
相続セミナー第2回: 相続はいつ、どのように始まる? ~死亡から手続き開始までの流れ~
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「親の万が一のこと、考えたくないけど、いつかは向き合わないといけない…」「もしもの時、相続って、何からどうなるの?」
40代、50代の働き盛りの皆さんにとって、ご自身の親御様の相続は、現実的な問題として意識され始める時期かもしれません。しかし、いざその時が来ると、深い悲しみの中で、煩雑な手続きに戸惑う方も少なくありません。
「相続」という言葉は知っていても、具体的に「いつ」「何が」始まり、「何を」「どのように」進めていけば良いのか、はっきりとは分からないという方も多いのではないでしょうか。
このブログ記事では、相続が開始する瞬間から、最初に行うべき公的な手続き、そして本格的な相続手続きが始まるまでの基本的な流れを、ステップごとに分かりやすく解説します。また、これらの過程で、皆様の身近な法律家である行政書士が、どのように皆様のお力になれるのかについても、具体的にお伝えしていきます。
この記事を通じて、相続開始から手続き着手までの見通しを立てていただき、少しでも皆様の不安が和らげられれば幸いです。
相続の開始:それは「人の死」という事実
まず、相続が「いつ」始まるのか。これは法律で明確に定められています。民法第882条には「相続は、死亡によって開始する。」とあります。つまり、ある人が亡くなられた瞬間に、その方の財産や権利義務(借金なども含む)は、法律で定められた相続人に引き継がれるプロセスがスタートするのです。
この「死亡」は、医師による死亡確認がなされた時を指します。また、長期間行方不明で生死が不明な場合などに、家庭裁判所が審判を下す「失踪宣告」によっても、法律上死亡したとみなされ、相続が開始することがあります。
多くの場合、ご家族が亡くなられた悲しみと同時に、相続という法的なプロセスが自動的に動き出す、ということをまずはご理解ください。
命の灯が消えた直後:まず行うべきこと
ご家族が亡くなられた直後は、深い悲しみに加え、葬儀の準備などで慌ただしい日々が続きます。しかし、その中でも期限が定められている重要な手続きがいくつかあります。
- 死亡診断書(または死体検案書)の受領
- これは何?: 医師が作成する、法的に死亡を証明する書類です。病院で亡くなられた場合は「死亡診断書」、ご自宅での突然死や事故死などで警察の検案があった場合は「死体検案書」という名称になります。
- なぜ必要?: この後の死亡届の提出や、生命保険金の請求、年金の手続きなど、多くの場面で必要となる基本の書類です。
- どこで受け取る?: 故人が亡くなられた病院の医師、または検案を行った警察から交付されます。
- ポイント: 必ず複数枚コピーを取っておきましょう。原本は死亡届と一緒に役所に提出することが一般的です。
- 死亡届の提出(故人の死亡を知った日から7日以内)
- これは何?: 故人の死亡の事実を市区町村役場に届け出て、戸籍に死亡の記載をしてもらうための手続きです。これにより、故人は戸籍から除かれ(除籍)、法的に死亡が確定します。
- 期限は?: 国内で死亡した場合、死亡の事実を知った日から7日以内。国外で死亡した場合は3ヶ月以内です。期限を過ぎると過料が科される場合があるので注意が必要です。
- どこへ提出?: 故人の本籍地、死亡地、または届出人の所在地のいずれかの市区町村役場です。
- 誰が届け出る?: 親族、同居者、家主、家屋管理人など。実際には、葬儀社が代行してくれる場合も多いです。
- 必要なものは?: 死亡診断書(または死体検案書)、届出人の印鑑(認印で可)、届出人の本人確認書類(運転免許証など)。
- 行政書士のサポート: 死亡届の書き方が分からない、忙しくて役所に行く時間がないといった場合、行政書士は書類作成のアドバイスや、事情によっては提出代行に関するご相談(※業際問題に配慮し、可能な範囲で)に応じることができます。
- 火葬許可証(埋火葬許可証)の受領
- これは何?: 故人のご遺体を火葬するために必須となる許可証です。
- どうやって?: 通常、死亡届を提出する際に、役所の窓口で同時に申請し、交付を受けます。
- そのあとは?: 火葬場で火葬が終わると、火葬執行済みの印が押されて返却されます。これが「埋葬許可証(納骨許可証)」となり、お墓に納骨する際に必要となります。紛失しないよう、大切に保管しましょう。
これらの手続きは、葬儀社が主導してサポートしてくれることが多いですが、ご自身でも流れを把握しておくことが、後々の混乱を防ぐために大切です。
葬儀を終えて一息…でも、まだやるべき手続きが
葬儀が終わり、少しだけ気持ちに区切りがついた頃、故人に関する社会的な手続きを進める必要があります。これらは相続そのものではありませんが、故人の権利関係を整理し、遺族が不利益を被らないようにするために重要です。
- 年金受給停止の手続きと未支給年金の請求
- 何を止める?: 故人が年金(国民年金、厚生年金など)を受給していた場合、その支給を止める手続きが必要です。そのままにしておくと、過払いが発生し、後日返還を求められることになります。
- 期限は?: 厚生年金は死亡後10日以内、国民年金は死亡後14日以内とされていますが、できるだけ速やかに行いましょう。
- どこへ?: 年金事務所または街角の年金相談センターです。
- 未支給年金とは?: 故人が受け取るはずだったけれど、亡くなったために受け取れなかった年金がある場合、生計を同じくしていた遺族が請求できることがあります。これも併せて手続きします。
- 行政書士のサポート: 年金の手続きは種類も多く、必要書類も複雑です。行政書士は、これらの書類作成のサポートや、手続きに関するアドバイス(社会保険労務士法に抵触しない範囲で)を行うことができます。
- 健康保険の資格喪失手続きと保険証の返却
- 何を返す?: 故人が加入していた健康保険(国民健康保険、会社の健康保険組合、後期高齢者医療制度など)の資格を喪失したことを届け出て、保険証を返却します。
- 期限は?: 国民健康保険や後期高齢者医療制度の場合は死亡後14日以内。会社の健康保険の場合は、勤務先の人事・総務担当者に確認し、指示に従いましょう。
- どこへ?: 国民健康保険・後期高齢者医療制度は市区町村役場。会社の健康保険は勤務先を通じて各健康保険組合などへ。
- もらえるお金も?: 加入していた健康保険の種類によって、葬祭費(国民健康保険・後期高齢者医療制度)や埋葬料(会社の健康保険)などが支給される場合があります。忘れずに申請しましょう。
- 行政書士のサポート: こちらも、必要な書類の案内や作成サポート、手続きに関するご相談を行政書士が承ります。
- 世帯主変更届(必要な場合)
- どんな時に?: 故人が世帯主であり、かつ、その世帯に2人以上の世帯員が残る場合に必要です。新しい世帯主を届け出ます。
- 期限は?: 死亡後14日以内。
- どこへ?: 住民票のある市区町村役場。
- 各種契約の名義変更・解約手続き
- 電気、ガス、水道などのライフライン
- 固定電話、携帯電話、インターネットプロバイダー
- NHKの放送受信契約
- クレジットカードの解約と未払い金の確認
- 運転免許証やパスポートの返納(法的な義務ではない場合もありますが、悪用防止のため)
- その他、故人が契約していたサービス(ジム、習い事、月額課金サービスなど)
- 行政書士のサポート: これらの手続きは非常に多岐にわたり、どこに連絡すれば良いか分からないことも多いでしょう。行政書士は、これらの手続きのリストアップ、必要書類の案内、一部の解約申入書の作成などをサポートし、煩雑な作業の負担を軽減します。
これらの手続きは、故人の生活状況によって必要なものが大きく異なります。一つ一つ確認し、対応していくのは大変な労力です。行政書士にご相談いただければ、状況を整理し、優先順位をつけて効率的に進めるお手伝いが可能です。
いよいよ本番!相続手続きの準備に着手する
上記の諸手続きと並行して、あるいは少し落ち着いてから、いよいよ本格的な相続手続きの準備に入ります。ここからは、故人の財産を誰がどのように引き継ぐのかを明らかにし、具体的に分配していくための重要なステップです。
- 【最優先!】遺言書の有無を確認する
- なぜ一番大切?: 故人が遺言書を残していた場合、原則としてその内容に従って遺産が分けられます。遺言書の存在は、その後の手続きの進め方や相続人の範囲、取り分などを大きく左右するため、何よりも先に確認しなければなりません。
- どこを探す?:
- 故人の自宅(仏壇、金庫、机の引き出し、書斎など大切に保管していそうな場所)
- 貸金庫(金融機関に照会)
- 生前親しくしていた友人、知人、税理士や弁護士などの専門家
- 公証役場(公正証書遺言の場合、全国どこの公証役場からでも検索可能)
- 法務局(自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合)
- 見つかったらどうする?:
- 自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合: 勝手に開封してはいけません(特に封印されているもの)。家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です。検認とは、遺言書の偽造・変造を防ぎ、その状態を保全するための手続きであり、遺言の有効・無効を判断するものではありません。
- 公正証書遺言の場合: 検認は不要です。最も安全で確実な遺言方式とされています。
- 法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言書の場合: こちらも検認は不要です。
- 行政書士のサポート: 遺言書の捜索に関するアドバイスから、発見された自筆証書遺言の検認申立書の作成支援まで、行政書士がお手伝いします。また、生前の遺言書作成(特に公正証書遺言の起案サポートや証人としての関与)も行政書士の重要な業務です。
- 誰が相続人?相続人を確定させる
- 法定相続人とは?: 遺言書がない場合、または遺言書で指定されていない財産がある場合は、法律で定められた相続人(法定相続人)が財産を引き継ぎます。
- 相続人の範囲と順位:
- 常に相続人:配偶者
- 第1順位:子(子が先に亡くなっている場合は孫=代襲相続)
- 第2順位:直系尊属(父母、祖父母など。子がいない場合に相続人となる)
- 第3順位:兄弟姉妹(子も直系尊属もいない場合に相続人となる。兄弟姉妹が先に亡くなっている場合はその子=甥姪が代襲相続)
- どうやって調べる?: 故人の**出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)**を取得し、相続関係を法的に証明する必要があります。また、相続人となる方全員の現在の戸籍謄本も必要です。
- 大変な作業です: 戸籍は、本籍地が何度も変わっていたり、古い戸籍が手書きで読みにくかったりすると、収集に大変な手間と時間がかかります。
- 行政書士のサポート: 相続人調査は行政書士の専門業務です。行政書士は、**職務上の権限(職務上請求)で戸籍謄本等を収集することが認められており、皆様に代わって全国の役所から戸籍を取り寄せることができます。**これにより、時間的・精神的な負担を大幅に軽減できます。収集した戸籍を元に「相続関係説明図(家系図のようなもの)」を作成し、誰が法的な相続人であるかを明確に図示します。これは、後の遺産分割協議や金融機関、法務局での手続きに必須の書類となります。
- 何を相続する?相続財産を調査する
- プラスの財産もマイナスの財産も: 相続財産には、預貯金、不動産(土地、建物)、株式や投資信託などの有価証券、自動車、貴金属といったプラスの財産だけでなく、借金、ローン、未払いの税金、保証債務などのマイナスの財産も全て含まれます。
- 調査方法の例:
- 預貯金: 故人の通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などを手がかりに、各金融機関に照会し、残高証明書や取引履歴を取得します。
- 不動産: 権利証(登記識別情報)、固定資産税の納税通知書、名寄帳(固定資産評価証明願の取得の際に市区町村役場で確認)などを元に、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して権利関係や詳細を確認します。
- 有価証券: 証券会社からの取引報告書や残高証明書などを確認します。
- 借金: 契約書、督促状、故人のメモなどを探します。思い当たる貸金業者やクレジットカード会社に問い合わせたり、信用情報機関(JICC、CIC、KSC)に情報開示請求をしたりすることも有効です。
- 財産目録の作成: 調査した全ての財産(プラスもマイナスも)を一覧表にした「財産目録」を作成します。これは、後の遺産分割協議や、相続税の申告が必要かどうかを判断する上で非常に重要な資料となります。
- 行政書士のサポート: 相続財産の調査は、時に探偵のような根気と知識が必要となる作業です。行政書士は、不動産の調査(登記事項証明書や固定資産評価証明書の取得代行)、預貯金調査のサポート(金融機関への照会文書の作成支援)、そして正確な財産目録の作成を全面的にサポートします。どこに何があるか見当もつかない、という場合でも、丁寧にお話を伺いながら、考えられる調査方法をご提案し、実行を支援します。
- 借金が多いかも…相続放棄・限定承認を検討する(期限は原則3ヶ月!)
- なぜ検討が必須?: 故人の財産調査の結果、明らかに借金などのマイナスの財産が多い場合、相続人はその負債を全て引き継ぐことになってしまいます。これを避けるための法的な手続きが「相続放棄」と「限定承認」です。
- 相続放棄とは?: プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しない、という意思表示です。相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとみなされます。
- 限定承認とは?: 相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ、故人の借金などを弁済し、もし財産が残ればそれを相続するという方法です。手続きが複雑で、相続人全員が共同で行う必要があるなど、利用されるケースは比較的少ないです。
- 熟慮期間=3ヶ月: これらの手続きは、原則として、**「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」**に家庭裁判所に申述しなければなりません。この期間を「熟慮期間」といいます。
- 超重要ポイント:
- 熟慮期間内に何もしなければ、全ての財産を無条件に相続する「単純承認」をしたものとみなされます。
- 相続財産の一部でも処分(例:故人の預金を解約して使う、不動産を売却する)してしまうと、原則として単純承認したとみなされ、相続放棄や限定承認ができなくなる可能性が高いので、絶対に手をつけてはいけません。
- 行政書士のサポート: 相続放棄や限定承認の申述書作成と家庭裁判所への提出代理は弁護士または司法書士の業務範囲となりますが、その判断の前提となる相続財産調査を迅速かつ正確に行い、判断材料を提供することは行政書士の得意とするところです。 調査の結果、相続放棄が適切と判断される場合には、提携している弁護士や司法書士を速やかにご紹介し、スムーズな手続き連携をサポートします。まずは、財産の全体像把握のためにご相談ください。
相続手続きにおける行政書士の立ち位置
ここまで見てきたように、相続開始直後から本格的な相続手続きの準備段階までに、数多くのやるべきこと、確認すべきことがあります。これらを全てご自身で、しかも深い悲しみの中で行うのは、精神的にも時間的にも大きな負担です。
「街の法律家」とも呼ばれる行政書士は、まさにこのような場面で皆様のお役に立てる専門家です。
行政書士は、官公署に提出する書類の作成や、権利義務・事実証明に関する書類作成のプロフェッショナルです。相続手続きにおいては、以下のような多岐にわたるサポートが可能です。
- 遺言書の捜索に関するアドバイス、自筆証書遺言の検認申立書作成支援
- 戸籍謄本等の収集代行による正確な相続人の確定
- 相続関係説明図の作成
- 不動産調査、預貯金調査のサポート、詳細な財産目録の作成
- 遺産分割協議書の作成(相続人全員の合意内容を法的に有効な形で書面化する非常に重要な書類です。行政書士は、合意形成後の書面作成を担います。)
- 預貯金、株式、自動車などの名義変更・解約手続きのサポート
- その他、相続に関する様々なご相談、関連する契約書や内容証明郵便の作成など
もちろん、全ての相続手続きを行政書士一人で完結できるわけではありません。相続人間で紛争が生じ、交渉や調停・訴訟が必要になった場合は弁護士、相続税の申告が必要な場合は税理士、不動産の相続登記(名義変更)は司法書士がそれぞれ専門家として対応します。
しかし、行政書士は、これら専門家への「橋渡し役」としても重要な役割を果たします。「まず何から手をつけていいかわからない」「誰に相談すればいいの?」という初期段階でのご相談に最適なのが行政書士です。相続手続きの全体像を見据え、必要な手続きを整理し、各専門家と適切に連携を取りながら、ワンストップに近い形で皆様をサポートすることを目指しています。特に、煩雑な書類作成や収集業務においては、その専門性を存分に発揮し、皆様の負担を大幅に軽減いたします。
まとめ:不安を一人で抱え込まず、専門家の知恵を借りましょう
今回は、相続がいつ、どのように始まり、死亡直後から本格的な手続き開始までにどのような流れで進んでいくのかを解説しました。
- 人の「死亡」と同時に相続は開始する。
- 死亡直後は「死亡届」など期限のある手続きを優先する。
- 葬儀後、落ち着いたら「遺言書の確認」「相続人調査」「財産調査」に着手する。
- マイナスの財産が多い場合は、3ヶ月以内に「相続放棄・限定承認」を検討する。
相続手続きは、法律や税金が複雑に絡み合い、時間も労力もかかるものです。しかし、故人が残してくれた大切な想いや財産を、円満に次の世代へとつないでいくための、避けては通れない大切なプロセスでもあります。
「自分たちだけで全部できるだろうか…」「手続きが複雑すぎて、もう何が何だか…」
そんな不安や疑問を抱えたまま、時間だけが過ぎてしまうのは避けたいものです。
私たち行政書士は、相続に関する皆様の「困った」「分からない」に真摯に耳を傾け、法的な知識と実務経験に基づいて、最適な解決策をご提案いたします。多くの行政書士事務所では、初回の相談を無料で行っています。
どうぞ、一人で悩まず、まずはお近くの行政書士にご連絡ください。きっと、あなたの相続手続きの頼れる道しるべとなるはずです。
次回は、相続手続きの核心部分である「遺産分割協議」について、その進め方や注意点を詳しく解説する予定です。