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相続セミナー 第10回:遺言がない場合の相続 ~法定相続のメリット・デメリット~

「遺言書って本当に必要なの?法律で決まった分け方があるなら、それで十分じゃない?」

前回の第9回ブログでは、「遺言書はなぜ重要か」と題し、遺言書が持つ力とそのメリットについてお伝えしました。今回は少し視点を変え、もし「遺言書がなかった場合」、つまり法律の定めるルール(法定相続)に従って相続が進められる場合に、どのようなメリットがあり、またどのようなデメリットや問題点が生じうるのかを具体的に掘り下げてみたいと思います。

法定相続は、確かに一定の公平性を保つための制度ですが、万能ではありません。そのメリットとデメリットを正しく理解することで、改めて遺言書を作成することの意義や必要性が見えてくるはずです。ご自身の状況に照らし合わせながら、ぜひお読みください。

法定相続とは?(おさらい)

まず、基本の確認です。「法定相続」とは、被相続人(亡くなった方)が遺言書を残さなかった場合に、民法で定められた相続人が、民法で定められた順位と割合(法定相続分)に従って遺産を相続することをいいます。(詳しくは第3回、第4回、第7回ブログをご参照ください。)

この制度は、遺言がない場合に備えて、社会的な混乱を避け、一定の基準で財産を分配するために設けられています。

法定相続のメリットとは?

遺言書がない場合の法定相続には、いくつかのメリットも考えられます。

  1. 一応の公平性が保たれる可能性 法律で相続人の範囲とそれぞれの取り分(法定相続分)が明確に定められているため、誰がどれだけ相続するかという点については、客観的な基準が存在します。これにより、相続人間の感情的な対立をある程度抑え、一応の公平感を保つ助けになる場合があります。「法律でこう決まっているのだから」という共通認識が、話し合いの出発点になることもあります。

  2. 手続きの基準が明確 遺言書がある場合、その遺言書が法的に有効か、解釈を巡って争いが生じる、といった可能性があります。一方、法定相続では、誰が相続人になるか、法定相続分はどれくらいか、という点については民法に規定があるため、その基準自体は明確です。

  3. 遺言書作成の手間や費用がかからない 当然のことながら、被相続人が遺言書を作成していなければ、その作成に関する手間や時間、費用(例えば公正証書遺言を作成する場合の公証人手数料など)は発生しません。

  4. シンプルな家族構成・財産状況なら機能しやすい 例えば、相続人が配偶者と子供一人だけで、主な財産が預貯金のみといった比較的シンプルなケースでは、法定相続分に従ってスムーズに遺産分割が進むこともあります。

これらのメリットは、特定の状況下においては確かに有効に機能する可能性があります。しかし、現実の相続はもっと複雑な要素が絡み合うことが多く、次に挙げるデメリットが顕在化することも少なくありません。

法定相続のデメリット・問題点

法定相続には、残念ながら多くのデメリットや潜在的な問題点が存在します。これらを理解しておくことが非常に重要です。

  1. 故人の意思が全く反映されない 最大のデメリットはこれでしょう。法定相続は、あくまで法律が一般的に定めたルールであり、故人個人の特別な想いや意思を汲み取ることはできません。

    • 「長年、自分の介護を献身的にしてくれた長女に、他の子供たちより多く財産を遺したい」
    • 「事業を継ぐ意思のある次男に、会社の株式や事業用不動産を集中して相続させたい」
    • 「配偶者には自宅を確実に残し、老後の生活に困らないようにしたい」 このような具体的な願いがあったとしても、遺言書がなければ実現は困難です。
  2. 遺産分割協議が必須となり、紛争の原因となりやすい(「争続」リスク) 法定相続分は、あくまで各相続人の「取り分の割合」を示すものであり、具体的に「どの財産を誰が取得するか」は、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって決めなければなりません。

    • この遺産分割協議が、相続トラブルの最大の火種となることが多いのです。
    • 特に、自宅不動産や農地、事業用資産など、物理的に分けにくい財産が主な場合、誰がそれを取得するのか、他の相続人にはどのように代償するのか(代償分割)、あるいは売却して金銭で分けるのか(換価分割)など、意見がまとまらないケースが頻発します。
    • 相続人間の感情的なもつれや、過去の不満などが噴出し、話し合いが泥沼化することも少なくありません。
  3. 相続手続きが煩雑・長期化する可能性 遺産分割協議がスムーズにまとまれば良いのですが、対立が解けない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てることになります。

    • 調停や審判には、数ヶ月から数年単位の時間がかかることもあり、弁護士費用などの経済的負担も増大します。
    • また、法定相続で手続きを進める場合、故人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書など、多くの書類を収集する必要があり、これだけでも大変な手間と時間がかかります。
  4. 法定相続人以外の人には一切財産が渡らない 法律上の相続権を持たない人には、たとえ故人がどれだけその人に財産を遺したいと願っていても、法定相続では一切財産が渡りません。

    • 例えば、長年連れ添った内縁の配偶者(婚姻届を提出していないパートナー)、実の子同然に可愛がってきた事実上の養子、生前大変お世話になった友人や知人などがこれに該当します。
    • また、故人が特定の慈善団体やNPO法人などに寄付をしたいと考えていたとしても、遺言書がなければその意思は実現されません。
  5. 特定の財産の円滑な承継が困難になる場合がある 故人が個人事業を営んでいたり、会社のオーナー経営者だったりした場合、事業の継続のためには、事業用資産や自社株式を特定の跡継ぎにスムーズに引き継がせることが不可欠です。

    • しかし、法定相続では、これらの財産も他の相続人と分割協議の対象となるため、事業に必要な資産が分散してしまったり、跡継ぎ以外の相続人から過大な代償金を要求されたりして、事業承継が困難になるリスクがあります。
    • 自宅不動産についても同様で、同居していた相続人が住み続けたいと願っても、他の相続人の同意が得られなければ、売却せざるを得なくなることもあります。
  6. 予期せぬ人が相続人となり、複雑な状況を生む可能性 例えば、子供のいない夫婦の場合、夫が亡くなると、妻だけでなく夫の親(直系尊属)も相続人となります。もし親が既に亡くなっていれば、夫の兄弟姉妹が相続人となります。

    • この場合、妻は、夫の親や兄弟姉妹という、普段あまり付き合いのない(あるいは疎遠な)相手と、遺産分割について話し合わなければならなくなります。これは精神的にも大きな負担となるでしょう。

【事例紹介】遺言がなくて困ったケース

法定相続のデメリットが、具体的にどのような問題を引き起こすのか、いくつかの事例で見てみましょう。

  • ケース1:分けられない不動産 Aさんの遺産は自宅不動産のみ。相続人は子供3人。誰も自宅に住む予定はなく、売却して分けたいと考える子と、思い出の家を残したいと考える子で意見が対立。結局、誰がいくら負担するかも決まらず、不動産は共有名義のまま塩漬け状態に。固定資産税の負担だけが続く…。
  • ケース2:介護の苦労が報われない Bさんは晩年、長女C子さんの手厚い介護を受けて生活していました。他の兄弟は遠方に住み、介護にはほとんど関与せず。Bさんが亡くなり、遺言書はなかったため、C子さんも他の兄弟も法定相続分は同じ。C子さんは「あれだけ苦労したのに…」と割り切れない想いを抱えることに。
  • ケース3:内縁の妻の悲劇 DさんとE子さんは長年夫婦同然に暮らしていましたが、婚姻届は出していませんでした。Dさんが急逝。遺言書はなし。Dさんの相続人は疎遠だった弟のみ。E子さんはDさんの財産を一切相続できず、住んでいた家も弟に明け渡すよう求められ、生活が一変してしまいました。
  • ケース4:事業承継の危機 個人商店を営んでいたFさん。長男Gさんに店を継いでもらいたいと考えていましたが、遺言書はありませんでした。Fさんの死後、他の兄弟から店舗不動産や事業資金について法定相続分を主張され、Gさんは事業継続に必要な資金を確保できず、廃業の危機に。

これらの事例は、遺言書があれば避けられた可能性が高いものばかりです。

法定相続の限界を知り、遺言書作成の必要性を考える

ここまで見てきたように、法定相続は、法律が一応の基準を示すものではありますが、決して万能ではありません。むしろ、故人の個別具体的な意思を反映できない点や、相続人間の紛争を引き起こしやすい点など、多くのデメリットや問題点を抱えています。

これらのデメリットを回避し、

  • ご自身の最後の意思を明確に実現する
  • 残される家族間の無用な争いを防ぐ
  • 相続手続きをスムーズに進める
  • 法定相続人以外の大切な人にも配慮する といったことを望むのであれば、やはり生前に「遺言書」を作成しておくことが極めて有効な手段となります。

行政書士としてのアドバイス

私たち行政書士は、遺言書がない場合の法定相続による手続き(戸籍謄本等の収集による相続人調査、相続財産調査、遺産分割協議書の作成サポートなど)も、もちろん専門業務としてお手伝いさせていただいております。法定相続で進める場合でも、専門家が関与することで、手続きを正確かつ円滑に進めることができます。

しかし、それ以上に私たちが強くお勧めしたいのは、やはり「生前の遺言書作成」です。なぜなら、それが「争続」を予防し、故人の意思を最も尊重できる方法だからです。遺言書があれば、今回挙げた法定相続のデメリットの多くをカバーすることができます。

行政書士は、遺言書作成に関するご相談にも親身に対応し、特に公正証書遺言の起案サポートや証人としての関与、自筆証書遺言の作成アドバイスや法務局保管制度の利用支援など、皆様の想いを法的に確実な形にするためのお手伝いをいたします。

まとめ:法定相続の光と影を知り、未来への備えを

今回は、遺言書がない場合に適用される「法定相続」のメリットとデメリットについて詳しく解説しました。

  • 法定相続は、一定の公平性や明確性というメリットがある一方で、故人の意思が反映されず、相続人間の紛争の原因となりやすいという大きなデメリットがある。
  • 特に不動産など分けにくい財産がある場合や、家族関係が複雑な場合、法定相続人以外に財産を遺したい人がいる場合には、法定相続の限界が露呈しやすい。
  • これらのリスクを理解した上で、ご自身の状況に合わせて遺言書作成の必要性を検討することが、円満な相続への第一歩。

「うちは大丈夫」と思っていても、相続は予測できない事態を引き起こすことがあります。法定相続が持つ「光」の部分だけでなく、「影」の部分もしっかりと認識し、ご自身と大切な家族のために、最善の備えを検討してみてはいかがでしょうか。

次回は、いよいよ具体的な遺言書の種類に入ります。第11回「遺言書の種類①:自筆証書遺言 ~手軽さの裏にある注意点~」と題して、最も手軽に作成できる自筆証書遺言について、そのメリット・デメリット、作成時の注意点などを詳しく解説していきます。

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