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相続セミナー 第6回:借金も相続!? ~マイナスの財産の確認と注意点~

こちらからポッドキャストでお聞きになれます↓

https://creators.spotify.com/pod/show/r0072/episodes/6-e3308pq

 

「親の財産を相続するって、良いことばかりじゃないの?」「もしかして、親が抱えていた借金も自分が返さないといけないの?」

前回の第5回ブログでは、相続の対象となる「相続財産」について、預貯金や不動産といったプラスの財産から、近年注目されるデジタル遺産まで幅広く解説しました。その中で、相続財産にはマイナスの財産も含まれることに軽く触れましたが、今回はこの「マイナスの財産」、特に借金に焦点を当てて、その確認方法と重要な注意点について詳しく掘り下げていきます。

「借金も相続される」という事実は、多くの方にとって衝撃的かもしれません。しかし、この事実を知らずにいると、思わぬ形で多額の負債を背負ってしまうリスクがあります。特に40代、50代の皆様は、ご両親の経済状況を全て把握しているとは限らず、万が一の際に慌ててしまうことも考えられます。

この記事を読めば、マイナスの相続財産にはどのようなものがあるのか、どうやって調査すればよいのか、そしてもし多額の借金が見つかった場合にどのような選択肢があるのか、といった重要なポイントが理解できるはずです。そして、これらの困難な状況において、行政書士がどのように皆様をサポートできるのかもお伝えします。

マイナスの相続財産とは?(おさらいと特に注意すべき点)

まず、前回のおさらいも兼ねて、相続の対象となる主なマイナスの財産を再確認しましょう。

  • 借入金・ローンなど:
    • 住宅ローン、アパートローン
    • 自動車ローン、教育ローン
    • 銀行や消費者金融からのカードローン、フリーローン
    • クレジットカードのキャッシング残高、リボ払いの未払い分
    • 個人間の借金(友人・知人からの借入など)
    • 事業を営んでいた場合は、事業資金の借入、買掛金など
  • 未払いの公租公課など:
    • 所得税、住民税、固定資産税などの税金
    • 国民健康保険料、介護保険料などの社会保険料
    • 未払いの家賃、地代、管理費、医療費など
  • 保証債務: 故人が他人の借金の保証人連帯保証人になっていた場合、その保証契約に基づく義務も相続されます。これは特に注意が必要です。

特に危険!「保証債務」の落とし穴

「保証債務」と聞いてもピンとこない方もいるかもしれませんが、これは非常に大きなリスクを伴う可能性があります。

  • 保証人とは: 主たる債務者(お金を実際に借りた人)が返済できなくなった場合に、代わりに返済する義務を負う人です。
  • 連帯保証人とは: 保証人の中でも特に責任が重く、主たる債務者とほぼ同等の返済義務を負います。債権者(お金を貸した側)は、主たる債務者に請求する前に、いきなり連帯保証人に全額請求することも可能です。また、連帯保証人が複数いる場合でも、各自が全額について責任を負います。

もし故人が誰かの連帯保証人になっていて、その主たる債務者が返済不能に陥った場合、相続人は突然、その借金を全額肩代わりするよう求められる可能性があるのです。これは、故人自身が直接借りたお金でなくても発生します。

見落としがちなマイナス財産

上記以外にも、以下のようなマイナス財産が見落とされることがあります。

  • 故人が生前に起こした交通事故などによる損害賠償義務
  • 分割払いで購入した商品の未払い残金
  • サブスクリプションサービスの未払い料金(少額でも積み重なると無視できません)

これらのマイナスの財産は、プラスの財産と合わせて全て相続人に引き継がれるのが原則です。

マイナスの相続財産、どうやって調べる?

では、故人にマイナスの財産があるかどうか、どのように調べればよいのでしょうか。残念ながら、プラスの財産のように一覧で把握できる「マイナス財産の証明書」のようなものは存在しません。地道な調査が必要になります。

1. 故人の遺品整理から手がかりを探す

まず、故人の身の回りの品々を丁寧に確認することから始めます。

  • 書類関係:
    • 金銭消費貸借契約書(借金の契約書)
    • ローン契約書、返済予定表
    • 督促状、請求書、催告書
    • 保証契約書
    • クレジットカードの利用明細書、キャッシングの明細
    • 税金や社会保険料の納付書、滞納通知
  • 通帳・キャッシュカード類:
    • 預金通帳の引き落とし履歴(定期的なローンの返済、カード会社からの引き落としなどがないか)
    • 消費者金融のカード、ローンカードなどが見つかることも。
  • 故人の手帳やメモ、エンディングノートなど:
    • 借入先や金額、保証人になっている旨の記載がないか確認します。
  • 郵便物:
    • 金融機関や貸金業者、カード会社、役所などからの郵便物には重要な情報が含まれている可能性があります。死亡後も数ヶ月は注意して確認しましょう。

2. 信用情報機関への情報開示請求

故人の借入状況をより網羅的に調べる方法として、信用情報機関への情報開示請求があります。信用情報機関は、個人のクレジットカードやローンの契約内容、支払状況などの情報を収集・管理している機関です。

日本には主に以下の3つの信用情報機関があります。

  • JICC(株式会社日本信用情報機構): 主に消費者金融系の情報
  • CIC(株式会社シー・アイ・シー): 主に信販会社・クレジットカード系の情報
  • KSC(全国銀行個人信用情報センター): 主に銀行・信用金庫系の情報

相続人は、故人の相続人であることを証明する書類(戸籍謄本、除籍謄本、本人確認書類など)を提出することで、これらの機関に故人の信用情報を開示請求することができます。これにより、故人がどのような金融機関から、どの程度の借入をしていたか(契約残高など)を把握できる可能性があります。ただし、個人間の借金や一部の奨学金などは登録されていないため、これで全ての借金が分かるとは限りません。

3. その他

  • 役所への問い合わせ: 未納の税金(住民税、固定資産税など)や国民健康保険料などについては、市区町村役場の担当課に問い合わせることで確認できます。
  • 故人の交友関係や勤務先からの情報: 親しい友人や同僚、勤務先などが、故人の経済状況について何か知っているかもしれません。ただし、プライバシーに配慮し、慎重に確認する必要があります。
  • 弁護士会照会(23条照会): 相続財産調査の一環として、弁護士に依頼して特定の団体や企業に必要な情報を照会してもらう方法もあります。

マイナスの財産の調査は、時に根気と専門的な知識が必要となります。

マイナスの財産が多い!3つの選択肢と熟慮期間

相続財産調査の結果、残念ながらプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い、あるいは保証債務など大きなリスクがあることが判明した場合、相続人は以下の3つの選択肢を検討することになります。これらの選択には、**原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という「熟慮期間」**が設けられています。

選択肢①:単純承認

  • 内容: プラスの財産もマイナスの財産も全て無条件に引き継ぐことです。これが相続の原則的な形です。
  • どのような場合に?
    • プラスの財産がマイナスの財産を明らかに上回っている場合。
    • マイナスの財産があっても、故人の事業を引き継ぎたい、自宅を守りたいなど、特定の財産を相続したい意思が強い場合。
  • 注意点(法定単純承認): 相続人が相続財産の一部でも処分したり、隠匿したり、熟慮期間内に限定承認や相続放棄の手続きをしなかったりすると、法律上、単純承認したものとみなされることがあります(法定単純承認)。例えば、故人の預貯金を使って自分の借金を返済したり、故人の不動産を売却したりする行為がこれにあたります。安易な行動は禁物です。

選択肢②:相続放棄

  • 内容: プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないという意思表示です。相続放棄をすると、その相続人は初めから相続人でなかったものとみなされます。
  • どのような場合に?
    • マイナスの財産がプラスの財産を明らかに上回っている場合。
    • 相続財産の状況が複雑で、関わりたくない場合。
    • 保証債務などのリスクを回避したい場合。
  • 手続き: 熟慮期間内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出する必要があります。
  • 重要な注意点:
    • 相続放棄をすると、借金だけでなくプラスの財産も一切相続できなくなります。
    • ある相続人が相続放棄をすると、その相続権は次の順位の相続人に移ります。例えば、第1順位の子全員が相続放棄をすると、第2順位の直系尊属(父母など)が相続人となり、その方々も借金を相続するリスクを負うことになります。関係者全員で情報を共有し、対応を検討する必要があります。

選択肢③:限定承認

  • 内容: 相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産(借金など)を引き継ぐという方法です。もしプラスの財産でマイナスの財産を清算して余りが出れば、その余った財産は相続できます。逆に、プラスの財産だけでは足りなくても、相続人自身の財産で不足分を補う必要はありません。
  • どのような場合に?
    • プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか不明だが、借金の全額を負うリスクは避けたい場合。
    • 借金はあるけれど、どうしても手放したくない財産(自宅や家宝など)がある場合。
  • 手続き: 熟慮期間内に、相続人全員(相続放棄した人を除く)が共同で、家庭裁判所に「限定承認申述書」を提出する必要があります。手続きが非常に複雑で、財産の換価(現金化)や債権者への配当など、時間と手間がかかるため、実際に利用されるケースは相続放棄に比べて少ないのが現状です。
  • 注意点: 相続人のうち一人でも反対する人がいると、限定承認はできません(その場合は、各自が相続放棄をするか、単純承認をするかを選択することになります)。

熟慮期間(3ヶ月)の重要性と期間伸長の可能性

相続放棄や限定承認を検討する場合、この**「3ヶ月の熟慮期間」は非常に重要です。この期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」**からカウントが始まります。通常は、被相続人が亡くなったこと、そしてそれによって自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月です。

しかし、相続財産の調査に時間がかかり、3ヶ月以内に単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択することが困難な場合もあります。そのような場合には、**家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立て」**を行うことで、この熟慮期間を延長してもらえる可能性があります。この申立ても、原則として3ヶ月以内に行う必要があります。

期限を過ぎてしまうと、原則として単純承認したものとみなされてしまうため、早めの対応が肝心です。

マイナス財産の対応と行政書士の役割

では、マイナスの財産の調査や、相続放棄・限定承認の検討において、行政書士はどのようなサポートができるのでしょうか。

まず、相続放棄申述書や限定承認申述書の作成代行、および家庭裁判所への提出代理は、弁護士または司法書士の業務範囲となり、行政書士が直接行うことはできません。

しかし、行政書士は、これらの法的手続きの前提となる非常に重要な部分で皆様をサポートできます。

  1. 徹底的な相続財産調査(プラス・マイナス両面): 行政書士は、戸籍謄本等の収集による相続人の確定と並行して、故人の財産(プラスの財産だけでなく、借金や保証債務などのマイナスの財産も含む)を調査し、財産目録を作成します。これにより、相続放棄や限定承認を検討すべきかどうかの客観的な判断材料を提供できます。
  2. 信用情報機関への開示請求サポート: 相続人ご自身が行う信用情報機関への情報開示請求について、手続き方法のご案内や必要書類の準備をサポートします。
  3. 期限管理と専門家への橋渡し: 3ヶ月の熟慮期間という重要な期限を念頭に置き、調査を進めます。調査の結果、相続放棄や限定承認が適切と判断される場合、あるいは法的な紛争が生じている場合には、提携している弁護士や司法書士を速やかにご紹介し、スムーズな手続き連携をサポートします。行政書士が初期の相談窓口となり、状況を整理することで、より適切な専門家へ効率的につなぐことができます。
  4. 相続放棄後の手続きサポート: もし、相続放棄を選択された場合、次順位の相続人への連絡や、債権者への通知(相続放棄申述受理証明書のコピーを送付するなど)といった、放棄後の関連手続きについてアドバイスや書面作成のサポートを行うことができます。

借金の問題は精神的な負担も大きいものです。行政書士は、まず状況を正確に把握するためのお手伝いをし、皆様が最善の選択をするための情報提供とサポートを行います。

まとめ:借金の相続リスク、早期の確認と適切な対応が鍵

今回は、相続におけるマイナスの財産、特に借金の問題に焦点を当てて解説しました。

  • 借金や保証債務も相続の対象となることを認識する。
  • 故人の遺品整理や信用情報機関への照会などで、マイナスの財産を調査する。
  • マイナスの財産が多い場合は、「相続放棄」や「限定承認」という選択肢がある。
  • これらの選択には「3ヶ月の熟慮期間」があり、期限管理が非常に重要。

プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もしっかりと調査し、その全体像を把握することが、後悔のない相続手続きの第一歩です。そして、もし借金の問題に直面したとしても、法的な救済手段があることを知っておいてください。

「もしかしたら親に借金があったかもしれない…」「保証人になっていたような話を聞いたことがある…」そんな不安を感じたら、一人で悩まず、できるだけ早く専門家にご相談ください。行政書士は、その最初の相談窓口として、皆様の状況整理をお手伝いし、必要に応じて他の専門家とも連携して問題解決をサポートします。

次回は、第7回「法定相続分とは?~法律で定められた取り分の基本ルール~」と題して、相続人が複数いる場合に、法律では各相続人の取り分がどのように定められているのかについて詳しく解説していきます。

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