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相続セミナー 第14回:自筆証書遺言、法務局保管制度の活用法 ~メリットと手続き~

「自分で遺言書を書きたいけど、失くしたり、誰かに書き換えられたりしないか心配…」「自筆証書遺言は、亡くなった後に裁判所の検認が必要って聞いたけど、もっと簡単な方法はないの?」

第11回ブログでは、手軽に作成できる「自筆証書遺言」について、そのメリットと、方式不備による無効リスクや保管上の課題といった注意点を解説しました。手軽さの裏には、確かにいくつかの大きなハードルが存在します。

しかし、これらの自筆証書遺言のデメリットを大幅に軽減し、より安全・確実に活用できるようにするための画期的な制度が、2020年7月からスタートしています。それが、今回ご紹介する「自筆証書遺言書保管制度」です。

この制度を上手に活用することで、自筆証書遺言の「手軽さ」というメリットを活かしつつ、その「不安」を解消することが期待できます。この記事では、自筆証書遺言書保管制度とはどのようなものか、その大きなメリット、利用手続き、注意点、そして行政書士がどのようにサポートできるのかを詳しく解説していきます。

自筆証書遺言のこれまでの課題(おさらい)

まず、従来の自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用しない場合)が抱えていた主な課題を振り返ってみましょう。

  1. 紛失・隠匿・改ざんのリスク: 自宅などで保管されることが多いため、遺言者自身が保管場所を忘れたり、相続人に発見されなかったりする可能性があります。また、一部の相続人にとって不利な内容の場合、隠されたり、破棄されたり、あるいは内容を不正に書き換えられたりする危険性がありました。

  2. 家庭裁判所での「検認」手続きが必要: 相続開始後、遺言書(封印されている場合は開封せずに)を家庭裁判所に提出し、「検認」という手続きを経る必要がありました。検認は、遺言書の現状を確認し偽造・変造を防ぐための手続きですが、相続人全員に通知され、戸籍謄本などの多くの書類を準備し、裁判所に出頭する必要があるなど、時間と手間がかかるものでした。

これらの課題は、せっかく作成した遺言書の有効性や、その後の相続手続きのスムーズな進行に大きな影響を与えていました。

自筆証書遺言書保管制度とは?~法務局が遺言書を預かる~

このような自筆証書遺言の課題を解決し、より利用しやすくするために創設されたのが、「法務局における自筆証書遺言書保管制度」です。この制度は、2020年7月10日から全国の法務局(本局・支局・一部の出張所。遺言書保管所として指定されています)で開始されました。

簡単に言うと、遺言者本人が作成した自筆証書遺言の原本を、法務局が安全に保管してくれる制度です。この制度を利用することで、自筆証書遺言の大きなデメリットだった点が解消され、より安心して自筆証書遺言を活用できるようになりました。

自筆証書遺言書保管制度の大きなメリット

この制度を利用することには、多くの大きなメリットがあります。

  1. メリット1:紛失・隠匿・改ざんのリスクがなくなる! 作成した自筆証書遺言の原本を法務局(遺言書保管所)が専用の施設で厳重に保管するため、自宅保管の場合に心配された紛失、盗難、焼失、あるいは相続人による隠匿や改ざんといったリスクがなくなります。遺言者の最終意思が確実に保全されます。

  2. メリット2:家庭裁判所での「検認」が不要になる! これがこの制度の最大のメリットの一つです。法務局に保管された自筆証書遺言については、相続開始後の家庭裁判所における検認手続きが不要となります。これにより、相続人の時間的・精神的負担が大幅に軽減され、相続手続きをよりスムーズに開始することができます。

  3. メリット3:遺言書の存在が公的に記録・証明される! 遺言者が亡くなった後、相続人や受遺者(遺言で財産をもらう人)などは、全国どこの法務局でも遺言書が保管されているかどうかを照会することができます(遺言書情報証明書の交付請求)。また、遺言書の内容の証明書(遺言書情報証明書)の交付を請求したり、遺言書の原本を閲覧したりすることも可能です。これにより、遺言書の存在が不明になることを防げます。

  4. メリット4:形式面のチェック(一部)が受けられる! 遺言書を法務局に預ける際、遺言書保管官(法務局の職員)が、その遺言書が自筆証書遺言としての外形的な要件(例えば、A4サイズの用紙、無地、片面記載、余白の確保、日付・氏名の自署、押印など)を満たしているかをチェックしてくれます。これにより、明らかな形式不備による無効のリスクを減らすことができます。 ただし、注意が必要なのは、このチェックはあくまで形式的なものであり、遺言の内容(例えば、「この財産の分け方は法的に有効か」「遺留分を侵害していないか」など)の有効性や実現可能性まで判断・保証するものではないという点です。

  5. メリット5:死亡時の通知制度(希望者のみ) 遺言者が保管申請時に希望すれば、あらかじめ指定した方(「死亡時通知の対象者」として推定相続人や受遺者等の中から1名)に対し、遺言者が亡くなった際に法務局から「遺言書が保管されていますよ」という旨の通知を送ってもらうことができます。これにより、指定された方は遺言書の存在を確実に知ることができます。(この通知制度は、全ての法務局で利用可能ですが、事前に確認するとよいでしょう。)

これらのメリットにより、自筆証書遺言の利便性と安全性が格段に向上しました。

自筆証書遺言書保管制度の利用手続きの流れ

この制度を利用するための手続きは、以下のステップで進められます。

  1. ステップ1:遺言書の作成 まず、自筆証書遺言を法律の要件に従って作成します。

    • 用紙はA4サイズ、無地で、片面に記載します(両面記載は不可)。
    • ホッチキス止めはせず、各ページにページ番号を振ることが推奨されます。
    • 財産目録を添付する場合は、その目録もパソコン作成が可能ですが、各ページに遺言者の署名と押印が必要です。遺言本文は必ず全文自書です。
  2. ステップ2:保管申請書の作成 法務局のホームページから「遺言書保管申請書」をダウンロードするか、法務局の窓口で入手し、必要事項を記入します。

  3. ステップ3:保管申請する法務局(遺言書保管所)の決定 保管申請ができる法務局は、以下のいずれかを管轄する法務局(遺言書保管所に指定されているところ)です。

    • 遺言者の住所地
    • 遺言者の本籍地
    • 遺言者が所有する不動産の所在地
  4. ステップ4:保管申請の予約 保管申請は、必ず事前に法務局に電話または法務局のホームページから予約する必要があります。予約なしでの申請はできません。

  5. ステップ5:法務局での申請手続き(本人が出頭) 予約した日時に、必ず遺言者本人が法務局の窓口に出頭して申請手続きを行います。代理人による申請は認められていません。 持参する主なものは以下の通りです。

    • 作成した遺言書(封筒には入れません)
    • 遺言書保管申請書
    • 本籍の記載のある住民票の写し(発行後3ヶ月以内)
    • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど顔写真付きのもの)
    • 手数料(遺言書1通につき3,900円。収入印紙で納付)

    窓口では、遺言書保管官が遺言書の形式的なチェックを行います。

  6. ステップ6:保管証の受領 手続きが無事に完了すると、遺言書の名称、遺言者の氏名、生年月日、そして遺言書保管番号などが記載された「保管証」が交付されます。この保管証は、後日、遺言書の閲覧や撤回、または相続人が遺言書情報証明書の交付を請求する際に必要となることがあるため、大切に保管しましょう。

制度利用の際の注意点・デメリット

多くのメリットがある保管制度ですが、利用にあたっていくつか注意しておきたい点もあります。

  1. 遺言者本人が法務局に出頭する必要がある 代理人による申請が認められていないため、遺言者本人が法務局の窓口まで出向かなければなりません。病気や高齢で外出が困難な方にとっては、利用のハードルとなる場合があります(この場合は公正証書遺言の出張作成などを検討)。

  2. 遺言内容の有効性までは保証されない 繰り返しになりますが、法務局が行うのはあくまで外形的な形式チェックのみです。遺言の内容が法的に有効か、相続人間の紛争を招く可能性がないか、遺留分への配慮がされているか、といった実質的な内容については審査しません。内容に不安がある場合は、事前に専門家に相談することが不可欠です。

  3. 申請手数料がかかる 遺言書1通につき3,900円の申請手数料が必要です。

  4. 遺言書の閲覧・撤回・変更にも手続きが必要 一度保管した遺言書の内容を確認したい場合(モニター閲覧または書面による証明書の交付請求)、保管の申請を撤回したい場合、または内容を変更したい場合(新しい遺言書を作成して再度保管申請する)には、それぞれ法務局での手続きが必要となり、手数料もかかる場合があります。

自筆証書遺言書保管制度と行政書士のサポート

自筆証書遺言書保管制度の利用を検討される際、行政書士は以下のようなサポートを提供できます。

  1. 遺言書作成のアドバイスと内容の検討 まず、この制度を利用する前提となる自筆証書遺言が、法的に有効なものとして作成されるよう、書き方や注意点について詳細にアドバイスします。さらに、遺言の内容についても、ご本人の意思を尊重しつつ、将来的な紛争が生じにくいような明確な文案となるよう、一緒に検討し、サポートします。

  2. 保管申請書の作成サポート 法務局に提出する保管申請書の作成を正確に行えるようサポートします。

  3. 必要書類の収集サポート 申請に必要な住民票の写しや戸籍謄本などの公的書類の収集をお手伝いします。

  4. 法務局への同行サポート(可能な範囲で) 遺言者本人が法務局に出頭する際に、行政書士が同行し、手続きが円滑に進むようサポートすることも、ご要望に応じて検討できます(行政書士が代理申請を行うわけではありません)。

  5. 相続開始後の手続きサポート 遺言者が亡くなられた後、相続人の方が遺言書情報証明書の交付請求や遺言書の閲覧請求をする際の手続き、また、関係相続人への通知手続き(遺言書が保管されている旨の証明書が発行された場合に、他の相続人等へ通知がなされる制度があります)についてもサポートできます。

行政書士は、この便利な保管制度を効果的に活用し、より安全で確実な自筆証書遺言を作成・保管できるよう、遺言書の作成段階から相続開始後の手続きまで、幅広く皆様をサポートいたします。

まとめ:自筆証書遺言の弱点を補う、賢い選択肢

今回は、自筆証書遺言の大きなデメリットであった紛失・隠匿・改ざんのリスクをなくし、家庭裁判所での検認手続きを不要にする画期的な制度、「自筆証書遺言書保管制度」について解説しました。

  • この制度を利用することで、自筆証書遺言の安全性が格段に向上する。
  • 利用には一定の手続きと手数料が必要だが、検認不要などのメリットは非常に大きい。
  • ただし、遺言内容の有効性まで法務局が保証するわけではないため、遺言書作成段階での専門家のアドバイスが依然として重要。

自筆証書遺言の手軽さを活かしつつ、その弱点をカバーできるこの制度は、多くの方にとって賢い選択肢の一つとなるでしょう。「自分で遺言を書きたいけれど、安全性も確保したい」という方は、ぜひこの制度の利用を検討してみてください。

そして、遺言書の作成内容や制度の利用方法についてご不明な点があれば、どうぞお気軽に行政書士にご相談ください。

次回は、第15回「失敗しない自筆証書遺言の書き方~法的要件と記載例~」と題して、法的に有効で、かつご自身の想いを正確に伝えるための自筆証書遺言の具体的な書き方について、記載例も交えながら詳しく解説していきます。

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