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相続セミナー 第15回:失敗しない自筆証書遺言の書き方~法的要件と記載例~

「自分で遺言書を書いてみたいけど、どう書けばいいか分からない…」「法律で決められた書き方があるの?間違って無効になったら困る…」

これまでの相続セミナーでは、自筆証書遺言の概要(第11回)や、その安全性を高めるための法務局保管制度(第14回)について解説してきました。手軽に作成できる自筆証書遺言ですが、法的に有効なものとしてご自身の想いを確実に残すためには、守らなければならないルールがいくつかあります。

そこで今回は、実際に自筆証書遺言を作成する際に「どうすれば失敗しないのか」、つまり、法的に有効で、かつご自身の意思が明確に伝わる遺言書を作成するための具体的な書き方、守るべき法的要件、そして簡単な記載例について詳しく解説していきます。

「失敗しない」ためのポイントを押さえて、あなたの最後のメッセージを確かな形にしましょう。

まずは基本!自筆証書遺言の法的要件(おさらいと詳細)

自筆証書遺言が法的に有効と認められるためには、民法第968条で定められた以下の要件を全て満たす必要があります。一つでも欠けると、原則として遺言書全体が無効となってしまう可能性があるため、細心の注意が必要です。

  1. 全文の自書 遺言書の本文、作成した日付、そしてご自身の氏名の全てを、遺言者本人が手書き(自署)しなければなりません。

    • パソコンやワープロで作成したもの、他人に代筆してもらったものは、原則として無効です。これは、筆跡によって遺言者本人の意思で作成されたことを担保するためです。
    • ただし、例外として、2019年の法改正により、遺言書に添付する「財産目録」については、パソコンで作成したり、預金通帳のコピーや不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)そのものを目録として添付したりすることが認められました。しかし、この場合でも、その財産目録の各ページ(両面に記載がある場合は両面とも)に、遺言者本人が署名し、押印する必要があります。遺言の本文(誰に何を相続させるかといった意思表示部分)は、依然として全文自書が必要です。
  2. 日付の自書 遺言を作成した「年月日」を正確に自書しなければなりません。

    • 例:「令和7年5月10日」のように、年月日が特定できるように記載します。
    • 「令和7年5月吉日」や「満70歳の誕生日」といった曖昧な記載は、日付の特定ができず無効となる可能性が非常に高いです。
    • 日付が重要なのは、遺言能力(遺言を作成するのに必要な判断能力)があったかどうかを判断する基準時となったり、複数の遺言書が存在する場合にどちらが新しい(つまり有効な)遺言かを判断したりするためです。
  3. 氏名の自書 遺言者本人の氏名を自書する必要があります。

    • 通常は戸籍上の氏名を正確に記載します。通称やペンネーム、屋号などだけでは、遺言者本人が作成したと特定できず、無効となるリスクがあります。
  4. 押印 遺言書に遺言者本人の印を押す必要があります。

    • 法律上は認印でも構わないとされていますが、本人の意思による作成であることをより明確にするためには、実印を使用し、その印鑑登録証明書を遺言書と一緒に保管しておくか、あるいは法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用することが推奨されます。
    • 指印(拇印)についても、判例では有効とされたケースがありますが、通常の印鑑による押印が望ましいでしょう。シャチハタ印は避けた方が無難です。

これらの4つの要件は、自筆証書遺言を有効にするための絶対条件です。

遺言書作成に使う筆記用具や用紙は?

  • 筆記用具: ボールペンや万年筆など、長期保存しても文字が消えたり薄れたりしにくいものを選びましょう。鉛筆やフリクションボールペンのような、後から消せるものは避けるべきです。
  • 用紙: 特に法律上の規定はありません。便箋、ノート、レポート用紙など、どのような紙でも構いません。ただし、長期保存に耐えられるよう、丈夫な質の良い紙を選ぶと良いでしょう。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、A4サイズの無地で片面印刷(両面不可)といった様式上のルールがありますので、事前に確認が必要です。

自筆証書遺言の基本的な構成と主な記載事項

法的に必須ではありませんが、一般的に自筆証書遺言は以下のような構成で書かれます。

  1. 表題(タイトル) 「遺言書」や「遺言」といった表題を、用紙の一番上に記載すると、何の書類であるかが明確になります。

  2. 本文(遺言の内容) ここが遺言の中心部分です。誰に、どの財産を、どのように相続させるか(または遺贈するか)を、具体的かつ明確に記載します。

    • 誰に(相続人・受遺者の特定): 相続させる相手(または遺贈する相手)の氏名、生年月日、続柄(例:「妻 山田花子(昭和〇年〇月〇日生)」、「長男 山田太郎(平成〇年〇月〇日生)」)などを正確に記載し、誰のことか特定できるようにします。
    • どの財産を(財産の特定): 相続させる財産(または遺贈する財産)を、第三者が見てもどの財産のことか明確に特定できるように具体的に記載します。
      • 不動産の場合:所在、地番、地目、地積(土地)、所在、家屋番号、種類、構造、床面積(建物)など、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載通りに書くのが最も確実です。
      • 預貯金の場合:金融機関名、支店名、預金の種類(普通預金、定期預金など)、口座番号、口座名義人を正確に記載します。
      • 株式の場合:銘柄名、株数、証券会社名、支店名、口座番号などを記載します。
    • どのように相続させるか(相続方法の指定): 「相続させる」「遺贈する」「〇分の〇の割合で相続させる」など、どのような形で財産を渡したいのかを明確に記載します。
  3. 付言事項(ふげんじこう) 本文の後に、家族への感謝の言葉、なぜこのような財産の分け方にしたのかという理由、葬儀や納骨に関する希望、残される家族へのメッセージなどを書き添えることができます。これらは法的な拘束力を持つものではありませんが、遺言者の想いを伝え、相続人間の感情的な対立を和らげたり、遺言内容への理解を促したりする効果が期待できます。

  4. 作成日付 前述の通り、遺言を作成した年月日を正確に自書します。

  5. 遺言者の署名・押印 遺言者の氏名を自署し、その下に押印します。

【記載例】シンプルなケースで見てみよう

ここでは、ごく基本的なパターンの記載例をいくつかご紹介します。あくまで一般的な例であり、実際の作成にあたっては、ご自身の状況に合わせて専門家にご相談いただくことをお勧めします。

記載例1:全ての財産を妻に相続させる場合

          遺言書

遺言者 山田一郎は、私の有する一切の財産を、
私の妻 山田花子(昭和30年4月1日生)に相続させる。

付言事項
花子へ、これまで本当にありがとう。
子供たちのこともよろしく頼みます。

令和7年5月10日

              遺言者 山田一郎 印

記載例2:不動産を長男に、預貯金を長女に相続させる場合

          遺言書

1.遺言者 鈴木一郎は、以下の不動産を、
  長男 鈴木太郎(平成2年3月15日生)に相続させる。
  (土地)
   所  在  神戸市中央区〇〇町一丁目
   地  番  123番4
   地  目  宅地
   地  積  150.00平方メートル
  (建物)
   所  在  神戸市中央区〇〇町一丁目123番地4
   家屋番号  123番4
   種  類  居宅
   構  造  木造瓦葺2階建
   床面積  1階 60.00平方メートル
        2階 50.00平方メートル

2.遺言者 鈴木一郎は、以下の預貯金を、
  長女 佐藤良子(旧姓鈴木)(平成5年7月20日生)に相続させる。
  (1)〇〇銀行△△支店 普通預金 口座番号1234567
  (2)××信用金庫□□支店 定期預金 証書番号890123

付言事項
太郎、良子、二人とも仲良く、お互い助け合って生きてください。

令和7年5月10日

              遺言者 鈴木一郎 印

記載例3:財産目録を別紙で添付する場合

          遺言書

遺言者 田中一郎は、私の有する別紙財産目録記載の
全ての不動産を、妻 田中春子(昭和40年5月5日生)に相続させる。
また、私の有する別紙財産目録記載の全ての預貯金を、
長男 田中太郎(平成5年8月8日生)に相続させる。
その他の財産は、妻 田中春子及び長男 田中太郎が
各2分の1の割合で相続する。
(財産目録は別紙のとおり)

付言事項
(省略)

令和7年5月10日

              遺言者 田中一郎 印

(この場合、別紙の財産目録の各ページに田中一郎さんの署名と押印が必要です。)

記載する際のさらなる注意点・失敗を防ぐためのポイント

  • 曖昧な表現は絶対に避ける: 「財産を適当に分けるように」「家は長男に任せる」などの曖昧な表現は、解釈を巡って紛争の原因になります。具体的に、明確に記載しましょう。
  • 財産・相続人を正確に特定する: 上記の記載例のように、誰が見てもどの財産か、誰のことかが分かるように具体的に記載することが重要です。
  • 加除訂正の方法は厳格: もし書き間違えた場合、法律で定められた訂正方法(訂正箇所を指示し、変更した旨を付記して署名し、かつその訂正箇所に押印する)がありますが、非常に厳格です。一つでも誤ると訂正が無効になるばかりか、遺言書全体の有効性が疑われることもあります。したがって、間違えた場合は、面倒でも最初から全文を書き直す方が安全です。
  • 複数ページになる場合: 遺言書が複数ページにわたる場合は、各ページの間に契印(割印)を押しておくことが望ましいです。これは法律上の必須要件ではありませんが、ページの一体性を示し、差し替えなどを防ぐために有効です。また、各ページにページ番号(例:「1/3」「2/3」「3/3」)を振ると良いでしょう。
  • 遺言能力を疑われないために: 判断能力がはっきりしている時に作成するのはもちろんですが、心配な場合は、作成した日に医師の診察を受けて診断書をもらっておいたり、遺言書を作成した状況について日記やメモを残しておいたりすることも、後日の紛争予防に役立つことがあります。

「失敗しない」自筆証書遺言作成と行政書士のサポート

自筆証書遺言はご自身で作成するものですが、法的に有効で、かつご自身の意思が正確に反映されたものを作成するためには、専門家のアドバイスが非常に役立ちます。

行政書士は、以下のようなサポートを提供できます。

  • 法的要件の確認とアドバイス: 作成しようとしている遺言書が、法律で定められた方式を満たしているか、無効になるリスクはないかなどを確認し、具体的なアドバイスをします。
  • 遺言内容の明確化サポート: ご本人の意思を丁寧にお伺いし、それが誤解なく伝わるような、法的に明確で紛争が生じにくい文案となるよう、一緒に内容を検討し、整理するお手伝いをします。
  • 財産目録の作成支援: 財産目録をパソコンで作成する場合の書式のアドバイスや、記載内容の確認などをサポートします。
  • 法務局の自筆証書遺言書保管制度の利用支援: この制度を利用するための申請手続きのサポートを行います。
  • 遺言書作成の前提となる財産調査や相続人調査: これらは行政書士の専門分野であり、正確な遺言書作成の基礎となります。

自分で書くことに少しでも不安がある場合、あるいは、より確実に自分の想いを残したいと考える場合は、無理をせず、まずは行政書士にご相談ください。自筆証書遺言のメリットを活かしつつ、そのリスクを最小限に抑えるためのお手伝いをいたします。もちろん、さらに確実性を求める方には、公正証書遺言の作成サポートも行っております。

まとめ:「正しい書き方」が「確かな想い」を未来へ繋ぐ

今回は、「失敗しない自筆証書遺言の書き方」をテーマに、法的要件や具体的な記載例、注意点について解説しました。

  • 自筆証書遺言は、全文・日付・氏名の自書と押印という法的要件を厳守することが絶対条件。
  • 財産の特定や相続人の指定は、誰が見ても明確に分かるように具体的に記載する。
  • 加除訂正は非常に厳格なため、間違えたら全文書き直すのが最も安全。
  • 付言事項を活用し、家族への想いを伝えることも大切。

手軽に作成できる自筆証書遺言ですが、その手軽さゆえに方式不備で無効になったり、内容が不明確でかえって紛争を招いたりするケースも少なくありません。「正しい書き方」を理解し、慎重に作成することが、ご自身の「確かな想い」を大切な人にしっかりと未来へ繋ぐための第一歩です。

次回は、第16回「公正証書遺言の作成プロセス~準備から完成までの流れ~」と題して、最も安全確実と言われる公正証書遺言が、実際にどのような準備を経て、どのように作成されるのか、その具体的なプロセスをステップごとに詳しく解説していきます。

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