
相続セミナー 特別編 相続トラブル急増!口約束の落とし穴と解決策を行政書士が解説
「お父さんは、長男のお前に家を継がせると言っていたじゃないか!」 「いや、私は母から『お世話になったお前に財産を多く残す』と聞いていた!」
相続の話し合いの場で、このような「言った、言わない」の争いを聞くことが増えてきました。被相続人が生前に誰かに伝えた「口約束」。これが原因で、残された家族が深刻なトラブルに巻き込まれるケースが後を絶ちません。
大切な家族が自分の死後、財産のことで揉めてしまうのは、誰にとっても避けたい事態のはずです。しかし、良かれと思って口頭で伝えた約束が、かえって混乱を招き、家族の絆を引き裂いてしまうことすらあるのです。
最近特にこのような相談が増えてきていますので相続セミナーの特別編として、相続や遺言における口約束の危険性と、そうしたトラブルを未然に防ぐための具体的な対策について、相続の専門家である行政書士が分かりやすく解説します。
また、相続発生後にトラブルで争いが起きた場合は、私ども行政書士では対応できず、弁護士に依頼する案件となり、費用も余計に必要になりますので、今回のブログで対処方法を勉強して、今後の相続対策に備えて頂ければと思っています。
なぜ?口約束が相続トラブルの火種に
そもそも「口約束」とは何でしょうか。文字通り、書面を作成せず、口頭のみでなされた約束のことです。日常生活では、些細な約束は口頭で済ませることが多いでしょう。しかし、こと相続や遺言に関しては、この口約束が極めて厄介な問題を引き起こすのです。
口約束に法的な効力はあるのか?
原則として、契約は口頭でも成立します(契約自由の原則)。しかし、相続や遺言に関しては話が別です。特に遺言は、法律で厳格な方式が定められており、この方式に従わない遺言は無効となります。つまり、いくら「〇〇に財産を譲る」と口頭で伝えていたとしても、それが法的に有効な遺言として認められることは基本的にありません。
「でも、生前に確かにそう言っていた!」と主張しても、法的な裏付けがなければ、他の相続人を納得させることは難しいでしょう。
口約束が引き起こす典型的なトラブル例
実際に、口約束が原因でどのようなトラブルが起きているのでしょうか。いくつか具体例を見てみましょう。
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事例1:「家は長男に」の口約束 Aさんは生前、長男Bさんに対し「この家はお前に継がせる」と常々話していました。しかし、Aさんが亡くなった後、遺言書は見つかりませんでした。次男Cさんや長女Dさんは「父の言葉は知っているが、私たちにも相続する権利があるはずだ。法定相続分通りに分けるべきだ」と主張。Bさんは納得できず、兄弟仲は険悪になってしまいました。
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事例2:「介護の御礼」の口約束 Eさんは、晩年の母親Fさんの介護を一身に引き受けていました。Fさんは「いつもありがとうね。お前には他の子より多く財産を残すからね」とEさんに感謝の言葉を伝えていました。しかし、Fさんの死後、遺言書はなく、他の兄弟は「母の言葉は感謝の気持ちを表しただけで、法的な約束ではない」と主張。Eさんは、介護の苦労が報われないと感じ、深い無力感を覚えました。
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事例3:生前の「借金チャラ」の口約束 Gさんは事業資金として友人Hさんからお金を借りていましたが、ある時Hさんから「もう返さなくていいよ」と口頭で言われました。Gさんは安心していましたが、Hさんが亡くなり、Hさんの相続人から借金の返済を求められました。Gさんは「Hさんから免除すると言われた」と主張しましたが、証拠がなく、結局返済せざるを得なくなる可能性があります。
これらの事例に共通するのは、「言った、言わない」の水掛け論になり、客観的な証拠がないために解決が困難になるという点です。
なぜ口約束はこれほど揉めるのか?
口約束がトラブルに発展しやすい根本的な原因は以下の通りです。
- 証拠の欠如: 最大の問題は、約束の存在を証明する客観的な証拠がないことです。録音でもない限り、言った側も聞いた側も、その内容を第三者に証明することは極めて困難です。
- 記憶の曖昧さ: 人間の記憶は時間と共に薄れたり、都合よく書き換えられたりすることがあります。「確かにそう言ったはずだ」「いや、そんなことは聞いていない」と、双方の記憶が食い違うことは珍しくありません。
- 解釈の違い: 同じ言葉を聞いても、受け取る側によって解釈が異なることがあります。例えば「家を頼む」という言葉を、ある人は「家を相続させる」と解釈し、別の人は「家の管理を任せる」程度に解釈するかもしれません。
- 他の相続人の不公平感: 特定の相続人だけに有利な口約束があったと聞かされた場合、他の相続人が「なぜ自分だけが損をするのか」と不公平感を抱き、納得できないのは当然です。
- 当事者の死亡: 約束をした当事者(被相続人)が亡くなってしまっているため、その真意を確かめることができません。
これらの要因が複雑に絡み合い、相続人間の感情的な対立を深めてしまうのです。
口約束トラブルを回避する!確実な対策とは
では、このような悲しい争いを避けるためには、どうすれば良いのでしょうか。最も重要なのは、意思を明確な形で残すことです。
対策1:【最重要】遺言書を作成する
相続に関する意思を最も確実に実現する方法は、法的に有効な遺言書を作成することです。遺言書には主に以下の種類があります。
- 自筆証書遺言: 全文、日付、氏名を自書し、押印することで作成できる遺言書です。手軽に作成できますが、方式の不備で無効になるリスクや、紛失・改ざんの恐れがあります。法務局での保管制度を利用すれば、紛失・改ざんのリスクを軽減できます。
- 公正証書遺言: 公証人の関与のもと作成される遺言書です。公証人が内容を確認し、法律的な要件もチェックするため、無効になるリスクが極めて低く、最も確実な方法と言えます。作成には費用と手間がかかりますが、その信頼性は絶大です。
行政書士は、この遺言書作成のサポートを得意としています。 特に公正証書遺言を作成する際には、お客様の意思を丁寧にヒアリングし、法的に問題のない遺言書の原案を作成したり、公証人とのやり取りを代行したりすることができます。自筆証書遺言についても、法的な要件を満たしているかのアドバイスが可能です。
対策2:生前贈与契約書を作成する
生前に特定の財産を誰かに譲りたい場合は、生前贈与契約書を作成しましょう。これにより、誰に何をいつ贈与したのかが明確になり、後々のトラブルを防ぐことができます。ただし、贈与税の問題も絡んでくるため、税理士とも連携しながら進めるのが賢明です。行政書士は、契約書作成の専門家として、この生前贈与契約書の作成をお手伝いできます。
対策3:死因贈与契約を結ぶ
「私が死んだら、この不動産をあなたにあげる」というように、贈与者の死亡によって効力が発生する贈与契約を死因贈与契約といいます。これも書面で残すことが重要です。遺言と似ていますが、契約であるため受贈者(もらう側)の合意が必要です。特定の財産だけを確実に誰かに渡したい場合に有効な手段となり得ますが、遺言との違いやメリット・デメリットを理解した上で活用する必要があります。行政書士は、死因贈与契約書の作成もサポートできます。
対策4:家族信託を活用する
近年注目されているのが家族信託です。これは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産を託し、特定の目的(例えば、自分の老後の生活や介護、あるいは障がいのある子の生活支援など)のために、その財産を管理・処分してもらう制度です。遺言では実現できないような、より柔軟な財産の管理や承継の形を設計できます。例えば、「自分が亡くなった後は妻に財産を使い、妻が亡くなった後は長男に」といった、二次相続以降の承継先を指定することも可能です。 家族信託契約書の作成は複雑であり、高度な専門知識が必要です。行政書士は、お客様のニーズに合わせた家族信託の設計や契約書作成のコンサルティングを行っています。
対策5:話し合いの内容を書面に残す(合意書・覚書)
相続人間で何らかの合意をした場合や、被相続人が生前に特定の意思を示した場合、その内容を合意書や覚書として書面に残しておくことも、後の紛争予防に役立ちます。ただし、これが法的に有効な遺言の代わりになるわけではありませんので、注意が必要です。あくまで、話し合いの経緯や当事者の認識を記録しておくものと捉えましょう。行政書士は、このような書面作成のサポートも行います。
対策6:エンディングノートを活用する(補助的手段として)
エンディングノートは、自分の終末期医療の希望や葬儀の希望、財産に関する情報、家族へのメッセージなどを書き留めておくノートです。これ自体に法的な効力はありませんが、自分の意思を家族に伝える補助的なツールとして非常に有効です。遺言書と併用することで、より自分の想いを正確に伝えることができるでしょう。
困ったときは行政書士にご相談ください
相続や遺言に関する手続きは複雑で、専門的な知識が求められる場面が少なくありません。「何から手をつければいいのか分からない」「自分の場合はどの方法が最適なのか」と悩んだら、ぜひ身近な法律家である行政書士にご相談ください。
行政書士は、皆様の「想い」を法的に確かな形にするお手伝いをします。
- 遺言書作成サポート: 自筆証書遺言のアドバイス、公正証書遺言の原案作成、証人としての立ち会いなど。
- 相続人調査・財産調査: 戸籍謄本等を取り寄せ、法的に誰が相続人になるのかを確定したり、不動産や預貯金などの相続財産を調査したりします。
- 遺産分割協議書作成: 相続人全員の合意に基づいて、誰がどの財産をどれだけ相続するかを明確にする書類を作成します。これは後の不動産の名義変更(司法書士の業務)や預貯金の解約手続きに必要となります。
- 家族信託契約書の作成支援: お客様の状況やご希望に合わせたオーダーメイドの家族信託契約を設計し、契約書作成をサポートします。
- 各種契約書作成: 生前贈与契約書、死因贈与契約書など、お客様のニーズに合わせた契約書を作成します。
- 相続手続き全般に関する相談・アドバイス: 相続に関する疑問やお悩みに対し、専門家として的確なアドバイスを提供します。
- 他士業との連携: 必要に応じて、弁護士(紛争解決)、税理士(相続税申告)、司法書士(不動産登記)など、他の専門家とスムーズに連携し、ワンストップでの問題解決を目指します。
特に、「争いを未然に防ぐ」予防法務の観点から、行政書士は大きな力を発揮します。 遺言書の作成や家族信託の導入は、まさにその代表例です。
まとめ:大切な家族のために、今できること
「あの時、ああ言っていたのに…」 「そんな話は聞いていない…」
口約束は、時として残された家族の間に深い溝を作ってしまいます。愛情や感謝の気持ちから発せられた言葉であっても、法的な裏付けがなければ、その想いは正しく伝わらず、かえって争いの種になりかねません。
この記事を読んでくださっている40代、50代の皆さんは、ご自身の親御さんの相続について考える機会もあれば、そろそろご自身の終活について考え始める方もいらっしゃるでしょう。
大切なのは、「言ったつもり」「聞いたつもり」にせず、明確な形で意思を残すこと。そして、少しでも不安や疑問を感じたら、早めに専門家に相談することです。
「まだ先のことだから」「うちは家族仲が良いから大丈夫」と思っている方も、万が一の事態を想定し、備えておくことが、結果として家族を守ることにつながります。
私たち行政書士は、皆様の不安に寄り添い、円満な相続の実現に向けて全力でサポートいたします。初回の相談は無料で行っている事務所も多くありますので、まずは気軽にお近くの行政書士事務所のドアを叩いてみてください。あなたのその一歩が、未来の家族の笑顔を守る確実な一歩となるはずです。