
相続セミナー 第8回:【第1部まとめ】相続手続きの全体像~ゴールまでの道のりを把握しよう~
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「相続手続きって、結局何から始めて、どこまでやれば終わりなの?」「これまで個別の話は聞いてきたけど、全体の流れがよく分からない…」
これまでの相続セミナーでは、「誰が相続人になるのか」、「何を相続するのか」、「マイナスの財産にどう対応するか」、「法定相続分とは何か」といった、相続に関する重要なポイントを一つ一つ解説してきました。しかし、これらの知識が、実際の相続手続き全体のどの段階でどのように関わってくるのか、全体像が見えないと不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回の第8回は、これまでの内容を総括し、相続が発生してから手続きが完了するまでの「全体の道のり」を、いわば相続手続きの地図として示してみたいと思います。
手続きの全体像を把握することで、今自分がどの段階にいるのか、次に何をすべきなのかが明確になり、漠然とした不安を軽減し、計画的に手続きを進めることができるようになるはずです。
相続手続きは大きく分けて3つのフェーズ
相続手続きは、大まかに以下の3つのフェーズ(段階)に分けて考えると理解しやすくなります。
- フェーズ1:相続開始直後の手続き(主に死亡届の提出から葬儀前後まで)
- フェーズ2:遺産分割協議と各種名義変更手続き(相続人の確定から財産の分配、名義変更まで)
- フェーズ3:相続税の申告・納付(相続税が発生する場合のみ)
それぞれのフェーズでどのような手続きが必要になるのか、主な期限と共に見ていきましょう。
フェーズ1:相続開始直後の手続き
大切な方が亡くなられた直後は、深い悲しみと共に、葬儀の準備などで慌ただしい日々が続きます。しかし、その中でも期限が定められている重要な手続きがあります。
- 死亡診断書(または死体検案書)の受領 医師から交付されます。この後の多くの手続きで必要となる基本書類です。(第2回ブログ参照)
- 死亡届の提出(死亡の事実を知った日から7日以内) 市区町村役場へ提出します。これにより戸籍に死亡の事実が記載されます。(第2回ブログ参照)
- 火葬許可証(埋火葬許可証)の受領 死亡届提出時に併せて申請し、交付を受けます。火葬に必須です。(第2回ブログ参照)
- 葬儀の手配・執行 葬儀社との打ち合わせ、親族や関係者への連絡などを行います。
- 年金受給停止の手続き 故人が年金を受給していた場合、年金事務所などで受給停止の手続きを行います。未支給年金があれば請求も可能です。(第2回ブログ参照)
- 健康保険の資格喪失手続き・保険証の返却 故人が加入していた健康保険の資格喪失手続きと保険証の返却を行います。葬祭費や埋葬料が支給される場合もあります。(第2回ブログ参照)
- 世帯主変更届(必要な場合) 故人が世帯主で、残された世帯員が2人以上いる場合に届け出ます。(第2回ブログ参照)
- その他(ライフラインの解約・名義変更など) 電気、ガス、水道、電話、NHKなどの契約関係の整理も順次進めます。
このフェーズでのポイントは、何よりもまず死亡届の提出など、期限の短い手続きを優先して行うことです。多くは葬儀社がサポートしてくれますが、内容を把握しておくことが大切です。
フェーズ2:遺産分割協議と各種名義変更手続き
葬儀などが一段落し、少し落ち着いたら、本格的な相続財産の承継手続きに入ります。このフェーズが相続手続きの中心部分と言えるでしょう。
- 遺言書の有無の確認【最重要】 故人が遺言書を残していたかどうかを真っ先に確認します。遺言書があれば、原則としてその内容に従って遺産が分けられます。
- 自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での「検認」が必要な場合があります(法務局の保管制度を利用していた場合は不要)。
- 公正証書遺言の場合は、検認は不要です。
- 相続人の調査・確定 遺言書がない場合、または遺言書で指定されていない財産がある場合は、誰が法定相続人になるのかを確定させる必要があります。
- 故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本も含む)を取得します。
- 集めた戸籍を基に「相続関係説明図」を作成します。(第3回、第4回ブログ参照)
- 相続財産の調査・評価 故人がどのような財産をどれだけ持っていたのか、プラスの財産もマイナスの財産も全て洗い出します。
- 預貯金、不動産、有価証券、自動車、貴金属、借金、ローン、保証債務などを調査します。
- 調査結果を基に「財産目録」を作成します。(第5回、第6回ブログ参照)
- 相続放棄・限定承認の検討(熟慮期間:自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内) 相続財産調査の結果、マイナスの財産が多い場合などは、相続放棄(全ての財産を放棄する)や限定承認(プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を弁済する)を家庭裁判所に申述することを検討します。(第6回ブログ参照)
- 被相続人の(準)確定申告(死亡した年の所得税申告:死亡後4ヶ月以内) 故人に事業所得や不動産所得などがあり、確定申告が必要だった場合は、相続人が代わりに申告(準確定申告)を行います。
- 遺産分割協議 相続人全員で、誰がどの財産をどのように相続するのかを話し合います。
- 法定相続分(第7回ブログ参照)はあくまで目安であり、全員の合意があれば自由に分割方法を決められます。
- 話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や審判を利用することになります。
- 遺産分割協議書の作成 遺産分割協議で合意した内容を、法的に有効な書面(遺産分割協議書)として作成します。相続人全員が署名し、実印を押印するのが一般的です。この書類は、後の不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約手続きなどで必要となります。
- 各種財産の名義変更・解約手続き 遺産分割協議書や遺言書に基づき、個々の財産の名義を被相続人から相続人へ変更したり、解約したりする手続きを行います。
- 預貯金:金融機関で解約または名義変更。
- 不動産:法務局で所有権移転登記(相続登記)。※相続登記の義務化に注意。
- 株式:証券会社で名義書換。
- 自動車:運輸支局で移転登録。
- その他、ゴルフ会員権、電話加入権など、財産の種類に応じた手続きが必要です。
このフェーズは、相続人の確定から財産の分配まで、多くのステップがあり、時間も労力も要する部分です。
フェーズ3:相続税の申告・納付(必要な場合のみ)
相続した財産の総額が一定の基準(基礎控除額)を超える場合には、相続税の申告と納税が必要になります。
- 相続税の基礎控除額の確認 相続税の基礎控除額は「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。相続財産の総額(借金などを差し引いた後の純資産額)がこの基礎控除額以下であれば、原則として相続税の申告・納税は不要です。
- 相続財産の評価 相続税を計算するためには、個々の相続財産を相続開始時点(死亡日)の時価で評価する必要があります。土地や非上場株式など、評価が難しい財産もあります。
- 相続税額の計算 評価された財産額を基に、各相続人の取得財産額を算出し、それに応じた税率を適用して相続税額を計算します。様々な控除制度(配偶者の税額軽減など)も考慮されます。
- 相続税の申告と納税(被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内) 相続税が発生する場合は、税務署に相続税の申告書を提出し、納税を行います。この期限は厳守する必要があり、遅れると延滞税や加算税が課されることがあります。
相続税の計算や申告は非常に専門的で複雑なため、税理士に相談するのが一般的です。
相続手続きの主な期限まとめ
相続手続きには、いくつかの重要な期限があります。これらを意識して計画的に進めることが大切です。
- 死亡届の提出:死亡の事実を知った日から7日以内
- 相続放棄・限定承認の申述:自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内
- 被相続人の(準)確定申告:相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内
- 相続税の申告・納税:被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内
この他にも、年金や健康保険の手続きにも目安となる期限があります。また、不動産の相続登記については、2024年4月1日から義務化されており、相続の開始を知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行う必要があります。
全体像を把握した上で、行政書士はどう関わる?
これら相続手続きの全体像の中で、行政書士はどのような役割を果たすのでしょうか。
行政書士は、法律に基づいた書類作成の専門家であり、官公署に提出する書類作成や権利義務・事実証明に関する書類作成のエキスパートです。相続手続きにおいては、特にフェーズ2の多くの部分で中心的な役割を担うことができます。
- 遺言書の確認サポートと検認申立書作成支援(自筆証書遺言の場合)
- 相続人の調査・確定(戸籍謄本等の収集代行、相続関係説明図の作成)
- 相続財産の調査・評価サポート(不動産調査、預貯金調査のサポート、財産目録の作成)
- 遺産分割協議書の作成(相続人間で合意が成立した内容を書面化)
- 一部の財産の名義変更・解約手続きのサポート(自動車の名義変更など、行政書士の業務範囲内)
これらの業務を通じて、相続手続きを円滑に進めるためのお手伝いをします。
さらに、行政書士は、相続手続き全体の流れを理解しているため、次に何をすべきか、どの段階でどの専門家(例えば、相続税については税理士、紛争解決や相続登記については弁護士や司法書士)に相談するのが適切かといった「道案内役」も果たせます。
手続きの初期段階から行政書士にご相談いただくことで、必要な手続きを整理し、無駄なく効率的に進めることが可能になります。煩雑な書類収集や作成から解放され、精神的な負担も軽減されるでしょう。
まとめ:全体像の理解と専門家の活用が円満相続への道
今回は、相続手続きの開始から完了までの全体像と、その中で注意すべき期限について解説しました。
- 相続手続きは、大きく3つのフェーズに分けられる。
- 各フェーズで様々な手続きがあり、それぞれに専門的な知識が必要となる場合がある。
- 特に、死亡届、相続放棄・限定承認、準確定申告、相続税申告には重要な期限がある。
- 全体像を把握することで、計画的に手続きを進め、不安を軽減できる。
相続手続きは、一生のうちに何度も経験することではないため、戸惑うことが多いのは当然です。しかし、一つ一つのステップを理解し、順番に進めていけば、必ずゴールにたどり着けます。
もし、手続きの進め方に不安を感じたり、専門的なサポートが必要だと感じたりした場合は、どうぞ遠慮なく行政書士にご相談ください。私たちは、皆様の状況を丁寧にお伺いし、相続手続きという長い道のりを円滑に進むためのお手伝いをさせていただきます。
次回からは、いよいよ【第2部:遺言のすべて - 想いを形にする】に入ります。第9回は「遺言書はなぜ重要?~「争続」回避と意思実現の最強ツール~」と題して、遺言書を作成することの意義やメリットについて詳しく解説していきます。