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相続セミナー 第19回:遺言書が見つかったら? ~開封前の注意点と「検認」手続き~

「亡くなった親の部屋を整理していたら、遺言書らしき封筒が出てきた!」「これって、すぐに開けてもいいの?何か特別な手続きが必要なの?」

相続が開始され、故人の遺品整理などをしていると、思いがけず遺言書が見つかることがあります。遺言書は故人の最終意思が記された大切なもの。発見した喜びもつかの間、特にそれが自筆で書かれたものや封印されたものである場合、どのように扱ってよいのか、その後の手続きはどうすればよいのか、戸惑われる方も少なくないでしょう。

誤った対応をしてしまうと、法的なペナルティが科されたり、他の相続人との間で無用な疑念やトラブルが生じたりする可能性もあります。

そこで今回は、遺言書を発見した際にまず何をすべきか、特に開封前の重要な注意点と、家庭裁判所で行う「検認(けんにん)」という手続きについて詳しく解説していきます。正しい知識を身につけ、故人の大切な遺言を適切に扱うための一助となれば幸いです。

遺言書を発見!まず確認すべきことと注意点

故人の遺言書を見つけたら、まず以下の点を確認し、慎重に対応することが大切です。

  1. どの種類の遺言書か確認する(可能であれば) 遺言書にはいくつかの種類があります(詳しくは第11回~第13回ブログ参照)。

    • 公正証書遺言の場合: 公証役場で作成され、原本が公証役場に保管されているものです。通常、正本または謄本が遺言者の手元にあります。公正証書遺言であれば、後述する家庭裁判所での「検認」手続きは不要です。遺言執行者が指定されていればその指示に従い、いなければ相続人間で内容を確認し、速やかに相続手続きを進めることができます。
    • 自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合: これら(特に封印されているもの)を発見した場合は、次の注意点が非常に重要になります。
  2. 封印された遺言書は絶対に勝手に開封しない! 民法第1004条3項には、「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、これを開封することができない。」と定められています。

    • つまり、封筒に糊付けされ、印が押されている(封印されている)自筆証書遺言や秘密証書遺言は、家庭裁判所以外の場所で勝手に開封してはいけません。
    • もし勝手に開封してしまった場合、民法第1005条により5万円以下の過料に処せられる可能性があります。
    • 勝手に開封したからといって、その遺言書自体が直ちに無効になるわけではありません。しかし、過料の対象となるだけでなく、他の相続人から「内容を都合よく書き換えたのではないか」といった疑いを持たれ、紛争の原因となるリスクも生じます。

遺言書を発見したら、まずは落ち着いて、それがどのような種類の遺言書で、封印がされているかどうかを確認しましょう。そして、自筆証書遺言や秘密証書遺言(特に封印されているもの)であれば、次に説明する「検認」の手続きが必要になります。

「検認(けんにん)」手続きとは?その目的と意義

「検認」とは、遺言書(主に自筆証書遺言と秘密証書遺言)の偽造・変造を防止し、遺言書の発見時の状態を明確にしてその後の変化を防ぐための証拠保全の手続きです。遺言書の保管者またはこれを発見した相続人は、相続の開始を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません(民法1004条1項)。

  • 検認の対象となる遺言書:
    • 自筆証書遺言
    • 秘密証書遺言 (ただし、2020年7月から始まった「法務局における自筆証書遺言書保管制度」を利用して法務局に保管されている自筆証書遺言については、この検認手続きは不要です。第14回ブログ参照。)
  • 検認の目的・意義:
    1. 遺言書の現状確認と証拠保全: 遺言書の形状(用紙の種類、枚数など)、日付、署名、押印の状態、加除訂正の状況などを、裁判官が相続人等の立会いのもとで確認し、その内容を「検認調書」という公的な記録に残します。これにより、検認日以降の遺言書の偽造や変造を防ぎます。
    2. 相続人への遺言の存在と内容の告知: 検認期日は相続人全員に通知されるため、相続人に対し、遺言書の存在とその内容を公式に知らせる機会となります。
  • 検認は遺言の有効・無効を判断するものではない: ここが非常に重要なポイントです。検認手続きは、あくまで遺言書の形式や状態を確認する手続きであり、その遺言が法的に有効か無効か(例えば、遺言者の意思能力がなかった、内容が公序良俗に反するなど)を判断するものではありません。遺言の内容の有効性については、別途、訴訟などで争われる可能性があります。
  • 検認を怠った場合の影響: 検認手続きを経なくても、遺言書自体が直ちに無効になるわけではありません。しかし、検認を受けていない自筆証書遺言や秘密証書遺言では、不動産の相続登記や預貯金の解約といった相続手続きが金融機関や法務局で受け付けてもらえないことがほとんどです。また、検認を怠った場合も5万円以下の過料に処せられる可能性があります。

つまり、検認は、その後の相続手続きをスムーズに進めるために、そして遺言書の証拠力を保全するために、法律で定められた重要な手続きなのです。

検認手続きの具体的な流れ

検認手続きは、一般的に以下のステップで進められます。

  1. ステップ1:申立先の家庭裁判所の確認 検認の申立ては、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。

  2. ステップ2:必要書類の準備・収集 申立てに必要な書類は、事案によって多少異なりますが、主に以下のものが必要となります。収集に時間がかかるもの(特に戸籍謄本類)もあるため、早めに準備を始めましょう。

    • 検認申立書: 家庭裁判所の窓口やウェブサイトで入手できます。
    • 遺言者の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含みます): これにより、法定相続人を確定させます。
    • 相続人全員の戸籍謄本(現在戸籍):
    • (場合により)遺言者の住民票の除票または戸籍の附票
    • (場合により)相続人全員の住民票
    • 収入印紙: 遺言書1通につき800円分。
    • 連絡用の郵便切手: 家庭裁判所によって金額や種類が異なるため、事前に確認が必要です。
  3. ステップ3:家庭裁判所への申立て 準備した申立書と添付書類一式を、管轄の家庭裁判所に提出します。郵送での申立ても可能です。

  4. ステップ4:検認期日の指定と通知 申立てが受理されると、家庭裁判所から検認を行う日時と場所(検認期日)が指定され、申立人および他の相続人全員に通知されます。申立てから期日までには、通常1ヶ月程度の期間がかかることが多いようです。

  5. ステップ5:検認期日当日

    • 申立人の出席: 申立人は、指定された日時に、遺言書(封印されている場合は封印されたまま)、自身の印鑑、本人確認書類などを持参して家庭裁判所に出頭します。
    • 他の相続人の出席: 申立人以外の相続人は、検認期日に出席する義務はありませんが、立ち会うことは可能です。
    • 遺言書の開封と確認: 裁判官が、出席した相続人やその代理人の立会いのもと、遺言書を開封し(封印されている場合)、遺言書の用紙の種類、枚数、筆跡、署名押印の状態、日付、訂正箇所の状態などを確認します。
    • 検認調書の作成: 確認した内容は、裁判所書記官によって「検認調書」という公的な文書に記録されます。
  6. ステップ6:検認済証明書の申請・受領 検認手続きが無事に終了した後、申立人は家庭裁判所に対して「検認済証明書」の交付を申請することができます(1通につき150円の収入印紙が必要)。この検認済証明書が付された遺言書(またはその写し)が、その後の不動産の相続登記や預貯金の解約などの各種相続手続きにおいて、遺言書が検認を経たことを証明する書類として必要になります。

検認手続きにかかる期間と費用

  • 期間: 家庭裁判所に検認の申立てをしてから、実際に検認期日が開かれ、検認済証明書を受け取るまでには、通常1ヶ月から2ヶ月程度の期間を見ておくとよいでしょう。
  • 費用:
    • 申立手数料(収入印紙):遺言書1通につき800円
    • 連絡用郵便切手代:数千円程度(裁判所により異なる)
    • 戸籍謄本等の取得費用:1通あたり数百円×必要通数
    • 検認済証明書発行手数料:1通につき150円
    • 専門家(行政書士、弁護士など)に申立書の作成や書類収集を依頼する場合は、別途その報酬が必要になります。

遺言書が複数見つかった場合は?

もし、日付の異なる自筆証書遺言などが複数見つかった場合は、原則として全ての遺言書について検認手続きを行う必要があります(公正証書遺言は検認不要)。

遺言の内容が相互に抵触する場合(例えば、ある財産について新しい遺言では別の処分方法が指示されている場合など)は、法律上、日付の最も新しい遺言の内容が優先されるのが原則です(民法1023条)。

検認手続きと行政書士のサポート

検認手続きは、ご自身で行うことも可能ですが、戸籍謄本等の収集や申立書の作成など、煩雑で手間のかかる作業も伴います。行政書士は、このような検認手続きに関して、以下のようなサポートを提供できます。

  1. 検認申立書の作成支援: 家庭裁判所に提出する検認申立書や、添付書類として必要となる相続関係説明図などの作成を支援します。
  2. 必要書類の収集代行: 検認申立てに不可欠な、遺言者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類や、相続人全員の戸籍謄本などの収集を、ご依頼者に代わって行います。これは行政書士の専門分野であり、迅速かつ確実に収集することが可能です。
  3. 手続き全体の流れの説明とアドバイス: 検認手続きがどのように進むのか、何に注意すべきかなど、全体像を分かりやすくご説明し、ご不安を解消するためのお手伝いをします。
  4. 検認後の相続手続きサポート: 検認が無事に終わった後の、遺産分割協議書の作成や、預貯金の解約・名義変更、不動産の相続登記(司法書士と連携)といった、具体的な相続手続きについても、引き続きサポートを提供できます。

行政書士にご相談いただくことで、相続人の皆様の負担を軽減し、スムーズに検認手続きを行い、その後の相続手続きへと進むためのお手伝いをいたします。

まとめ:遺言書発見時の正しい対応が円満相続の第一歩

今回は、遺言書を発見した場合の開封前の注意点と、家庭裁判所で行う「検認」手続きについて詳しく解説しました。

  • 封印された自筆証書遺言や秘密証書遺言は、勝手に開封せず、家庭裁判所で検認手続きを受ける必要がある(法務局保管制度を利用した自筆証書遺言は除く)。
  • 検認は、遺言書の偽造・変造を防ぐための証拠保全手続きであり、遺言の有効・無効を判断するものではない。
  • 検認手続きには、戸籍謄本等の収集や申立書の作成が必要で、一定の時間と手間がかかるが、その後の相続手続きに不可欠。

故人の大切な遺言書を適切に扱い、その意思を尊重するためにも、発見時の正しい対応と検認手続きの重要性をぜひご理解ください。そして、もし手続きに不安を感じたり、サポートが必要だと感じたりした場合は、決して一人で抱え込まず、行政書士などの専門家にお気軽にご相談ください。

次回は、第20回「遺言書が無効になるケース~作成時の注意点とトラブル例~」と題して、せっかく作成した遺言書が法的に無効とされてしまうのはどのような場合か、具体的なケースやトラブル例を挙げながら、作成時の注意点を総まとめとして解説していきます。

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