
相続セミナー 第7回:法定相続分とは?~法律で定められた取り分の基本ルール~
こちらからポッドキャストでお聞きになれます↓
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「親が亡くなって、相続人が複数いる場合、誰がどれくらいの割合で財産をもらえるんだろう?」「法律で決まった取り分があるって聞いたけど、具体的にはどういう計算になるの?」
これまでの相続セミナーでは、「誰が相続人になるのか(第3・4回)」、「何を相続するのか(第5回)」、そして「マイナスの財産への注意点(第6回)」といった、相続の基本的な要素について解説してきました。今回は、相続人が複数いる場合に、それぞれの相続人が法律上どれくらいの割合で遺産を受け取る権利があるのか、その基本ルールである「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」について詳しくご説明します。
遺言書がない場合、この法定相続分が遺産分割の話し合いを進める上での一つの目安となります。皆様にとっては、ご兄弟姉妹間での公平な分割や、ご自身が受け取る立場になった際の権利を理解しておく上で、非常に重要な知識と言えるでしょう。
この記事を読めば、様々な家族構成のケースで法定相続分がどのように決まるのか、具体的な計算方法と共に理解できるはずです。そして、この法定相続分の知識を踏まえ、行政書士がどのように遺産分割協議のサポートに関わっていくのかもご紹介します。
法定相続分とは?~遺産分割の「ものさし」~
まず、「法定相続分」とは何か、その定義から確認しましょう。
法定相続分とは、法律で定められた、各相続人が被相続人(亡くなった方)の遺産を相続する際の基本的な取り分の割合のことをいいます。
この法定相続分は、主に以下のような場合に意味を持ちます。
- 遺言書がない場合: 誰がどれだけ相続するかの指針となります。
- 遺言書があっても、相続分の指定がない財産がある場合: その指定のない財産について、法定相続分が基準となります。
- 遺留分(いりゅうぶん)を計算する場合: 一定の相続人に保障される最低限の取り分である遺留分を算出する際の基礎となります(遺留分については今後の記事で詳しく解説します)。
**ただし、法定相続分はあくまで法律上の「目安」です。**相続人全員の話し合い(これを「遺産分割協議」といいます)によって合意が得られれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも全く問題ありません。むしろ、故人の生前の貢献度や各相続人の状況などを考慮し、柔軟に分割方法を決めることが、円満な相続につながることも多いのです。
しかし、その話し合いのスタートラインとして、また、どうしても話し合いがまとまらない場合の最終的な判断基準の一つとして、法定相続分を理解しておくことは非常に大切です。
誰と相続するかで変わる!配偶者の法定相続分
被相続人の配偶者は、常に相続人となります(第3回ブログ参照)。しかし、配偶者以外の誰が相続人になるか(血族相続人の順位)によって、配偶者の法定相続分は変動します。
ケース1:配偶者と子(第1順位の血族相続人)が相続人の場合
最も一般的なケースです。
- 配偶者の法定相続分:2分の1
- 子の法定相続分(全体):2分の1
子が複数いる場合は、この「子の法定相続分(全体)2分の1」を、子の人数で均等に分けます。
【具体例】 夫Aが亡くなり、相続人は妻Bと子C、子Dの3人。
- 妻Bの法定相続分:1/2
- 子Cの法定相続分:1/2 × 1/2 = 1/4
- 子Dの法定相続分:1/2 × 1/2 = 1/4 (計算確認:1/2 + 1/4 + 1/4 = 1 となります)
ケース2:配偶者と直系尊属(第2順位の血族相続人)が相続人の場合
被相続人に子や孫などの直系卑属がいない場合です。
- 配偶者の法定相続分:3分の2
- 直系尊属の法定相続分(全体):3分の1
直系尊属が複数いる場合(例えば父母が共に健在な場合)は、この「直系尊属の法定相続分(全体)3分の1」を、その人数で均等に分けます。
【具体例】 夫Eが亡くなり、相続人は妻FとEの母Gの2人(Eに子はおらず、父は既に死亡)。
- 妻Fの法定相続分:2/3
- 母Gの法定相続分:1/3
もし、Eの父母(GさんとHさん)が共に健在だった場合は、
- 妻Fの法定相続分:2/3
- 父Hの法定相続分:1/3 × 1/2 = 1/6
- 母Gの法定相続分:1/3 × 1/2 = 1/6 となります。
ケース3:配偶者と兄弟姉妹(第3順位の血族相続人)が相続人の場合
被相続人に子や孫などの直系卑属も、父母や祖父母などの直系尊属もいない(または既に亡くなっている)場合です。
- 配偶者の法定相続分:4分の3
- 兄弟姉妹の法定相続分(全体):4分の1
兄弟姉妹が複数いる場合は、この「兄弟姉妹の法定相続分(全体)4分の1」を、その人数で均等に分けます(ただし、後述する半血兄弟姉妹の場合は注意が必要です)。
【具体例】 夫Iが亡くなり、相続人は妻JとIの兄K、妹Lの3人(Iに子や直系尊属はいない)。
- 妻Jの法定相続分:3/4
- 兄Kの法定相続分:1/4 × 1/2 = 1/8
- 妹Lの法定相続分:1/4 × 1/2 = 1/8 となります。
このように、配偶者の取り分は、他に誰が相続人になるかによって大きく変動することを覚えておきましょう。
子・直系尊属・兄弟姉妹の法定相続分:それぞれのポイント
次に、配偶者以外の血族相続人の法定相続分について、もう少し詳しく見ていきます。
1. 子の法定相続分
- 均等分割が原則: 子が複数いる場合、子の全体の相続分(配偶者がいれば1/2、いなければ全て)を、子の人数で均等に割ります。
- 実子・養子・認知された非嫡出子(婚外子)の区別なし: 前回のブログでも触れましたが、現在の法律では、実子、養子、そして父親から認知された非嫡出子(婚姻関係にない男女間に生まれた子)の法定相続分は同等です。
2. 直系尊属の法定相続分
- 親等の近い人が優先: 父母と祖父母が両方健在な場合は、親等の近い(世代が近い)父母が相続人となり、祖父母は相続人になりません。
- 複数いる場合は均等分割: 父母が共に健在であれば、直系尊属全体の相続分(配偶者がいれば1/3、いなければ全て)を、父母で均等に分けます(つまり、全体の相続分×1/2ずつ)。
3. 兄弟姉妹の法定相続分
- 複数いる場合は均等分割が原則: 兄弟姉妹が複数いる場合、兄弟姉妹全体の相続分(配偶者がいれば1/4、いなければ全て)を、原則としてその人数で均等に割ります。
- 注意!半血兄弟姉妹(はんけつ きょうだいしまい)の相続分: 父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)と、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血兄弟姉妹:例えば、父親が同じで母親が違う異母兄弟など)がいる場合、半血兄弟姉妹の法定相続分は、全血兄弟姉妹の2分の1となります。これは少し複雑なので、例で見てみましょう。
【具体例:半血兄弟姉妹がいる場合】 被相続人Mが亡くなりました。Mに配偶者や子、直系尊属はいません。 Mの相続人は、Mと父母を同じくする兄N(全血)と、Mと父のみを同じくする弟O(半血の異母弟)の2人です。 この場合、NとOの相続分の比は2:1となります。 したがって、
- 兄N(全血)の法定相続分:2/3
- 弟O(半血)の法定相続分:1/3 となります。
もし、被相続人に配偶者がいて、兄弟姉妹全体の相続分が1/4だった場合は、
- 兄N(全血)の法定相続分:1/4 × 2/3 = 2/12 = 1/6
- 弟O(半血)の法定相続分:1/4 × 1/3 = 1/12 となります。この点は専門家でも間違えやすいポイントなので、注意が必要です。
代襲相続人の法定相続分は?
第4回ブログで解説した「代襲相続」が発生した場合、代襲相続人の法定相続分はどうなるのでしょうか。
- 被代襲者の相続分をそのまま引き継ぐ: 代襲相続人は、本来相続人となるはずだった人(被代襲者=亡くなった子や兄弟姉妹など)が受けるべきであった法定相続分を、そのままの割合で引き継ぎます。
- 代襲相続人が複数いる場合: 被代襲者の相続分を、代襲相続人の人数で均等に分けます。
【具体例:子の代襲相続】 夫Pが亡くなりました。相続人は妻Qと、Pの子である長男R、長女Sです。 しかし、長男RはPより先に亡くなっており、Rには子(Pの孫)であるTとUがいます。 この場合、
- 妻Qの法定相続分:1/2
- 長女Sの法定相続分:1/4 (本来の子の取り分1/2をRとSで分けるはずだったうちのSの分)
- 長男Rの代襲相続人である孫Tの法定相続分:1/4 × 1/2 = 1/8 (Rの取り分1/4をTとUで分ける)
- 長男Rの代襲相続人である孫Uの法定相続分:1/4 × 1/2 = 1/8 となります。
法定相続分は絶対ではない?~円満な遺産分割協議のために~
ここまで法定相続分について詳しく見てきましたが、冒頭でも触れたように、これはあくまで法律が定める基本的な「目安」です。
**相続人全員が話し合って合意すれば、法定相続分と異なる割合で遺産を分割することは全く問題ありません。**この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
例えば、
- 長年、被相続人の介護を一身に担ってきた相続人に、少し多めに財産を分ける。
- 事業を継ぐ相続人に、事業に必要な財産を集中させる。
- 各相続人の現在の経済状況や生活状況を考慮して、柔軟に分け方を決める。
など、様々な事情を考慮して、相続人全員が納得できる形での分割を目指すことが、円満な相続の鍵となります。
しかし、この遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて解決を図ることになります。そのような場合には、法定相続分が一つの基準として考慮されることになります。
法定相続分の理解と行政書士のサポート
法定相続分の計算は、家族構成が複雑になると、一般の方には難解に感じられることがあります。特に代襲相続や半血兄弟姉妹が絡むケースなどは、専門的な知識がないと正確な割合を算出するのが難しいでしょう。
行政書士は、相続手続きの専門家として、法定相続分に関する以下のようなサポートを提供できます。
- 正確な法定相続分の算出と説明: まず、戸籍謄本等を収集・読解し、法的に誰が相続人となるのかを確定させます(相続人調査)。その上で、それぞれの相続人の法定相続分がいくらになるのかを、民法の規定に基づいて正確に計算し、ご依頼者様に分かりやすくご説明します。
- 「相続関係説明図」への明記: 誰が相続人で、それぞれの法定相続分がいくらになるのかを明記した「相続関係説明図」を作成します。これは、遺産分割協議を進める上での基礎資料となり、また、その後の金融機関での手続きなどでも役立ちます。
- 「相続財産目録」との関連付け: 並行して作成する「相続財産目録」(どのような財産がどれだけあるかの一覧)と照らし合わせることで、各相続人が具体的にどれくらいの価値の財産を受け取る権利があるのか、目安を把握することができます。
- 「遺産分割協議書」作成のサポート: 法定相続分を参考に、相続人全員で遺産分割協議を行い、円満に合意に至った場合には、その合意内容を法的に有効な書面である**「遺産分割協議書」**として作成するサポートを行います。行政書士は契約書作成の専門家であり、後日の紛争を防ぐための明確で漏れのない協議書の作成を得意としています。
- 行政書士が作成できるのは、あくまで相続人間で争いのない、合意が成立した後の協議書です。 もし、相続人間で意見が対立し、交渉や代理が必要な場合は弁護士の分野となります。その場合でも、行政書士は適切な弁護士をご紹介するなど、スムーズな連携をサポートします。
法定相続分を正しく理解することは、ご自身の権利を知るためだけでなく、他の相続人との公平な話し合いを進めるためにも不可欠です。
まとめ:法定相続分は話し合いのスタートライン
今回は、法律で定められた遺産の取り分の基本ルールである「法定相続分」について解説しました。
- 法定相続分は、遺言がない場合の遺産分割の目安となる。
- 配偶者の法定相続分は、誰と一緒に相続するかで変わる。
- 子、直系尊属、兄弟姉妹の順位と、それぞれのケースでの計算方法がある。
- 代襲相続や半血兄弟姉妹など、特殊なケースでは計算が複雑になることも。
- 最も重要なのは相続人全員の話し合い(遺産分割協議)であり、法定相続分は絶対ではない。
法定相続分は、あくまで円満な遺産分割協議を行うための「ものさし」の一つです。この知識をベースに、故人の想いや各相続人の状況を考慮した、全員が納得できる分割方法を見つけることが大切です。
「うちの場合の法定相続分はどうなるの?」「遺産分割協議書の作成を専門家に手伝ってほしい」といったご要望があれば、ぜひお気軽に行政書士にご相談ください。正確な情報提供と、円滑な手続き遂行のお手伝いをさせていただきます。
次回は、いよいよ相続手続きの全体像を俯瞰する、第8回「相続手続きの全体像~ゴールまでの道のりを把握しよう~」をお届けします。これまで学んできた知識が、手続き全体のどの部分にあたるのかを確認し、相続完了までの道のりを具体的にイメージできるように解説していきます。