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相続セミナー 第20回:遺言書が無効になるケース~作成時の注意点とトラブル例~

「せっかく遺言書を作ったのに、後で無効だなんてことになったら…」「どんな場合に遺言が無効になるのか、具体的に知っておきたい。」

【第2部:遺言のすべて - 想いを形にする】(第9回~第19回)では、遺言書の重要性から始まり、様々な種類の遺言書、その作成方法や関連する手続きについて詳しく解説してまいりました。遺言書が、ご自身の想いを未来へ繋ぐための強力な法的ツールであることをご理解いただけたかと存じます。

しかし、残念ながら、せっかく作成した遺言書も、法律で定められた要件を満たしていなかったり、作成時の状況に問題があったりすると、法的に「無効」と判断されてしまうことがあります。そうなると、故人の意思は実現されず、結局は法定相続に戻ったり、相続人間で新たな紛争が生じたりする可能性も否定できません。

そこで、【第2部】の締めくくりとなる今回は、どのような場合に遺言書が無効になってしまうのか、具体的なケースや実際に起こりうるトラブル例を挙げながら、遺言書作成時に絶対に押さえておくべき注意点を総まとめとして解説していきます。失敗しない遺言書作成のために、ぜひ最後までお読みください。

遺言が有効であるための基本的な条件

まず、遺言書が法的に有効と認められるためには、いくつかの基本的な条件を満たしている必要があります。

  1. 遺言能力があること: 遺言をするためには、満15歳以上であること(民法961条)、そして遺言の内容を理解し、その結果どうなるかを判断できる能力(意思能力または事理弁識能力)が必要です(民法963条)。
  2. 法律で定められた方式に従っていること: 遺言は、民法で定められた厳格な方式に従って作成されなければなりません。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言など、それぞれの方式に応じた要件を満たす必要があります(民法960条)。
  3. 遺言の内容が確定でき、実現可能で、公序良俗に反しないこと: 遺言の内容が曖昧で解釈できなかったり、実現不可能なものであったり、社会の一般的な道徳観念や秩序に反するものであったりする場合は、その部分または全部が無効となることがあります。

これらの基本条件を踏まえた上で、具体的に無効となるケースを見ていきましょう。

遺言書が無効になる主なケース

遺言書が無効と判断される主なケースには、以下のようなものがあります。

1. 方式の不備(特に自筆証書遺言で多く見られます)

自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、法律で定められた方式を一つでも欠くと無効になるリスクが高いです。

  • 全文、日付、氏名の「自署」がない: これらは全て遺言者本人の手書きである必要があります。パソコンやワープロで作成された本文、ゴム印の日付や氏名、他人に代筆してもらったものは原則として無効です(財産目録の例外規定は第11回、第15回参照)。
  • 日付の記載が不正確・または欠如: 「令和〇年〇月吉日」のように日付が特定できない場合や、日付そのものの記載がない場合は無効となります。
  • 署名が本名でない、または欠如: 通称やニックネーム、イニシャルのみの署名では、遺言者本人を特定できず無効となる可能性があります。戸籍上の氏名を正確に記載しましょう。
  • 押印がない: 自筆証書遺言には押印が必要です。印鑑の種類に法律上の定めはありませんが、本人の印であることが明確なものが望ましいです。
  • 加除訂正の方法が不適切: 遺言書の内容を訂正する場合、法律で定められた厳格な方式(訂正箇所を示し、変更した旨を付記して署名し、かつその箇所に押印する)に従わなければ、その訂正は無効となります。訂正箇所が多い場合は、全文を書き直す方が安全です。
  • 共同遺言の禁止(民法975条): 夫婦や親子などが、1通の遺言書で共同して遺言をすることは法律で禁止されています。もし共同で作成された場合、その遺言全体が無効となります。遺言は必ず一人一通で作成しなければなりません。

2. 遺言能力の欠如

遺言を作成した当時に、遺言者に十分な意思能力(遺言の内容やその結果を理解し判断できる能力)がなかったと認められる場合、その遺言は無効となります。

  • 認知症が進行していた場合: 医師の診断書や介護記録などから、遺言作成時に意思能力がなかったと判断されるケース。
  • 重度の精神疾患を患っていた場合。
  • 泥酔状態や薬物の影響下にあった場合。 特に高齢の方が作成した遺言書については、後に相続人間で遺言能力の有無が争われることが少なくありません。

3. 遺言内容の不確定・不明確

遺言書に書かれた内容が曖昧で、具体的にどの財産を誰に相続させるのか、あるいは遺贈するのかが特定できない場合、その部分または遺言全体が無効となることがあります。

  • 例:「私の財産の一部をAに相続させる」だけでは、どの程度の割合か、どの財産か不明確です。
  • 例:「お世話になったBさんに適当に分ける」なども、具体的な内容が確定できません。

4. 公序良俗に反する内容

遺言の内容が、社会の一般的な道徳観念や公の秩序に反するものである場合、その部分は無効とされます(民法90条)。

  • 例:愛人関係の維持を条件として財産を遺贈する内容、犯罪行為を助長するような内容など。

5. 詐欺または強迫によって作成された遺言

遺言者が、他人から騙されたり(詐欺)、脅されたり(強迫)して、本心ではない内容の遺言書を作成させられた場合、その遺言は取り消すことができます(民法96条)。ただし、詐欺や強迫の事実を立証することは容易ではない場合もあります。

6. 複数の遺言書があり、内容が抵触する場合の処理

遺言者はいつでも遺言を撤回したり、新しい遺言で内容を変更したりできます。日付の異なる複数の有効な遺言書が存在し、その内容が互いに抵触する場合(例えば、ある不動産について、古い遺言では長男に、新しい遺言では長女に相続させると記載されている場合など)は、原則として日付の最も新しい遺言の内容が優先され、古い遺言の抵触する部分は撤回されたものとみなされます(民法1023条)。 ただし、新しい日付の遺言書が方式不備などで無効な場合は、その無効な遺言によっては古い遺言は撤回されず、古い遺言が有効となることに注意が必要です。

7. 証人の欠格(公正証書遺言・秘密証書遺言の場合)

公正証書遺言や秘密証書遺言の作成には、法律で定められた欠格事由に該当しない証人の立会いが必要です。もし、証人になれない人(例えば、推定相続人や受遺者、未成年者など)が証人として立ち会っていた場合、その遺言は無効となってしまいます。

【トラブル事例紹介】遺言書が無効になったり、問題が生じたりしたケース

実際に起こりうるトラブルの例をいくつかご紹介します。

  • 事例1:日付なしのラブレター? Aさんが亡くなった後、引き出しから「妻へ。私の財産は全て君に。愛してる。一郎より」と書かれた手紙が見つかりました。押印はありましたが、日付の記載がありませんでした。これは日付の欠如により自筆証書遺言としては無効となり、法定相続となりました。
  • 事例2:作成時の判断能力が焦点に Bさんは高齢で、晩年は認知症の症状が見られました。亡くなった後、Bさん名義の公正証書遺言が見つかり、特定の介護施設に全財産を遺贈する内容でした。相続人である子供たちは、作成時のBさんの意思能力に疑問を持ち、遺言無効確認の訴えを起こしました。
  • 事例3:「主な財産」の解釈で大揉め Cさんの自筆証書遺言には「私の主な財産は長男に相続させる」とだけ書かれていました。Cさんには自宅不動産の他に預貯金や株式もありましたが、何が「主な財産」に該当するのか、相続人間で解釈が真っ向から対立し、深刻な紛争に発展しました。
  • 事例4:夫婦連名の「愛の誓い」遺言 Dさん夫妻は、仲睦まじく「私たち夫婦の財産は、どちらかが亡くなったら残った方が全て相続し、二人とも亡くなったら子供たちに平等に分ける」という内容の遺言書を、夫婦連名で1通作成し、署名押印していました。しかし、共同遺言は禁止されているため、この遺言は無効と判断されました。

これらの事例は、ほんの一例です。遺言書の作成には、細心の注意が必要であることがお分かりいただけるでしょう。

失敗しない!有効な遺言書を作成するための総まとめ的注意点

せっかくの遺言書が無効にならないよう、また、後日の紛争を招かないよう、作成時には以下の点に最大限注意しましょう。

  1. 遺言の種類に応じた法的要件を厳守する。
  2. 遺言能力がはっきりしている(判断能力が十分な)時に作成する。
  3. 誰に、どの財産を、どのように相続させる(遺贈する)のか、具体的かつ明確に記載する。
  4. 財産(不動産、預貯金など)は、第三者が見ても特定できるように正確に表示する。
  5. 相続人や受遺者も、氏名、生年月日、続柄などを正確に記載し特定する。
  6. 証人が必要な遺言方式(公正証書遺言、秘密証書遺言)の場合は、証人の欠格事由に注意する。
  7. 自筆証書遺言の場合、加除訂正は極力避け、間違えたら全文書き直すのが安全。
  8. 内容が複雑な場合や、少しでも不安がある場合は、必ず専門家(行政書士、弁護士、公証人など)に相談する。

行政書士による「失敗しない遺言書」作成のサポート

行政書士は、皆様が法的に有効で、かつご自身の真意を正確に反映した「失敗しない遺言書」を作成できるよう、専門家として以下のようなサポートを提供します。

  • 法的要件の確認とアドバイス: 選択しようとしている遺言方式の法的要件を分かりやすくご説明し、方式不備による無効リスクを避けるための的確なアドバイスを行います。
  • 遺言内容のコンサルティングと文案作成支援: 遺言者ご本人のご意思やご希望、ご家族への想いを丁寧にヒアリングし、それが法的に問題なく、かつ明確な形で遺言書に反映されるよう、最適な文案の作成をサポートします。
  • 公正証書遺言作成のトータルサポート: 公証人との打ち合わせの調整、必要書類の収集、証人としての立会い(または信頼できる証人の手配)など、公正証書遺言作成の一連のプロセスをスムーズに進めるお手伝いをします。
  • 自筆証書遺言書保管制度の利用支援: 自筆証書遺言の安全性を高める法務局の保管制度について、そのメリットや利用手続きを詳しくご説明し、申請をサポートします。
  • 遺言能力に関するアドバイス: 遺言能力について懸念がある場合には、医師の診断書の取得を勧めたり、作成時の状況を記録しておくことの重要性など、将来の紛争予防のためのアドバイスも行います。

行政書士は、遺言書が無効になるリスクを最小限に抑え、皆様の大切な想いが確実に実現されるよう、作成段階から専門的な知識と経験をもってサポートいたします。

【第2部:遺言のすべて】の終わりに ~想いを形にする勇気~

今回の第20回をもちまして、【第2部:遺言のすべて - 想いを形にする】は一区切りとなります。この第2部では、遺言書の基本的な重要性から始まり、様々な種類の遺言書、その作成方法、遺言でできること、遺言執行者の役割、そして遺言書が無効になるケースまで、多岐にわたるテーマについて解説してまいりました。

遺言書は、残される大切な家族への最後のラブレターであり、ご自身の人生の集大成を未来へ繋ぐための架け橋です。それは、単に財産を分けるという行為を超えて、深い愛情や感謝の気持ち、そして時には人生の教訓をも伝えることができる、非常にパーソナルで力強いメッセージとなり得ます。

このセミナーで得た知識が、皆様にとって、ただの情報として終わるのではなく、実際に「想いを形にする」ための一歩を踏み出す勇気となれば、これ以上の喜びはありません。相続や遺言に関するお悩みは、決して一人で抱え込まず、どうぞお気軽に私たち行政書士のような専門家にご相談ください。

次回からの予告

次回からは、いよいよ【第3部:民事信託(家族信託)の活用】がスタートします! 近年、高齢化社会における新たな財産管理・承継の手段として注目を集めている「家族信託」。遺言や成年後見制度とはまた異なる特徴を持つこの制度について、その基本的な仕組みから具体的な活用事例、メリット・デメリットまで、分かりやすく解説していく予定です。どうぞご期待ください!

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