • 家庭裁判所から送られてくる照会書(質問状)に対し、どのように回答すればよいか、その内容について適切なアドバイスをいたします。
  5. 手続き全体の流れの説明と期限管理の注意喚起:

    • 相続放棄手続きの全体像をご説明し、特に重要な「3ヶ月の熟慮期間」を徒過しないよう、期限管理の重要性について注意を促します。

ただし、行政書士は家庭裁判所への代理人として申述行為を行うことや、相続放棄に関する法的な判断が争点となるような紛争性のある案件を取り扱うことはできません。そのような場合は、弁護士にご相談いただくことになります。私たちは、必要に応じて信頼できる弁護士をご紹介することも可能です。

まとめ:相続放棄は重要な権利。正しい知識で期限内に適切な判断を。

今回の「相続セミナー」では、相続放棄の手続きの流れ、必要書類、そして特に注意すべき点について詳しく解説してまいりました。

相続放棄は、予期せぬ多額の借金などからご自身を守るための、法律で認められた重要な権利です。 しかし、その行使には「3ヶ月の熟慮期間」という厳格な期限があり、一度受理されると原則として撤回できないという重大な効果を伴います。

したがって、相続放棄をするかどうかの判断は、決して安易に行うべきではありません。まずは被相続人の財産調査を可能な限り迅速かつ正確に行い、プラスの財産とマイナスの財産を比較検討した上で、慎重に判断することが求められます。

「期限が迫っているのに、どうすればいいか分からない…」「書類の集め方や書き方が難しくて…」 もし、そのようなご不安やお悩みをお持ちでしたら、どうか一人で抱え込まず、私たち行政書士のような専門家にご相談ください。正しい知識と適切な手続きで、みなさまが最善の選択をするためのお手伝いをさせていただきます。

次回の「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」第36回相続セミナーでは、「限定承認とは? ~プラスの財産の範囲で借金を返済する方法~」というテーマでお届けします。相続放棄とは異なるもう一つの選択肢「限定承認」について、その仕組みやメリット・デメリット、手続きの概要などを詳しく解説する予定です。どうぞご期待ください。

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