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相続セミナー 第9回:遺言書はなぜ重要?~「争続」回避と意思実現の最強ツール~

「自分の財産は、自分の思うように分けたいけど、どうすればいいの?」「相続で家族が揉めるなんて話を聞くと、うちも心配…何かできることはないだろうか?」

これまでの相続セミナー【第1部:相続の基礎を固める】(第1回~第8回)では、相続が開始した場合に法律がどのように定めているか(法定相続人、法定相続分など)、そして相続手続きの全体像について解説してきました。法律で定められたルールは、確かに一つの公平な基準ではあります。しかし、法定相続だけでは、必ずしも故人の細やかな意思が反映されるわけではなく、時には残された家族の間で思わぬトラブル(いわゆる「争続」)を引き起こす原因となることもあります。

そこで重要性が高まってくるのが、今回のテーマである「遺言書」です。

遺言書は、ご自身の財産を誰にどのように遺したいかという最終の意思表示であり、残される家族への大切なメッセージでもあります。そして何より、無用な争いを避け、ご自身の想いを確実に実現するための、法的に認められた強力なツールなのです。

この【第2部:遺言のすべて - 想いを形にする】の初回となる今回は、なぜ遺言書がそれほど重要なのか、その具体的なメリットや役割について詳しく解説していきます。

遺言書がないと、どうなる?(法定相続の限界と現実)

まず、もし遺言書がない状態で相続が発生した場合、どのようなことが起こりうるのか、改めて確認しておきましょう。

  1. 原則として法定相続分に従った分割 法律で定められた相続人が、法律で定められた割合(法定相続分)で財産を分けるのが基本となります(第7回ブログ参照)。
  2. 遺産分割協議が必要 具体的にどの財産を誰が取得するのかを決めるためには、相続人全員による話し合い(遺産分割協議)が必要です。この協議がスムーズに進めば問題ありませんが、相続人の間で意見が対立すると、話がまとまらず長期化することがあります。
  3. 財産の分け方が難しい場合がある 相続財産が預貯金のように分けやすいものばかりとは限りません。例えば、自宅不動産が主な財産である場合、法定相続分通りに分割しようとすると、不動産を共有名義にするか、売却して金銭で分けるか、あるいは誰か一人が取得して他の相続人に代償金を支払うか、といった難しい判断が必要になります。
  4. 故人の意思が反映されない 「長年介護してくれた〇〇に多く財産を遺したい」「事業を手伝ってくれた△△に事業用資産を継がせたい」「内縁の妻(夫)にも財産を残したい」といった故人の特別な想いがあったとしても、遺言書がなければ法定相続が優先され、その意思を実現することは困難です。
  5. 「争続」のリスク 遺産分割協議がこじれると、家庭裁判所での調停や審判に発展することもあります。こうなると、解決までに時間も費用もかかり、何より家族間の関係に深い溝を残してしまうことになりかねません。

このように、遺言書がない場合は、必ずしも円満な相続になるとは限らないのです。

遺言書を作成する5つの大きなメリット

では、遺言書を作成することには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。主なものを5つご紹介します。

メリット1:相続人間の争いを未然に防ぐ(「争続」対策)

これが遺言書を作成する最大のメリットと言えるでしょう。遺言書で、誰にどの財産を、どのくらいの割合で相続させるのかを明確に指定しておくことで、相続人間の無用な憶測や不公平感を減らし、遺産分割協議を不要にしたり、スムーズに進めたりすることができます。結果として、家族が財産を巡って争う「争続」を回避できる可能性が高まります。

メリット2:自分の意思で財産の分け方を自由に決められる

法定相続分はあくまで法律上の基準であり、必ずしもご自身の希望通りとは限りません。遺言書を作成すれば、法定相続分にとらわれず、ご自身の意思に基づいて財産の分け方を自由に決めることができます。 例えば、

  • 特定の子に事業を継がせるために、関連する株式や不動産を集中して相続させる。
  • 献身的に介護をしてくれた相続人に、感謝の気持ちを込めて他の相続人より多く財産を遺す。
  • 趣味のコレクションを、その価値を理解してくれる人に譲る。 といったことが可能になります。

メリット3:法定相続人以外の人にも財産を遺せる(遺贈)

法律上の相続人(法定相続人)ではない人にも、遺言書によって財産を遺すことができます。これを「遺贈(いぞう)」といいます。 例えば、

  • 長年連れ添った内縁の妻や夫(法律上の婚姻届を出していないパートナー)
  • 事実上の養子(養子縁組はしていないが、実の子同然に育ててきた人)
  • 生前特にお世話になった友人や知人
  • 応援したいNPO法人や公益団体、母校など これらの個人や団体は、遺言書がなければ原則として財産を受け取ることができません。遺言書は、このような方々への感謝の気持ちや支援の意思を形にする唯一の方法です。

メリット4:相続手続きの負担を軽減できる

遺言書があることで、残された相続人の手続き上の負担が軽減されることがあります。

  • 特に「公正証書遺言」で作成しておけば、家庭裁判所での「検認」手続きが不要になります。検認は、相続人全員に通知され、裁判所に出向く必要があるなど、時間と手間がかかる手続きです。
  • 遺言書で誰がどの財産を相続するかが明確になっていれば、預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)などの手続きがスムーズに進むことが期待できます。
  • 遺言執行者が指定されていれば、相続財産の管理や名義変更手続きなどを遺言執行者が主体となって行うため、相続人各自の負担が減ります。

メリット5:将来の不安を解消し、安心感を得られる

ご自身の死後、大切な財産がどうなるのか、家族が困らないだろうか、といった心配は誰にでもあるものです。遺言書を作成することで、これらの不安を整理し、将来に対する漠然とした不安を解消することができます。残される家族への配慮を示すことで、ご自身も安心感を得られるでしょう。これは、近年注目されている「終活」の重要な一環とも言えます。

遺言書でできること(主な内容)

遺言書では、財産の分け方以外にも様々なことを定めることができます。主なものをご紹介します。

  • 相続分の指定・遺産分割方法の指定: 誰にどの財産をどれだけ相続させるかを具体的に指定できます。
  • 遺贈: 相続人以外の人や団体に財産を遺すことができます。
  • 子の認知: 婚姻関係にない女性との間に生まれた子を、遺言で自分の子として認知することができます。
  • 未成年後見人の指定・未成年後見監督人の指定: 親権者がいない未成年の子のために、世話や財産管理をする後見人を指定できます。
  • 遺言執行者の指定: 遺言の内容を実現するための手続きを行う遺言執行者を指定できます。
  • 相続人の廃除とその取消し: 被相続人に対して虐待や重大な侮辱などを行った相続人の相続権を、家庭裁判所の審判を経て奪うこと(廃除)を遺言で求めることができます。また、一度した廃除を取り消すことも可能です。
  • 祭祀(さいし)承継者の指定: お墓や仏壇など、祖先を祀るための財産(祭祀財産)を誰に引き継がせるかを指定できます。
  • その他: 付言事項として、家族への感謝の言葉や、なぜそのような遺言内容にしたのかという理由などを書き残すこともできます(法的拘束力はありませんが、相続人間の理解を助ける効果が期待できます)。

これらの内容は、今後のセミナーで個別に詳しく解説していく予定です。

特に遺言書作成をおすすめしたいケース

全ての方に遺言書作成をおすすめしたいところですが、特に以下のような状況にある方は、遺言書の作成を真剣に検討されることを強く推奨します。

  • 子供がいないご夫婦: 配偶者が全ての財産を相続するとは限りません。亡くなった方の親(直系尊属)が存命なら親も相続人となり、親が既に亡くなっていれば兄弟姉妹も相続人となります。この場合、配偶者は、亡くなった方の親や兄弟姉妹と遺産分割協議をしなければなりません。
  • 再婚していて、先妻(または先夫)との間に子がいる場合: 現在の配偶者と先妻(夫)の子が共に相続人となり、遺産分割協議が必要になります。複雑な感情が絡み合い、協議が難航するケースも少なくありません。
  • 相続人同士の仲が良くない、または長年疎遠になっている場合: 遺産分割協議がスムーズに進まない可能性が高いです。
  • 内縁の配偶者や事実上の養子など、法定相続人ではないが財産を遺したい人がいる場合: 遺言書がなければ、原則として財産を遺すことはできません。
  • 個人事業主や会社経営者の方で、事業の承継を考えている場合: 事業用資産や自社株式を特定の相続人に集中して相続させることで、スムーズな事業承継を図ることができます。
  • 特定の相続人に多く財産を遺したい、または特定の財産(自宅など)を特定の相続人に確実に遺したい場合。
  • 相続人の中に行方不明者や意思能力に不安のある方がいる場合。
  • 社会貢献として、特定の団体に寄付をしたいと考えている場合。

これらのケースに当てはまる方は、遺言書を作成することで、将来起こりうる多くの問題を未然に防ぐことができます。

遺言書作成と行政書士のサポート

遺言書は、ご自身の想いを法的に有効な形で残すための大切な文書です。そのため、法律で定められた方式に従って作成しなければ、せっかく作成しても無効になってしまう可能性があります。

行政書士は、皆様の「想いを形にする」お手伝いをする専門家です。遺言書作成に関しては、以下のようなサポートが可能です。

  1. 遺言書作成に関するご相談: どのような内容の遺言書を作成したいのか、ご家族構成や財産状況などを詳しくお伺いし、最適な遺言書の種類や内容についてアドバイスします。
  2. 公正証書遺言の作成サポート: 最も確実で安全な遺言方式である「公正証書遺言」の作成を全面的にサポートします。
    • 公証人との事前打ち合わせ
    • 遺言内容の原案作成(文案作成)
    • 必要書類(戸籍謄本、不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書など)の収集
    • 公証役場での証人としての立会い(行政書士は証人になることができます)
  3. 自筆証書遺言に関するアドバイス: ご自身で作成する「自筆証書遺言」についても、法的な要件(全文自書、日付、氏名の自書、押印など)を満たしているか、内容に不明確な点はないかなどをチェックし、アドバイスを行います。また、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」の利用手続きについてもサポートできます。
  4. 遺言執行者としての関与: 遺言書の中で「遺言執行者」として行政書士を指定していただくことも可能です。その場合、ご逝去後、遺言の内容に沿って、相続財産の調査、財産目録の作成、預貯金の解約、不動産の名義変更の準備(登記申請は司法書士と連携)、各相続人への財産の分配など、遺言内容を実現するための一連の手続きを行います。
  5. 関連専門家との連携: 遺言の内容が複雑で税務上の検討が必要な場合は税理士と、不動産登記は司法書士と、もし紛争の可能性がある場合は弁護士と連携し、トータルでサポートします。

遺言者の最終意思を尊重し、それを法的に確実な形で実現するために、行政書士は皆様に寄り添ったサポートを提供いたします。

まとめ:遺言書は、未来への思いやりと安心のしるし

今回は、遺言書がなぜ重要なのか、そのメリットや役割について解説しました。

  • 遺言書は、相続人間の無用な争いを防ぐための最も有効な手段の一つ。
  • 自分の意思で自由に財産の分け方を決められ、法定相続人以外にも財産を遺せる。
  • 相続手続きの負担軽減や、将来への安心感にもつながる。
  • 特に特定の事情を抱える方にとっては、作成の必要性が高い。

遺言書を作成することは、残される大切な家族への最後の愛情表現であり、ご自身の人生の集大成の一つとも言えるでしょう。それは、単に財産を分けるというだけでなく、ご自身の想いや願いを未来へつなぐための大切なメッセージなのです。

「まだ早い」と思わずに、一度立ち止まって、ご自身の財産と、それを誰にどのように遺したいのかを考えてみてはいかがでしょうか。そして、その想いを形にするために、ぜひ行政書士などの専門家にご相談ください。

次回は、第10回「遺言がない場合の相続 ~法定相続のメリット・デメリット~」と題して、遺言書がなかった場合に適用される法定相続について、改めてそのメリットとデメリットを整理し、遺言書作成の必要性を別の角度から考えてみたいと思います。

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