
相続セミナー第4回:誰が相続人になる?応用編~代襲相続、養子、非嫡出子など~
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「前回、相続人の基本ルールは分かったけど、もし子供が先に亡くなっていたら孫が相続するって聞いたことがある…」「養子や、結婚していない相手との間に生まれた子供の相続権はどうなるの?」
前回の第3回ブログでは、「誰が相続人になるのか」というテーマで、配偶者相続人と血族相続人(子・親・兄弟姉妹)の基本的な相続順位について解説しました。多くの場合、この基本ルールで相続人が決まりますが、ご家族の状況によっては、もう少し複雑なケースも存在します。
40代、50代の皆様の中には、ご自身の親族関係を振り返ったときに、「うちの場合はどうなるんだろう?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、「誰が相続人になるのか」の応用編として、**代襲相続(だいしゅうそうぞく)、養子、法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子(非嫡出子)、そして相続権を失うケース(相続欠格・廃除)**など、少し専門的な内容に踏み込んで解説します。これらのケースは判断が難しく、専門家のアドバイスが特に重要になる場面でもあります。
この記事を通じて、相続人の範囲がどのように変動するのか、そしてそのような複雑な状況において行政書士がどのように皆様の疑問解決をお手伝いできるのかをご理解いただければ幸いです。
親から子へ、子から孫へ:代襲相続のしくみ
まず、「代襲相続」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、本来相続人となるはずだった人が、ある理由で相続できなくなった場合に、その人の子供などが代わりに相続する制度です。
1. 子の代襲相続(孫や曾孫が相続人に)
- どのような場合に起こる?
被相続人(亡くなった方)の子が、以下のいずれかの理由で相続権を失っている場合に発生します。
- 相続開始以前に死亡していた場合
- 相続欠格(後述します)に該当した場合
- 相続廃除(後述します)された場合
- 誰が代わりに相続する?
その亡くなった(または相続権を失った)子の**直系卑属(ちょっけいひぞく=子や孫など下の世代の血族)**が代わりに相続人となります。
- 具体的には、被相続人の子が先に亡くなっていれば、その子の子、つまり被相続人の孫が代襲相続人となります。
- もし、その孫も既に亡くなっている場合は、さらにその子である曾孫(ひまご)が代襲相続(これを再代襲といいます)します。このように、直系卑属である限り、何代でも再代襲が起こり得ます。
- 相続放棄の場合は?
重要な注意点として、子が「相続放棄」をした場合は、その子は初めから相続人でなかったものとみなされるため、その子の子(孫)への代襲相続は発生しません。
【具体例:子の代襲相続】
Aさんが亡くなりました。Aさんには妻Bさんと、長男Cさん、長女Dさんがいました。
しかし、長男CさんはAさんより先に亡くなっており、Cさんには子(Aさんの孫)であるEさんとFさんがいます。長女Dさんは健在です。
この場合の相続人は、
- 妻Bさん
- 長女Dさん
- 長男Cさんの代襲相続人である孫Eさんと孫Fさん の4人になります。(EさんとFさんは、本来Cさんが受け取るはずだった相続分を二人で分け合います)
2. 兄弟姉妹の代襲相続(甥・姪が相続人に)
- どのような場合に起こる?
被相続人に子や孫などの直系卑属がおらず、かつ父母や祖父母などの直系尊属も既に亡くなっている(またはいない)場合に、第3順位として兄弟姉妹が相続人となります。この兄弟姉妹が、以下のいずれかの理由で相続権を失っている場合に代襲相続が発生します。
- 相続開始以前に死亡していた場合
- 相続欠格に該当した場合
- 相続廃除された場合
- 誰が代わりに相続する?
その亡くなった(または相続権を失った)兄弟姉妹の**子(つまり被相続人の甥・姪)**が代わりに相続人となります。 - 再代襲はしない!
子の代襲相続とは異なり、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りです。つまり、甥や姪が既に亡くなっていたとしても、その甥や姪の子(被相続人から見て姪孫や又甥など)がさらに代襲相続することはありません。
【具体例:兄弟姉妹の代襲相続】
Gさんが亡くなりました。Gさんには配偶者も子もおらず、両親・祖父母も既に亡くなっています。
Gさんには兄Hさんと妹Iさんがいました。しかし、兄HさんはGさんより先に亡くなっており、Hさんには子(Gさんの甥)であるJさんがいます。妹Iさんは健在です。
この場合の相続人は、
- 妹Iさん
- 兄Hさんの代襲相続人である甥Jさん の2人になります。(Jさんは、本来Hさんが受け取るはずだった相続分を相続します)
代襲相続は、このように家族の歴史の中で起こり得る相続形態であり、相続人を確定する上で見落としてはならない重要なポイントです。
縁組が生む親子関係:養子の相続権
次に、養子縁組をした場合の養子の相続権について見ていきましょう。
- 養子は実子と同じ相続権を持つ
法律上、養子は縁組の日から養親の「嫡出子(ちゃくしゅつし=法律上の婚姻関係にある男女間に生まれた子)」としての身分を取得します。そのため、養子は実子と全く同じように、養親の財産を相続する権利を持ちます。
- 養親に実子がいる場合でも、養子と実子の間で相続権や相続分に差はありません。
- 養子が複数いる場合も同様です。
- 普通養子と特別養子
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。
- 普通養子縁組: 実の親との親子関係も存続します。そのため、養子は養親の相続人になると同時に、実親の相続人にもなることができます(二重の相続権)。
- 特別養子縁組: 原則として6歳未満の子どもの福祉のために行われる制度で、実の親との法的な親子関係が終了します。そのため、特別養子は養親の相続人のみとなり、実親の相続人とはなりません。 一般的に相続で問題となるのは普通養子縁組のケースが多いです。
- 養親の側から見た相続
養子は養親の相続人になりますが、逆に養親が養子の財産を相続する権利も、実の親子関係と同様に発生します。 - いつの養子縁組か?
養子縁組が被相続人の死亡前になされていれば、養子は相続人となります。
【具体例:養子の相続】
Kさんが亡くなりました。Kさんには妻Lさんと、実子Mさん、そして養子Nさんがいます。
この場合の相続人は、
- 妻Lさん
- 実子Mさん
- 養子Nさん の3人です。MさんとNさんの法定相続分は同じです。
養子縁組の事実は戸籍に記載されます。相続人調査の際には、戸籍を丹念に確認し、養子の存在を見落とさないことが重要です。
婚姻関係にない男女の子:非嫡出子(婚外子)の相続権
「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」または「婚外子(こんがいし)」とは、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子のことを指します。この非嫡出子の相続権は、父親との関係と母親との関係で少し異なります。
- 母親との関係:
母親との親子関係は、通常、出産という事実によって明らかであるため、母親が亡くなった場合、非嫡出子は常に相続人となります。 これは嫡出子と何ら変わりありません。 - 父親との関係:
父親との間に法律上の親子関係が認められるためには、父親による「認知(にんち)」が必要です。
- 認知されていれば: 父親がその子を自分の子であると法的に認めた(認知した)場合、非嫡出子は父親の相続人となります。認知は、父親が生前に役所に届け出るか、遺言によって行うことができます。
- 認知されていなければ: 父親から認知されていない場合、法律上の親子関係がないため、原則として父親の財産を相続することはできません。
- 相続分の平等化(重要な法改正!)
かつて、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分とされていました。しかし、これは法の下の平等に反するとして、平成25年(2013年)9月4日に民法が改正され、嫡出子と非嫡出子(婚外子)の法定相続分は同等となりました。
- この改正は、平成25年9月5日以降に開始した相続(つまり、この日以降に亡くなられた方の相続)から適用されます。それ以前に開始した相続については、原則として改正前の法律が適用されるため注意が必要です。
【具体例:非嫡出子の相続(父の相続で認知あり)】
Pさんが亡くなりました。Pさんには法律上の妻Qさんとの間に子Rさんがいます。また、Pさんには婚姻関係にない女性Sさんとの間に生まれた子Tさんがおり、Pさんは生前にTさんを認知していました。
この場合の相続人は、
- 妻Qさん
- 嫡出子Rさん
- 認知された非嫡出子Tさん の3人です。RさんとTさんの法定相続分は同じです。
認知の事実は戸籍に記載されます。特に父親の相続においては、認知された子の存在が相続関係に大きな影響を与えるため、戸籍の丁寧な確認が不可欠です。
相続権を失う場合:相続欠格と推定相続人の廃除
通常、法定相続人は当然に相続権を持ちますが、一定の重大な理由がある場合には、その相続権が奪われることがあります。これには「相続欠格」と「推定相続人の廃除」の2つの制度があります。
1. 相続欠格(そうぞくけっかく)
- どのような制度? 相続人が被相続人や他の相続人に対して、生命を侵害する行為や遺言作成を妨害するなどの著しく不当な行為をした場合に、法律上当然に相続権を失う制度です(民法891条)。裁判所の判断などを必要とせず、欠格事由に該当すれば自動的に相続権を失います。
- 主な欠格事由:
- 故意に被相続人や先順位・同順位の相続人を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者。
- 被相続人が殺害されたことを知りながら、告発または告訴しなかった者(ただし、是非の弁別がない場合や、殺害者が自己の配偶者または直系血族であった場合を除く)。
- 詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者。
- 詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者。
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者。
- 効果: 相続欠格となった者は、被相続人の財産を一切相続できません。ただし、その相続欠格となった者に子がいれば、その子が代襲相続することができます。
2. 推定相続人の廃除(すいていそうぞくにんのはいじょ)
- どのような制度? 遺留分(いりゅうぶん=一定の相続人に法律上保障される最低限の相続分)を持つ推定相続人(配偶者、子、直系尊属)が、被相続人に対して虐待をしたり、重大な侮辱を加えたり、その他の著しい非行があった場合に、被相続人の意思に基づいて、その相続人の相続権を家庭裁判所の審判・調停によって奪う制度です(民法892条、893条)。
- 手続き:
- 生前廃除: 被相続人が生前に家庭裁判所に廃除の請求をします。
- 遺言廃除: 被相続人が遺言で廃除の意思を表示し、遺言執行者が家庭裁判所に請求します。
- 効果: 廃除が認められると、その相続人は相続権を失います。ただし、廃除された者に子がいれば、その子が代襲相続することができます。また、被相続人はいつでも家庭裁判所に廃除の取消を請求できます。
相続欠格や廃除は、相続人の範囲に大きな影響を与えるため、これらの事実が疑われる場合には、慎重な調査と法的な判断が必要となります。
複雑な相続人調査こそ、行政書士の腕の見せ所!
ここまで見てきたように、「誰が相続人になるのか」という問題は、代襲相続、養子縁組、非嫡出子の認知、さらには相続欠格や廃除といった様々な要素が絡み合うと、非常に複雑になります。
これらの応用的なケースでは、
- 戸籍の記載が多岐にわたり、古い戸籍の判読が一層難しくなる。
- 代襲相続の範囲や再代襲の有無など、法的な知識がないと判断を誤りやすい。
- 養子縁組や認知の法的効果を正確に理解する必要がある。
- 非嫡出子の相続分に関する法改正(平成25年)など、過去の法律や判例の知識も必要になる場合がある。
- 相続欠格や廃除の事実確認には、より専門的な調査が求められる。
といった課題が生じます。ご自身だけでこれらの情報を正確に把握し、法的に有効な相続人を確定させるのは、非常に困難な作業と言えるでしょう。
このような複雑な相続人調査こそ、「街の法律家」である行政書士が専門性を発揮する場面です。
行政書士にご依頼いただくことで:
- 徹底的な戸籍調査と分析: 行政書士は職務上請求権を行使し、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)を収集します。そして、代襲相続、養子縁組、認知などの複雑な身分関係を、専門的な知識に基づいて丁寧に読み解き、分析します。
- 法令・判例に基づく正確な判断: 最新の法令や関連判例を踏まえ、法的に誰が相続人となるのかを正確に特定します。特に、非嫡出子の相続分など、法改正が絡む部分についても間違いのない判断を行います。
- 「相続関係説明図」の精密な作成: 調査結果に基づいて、複雑な相続関係も一目で理解できる詳細な「相続関係説明図」を作成します。これは、後の遺産分割協議、金融機関の手続き、不動産登記、相続税申告など、あらゆる場面で不可欠な証明資料となります。
- 関連専門家との連携: もし、相続欠格や廃除に関して法的な紛争が生じている、あるいは家庭裁判所への申立てが必要な場合は、弁護士とスムーズに連携を取ります。また、相続税が関わる場合は税理士を紹介するなど、状況に応じた適切な専門家ネットワークを活用し、ワンストップでの解決をサポートします。
- 精神的・時間的負担の大幅な軽減: 何よりも、これらの複雑で精神的にも負担の大きい調査をご自身で行う必要がなくなります。専門家に任せることで、安心して次のステップに進むことができます。
「うちの家族関係は少し複雑かもしれない…」「誰が本当の相続人なのか、正確に知りたい」そう感じたら、まずは相続に詳しい行政書士にご相談ください。丁寧にお話を伺い、最善の解決策をご提案いたします。
まとめ:複雑な相続関係も専門家と一緒なら安心
今回は、「誰が相続人になるのか」の応用編として、代襲相続、養子の相続権、非嫡出子の相続権、そして相続権を失う相続欠格・廃除の制度について解説しました。
- 代襲相続: 本来の相続人が先に亡くなっている場合などに、その子供などが代わりに相続する。
- 養子: 実子と同じ相続権を持つ。
- 非嫡出子: 母親との関係では常に相続人。父親との関係では認知されれば相続人となり、相続分も嫡出子と同等。
- 相続欠格・廃除: 一定の理由で相続権を失うことがある。
これらのルールは、ご家族の状況によっては非常に複雑に絡み合い、正確な相続人を確定することが困難になるケースも少なくありません。そして、相続人の確定は、全ての相続手続きの出発点であり、ここを誤ると後々大きなトラブルに発展しかねません。
自己判断で進めてしまう前に、ぜひ一度、相続の専門家である行政書士にご相談いただくことを強くお勧めします。
次回は、第5回「何を相続するのか?~預貯金、不動産からデジタル資産まで~」と題して、相続の対象となる財産の種類や、その調査方法について詳しく解説していきます。