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相続セミナー 第23回:家族信託の登場人物~委託者・受託者・受益者とは?~

「家族信託って、誰が何をする仕組みなの?」「委託者、受託者、受益者…言葉は聞くけど、それぞれの役割がよく分からない…」

前回の第22回ブログでは、なぜ今「家族信託」がこれほどまでに注目されているのか、その背景にある超高齢社会の課題と、それに対する家族信託の可能性について解説しました。財産管理や承継の新しい選択肢として、大きな期待が寄せられていることをご理解いただけたかと思います。

さて、家族信託という制度をより深く理解し、実際に活用を検討する上で、まず押さえておかなければならないのが、その仕組みを動かす「登場人物」たちです。家族信託は、主に「委託者(いたくしゃ)」「受託者(じゅたくしゃ)」「受益者(じゅえきしゃ)」という3つの役割によって成り立っています。

今回のセミナーでは、この3つの主要な登場人物が、それぞれどのような役割を担い、どのような権利や義務を持つのか、そして誰がそれぞれの役割に適しているのかといった点について、具体的に分かりやすく解説していきます。これらの役割と関係性を正確に理解することが、あなたやご家族にとって最適な「オーダーメイド」の家族信託を設計するための大切な第一歩となります。

家族信託の基本構造(おさらい)

まず、家族信託の基本的な仕組みを簡単におさらいしておきましょう。 家族信託とは、

  1. 財産を持っている人(=委託者)が、
  2. 信頼できる人(=受託者)に、その財産の管理・運用・処分を託し、
  3. その財産から生じる利益を、特定の人(=受益者)が受け取る という法律上の枠組みです。この「委託者」「受託者」「受益者」という3者の関係性が、信託契約の核心となります。

それでは、それぞれの登場人物について詳しく見ていきましょう。

登場人物①:委託者(いたくしゃ)~財産を託す「発起人」~

  • 役割・定義: 委託者とは、ご自身の財産(不動産、預貯金、株式など)を信頼できる人に託して、信託を設定する人のことです。いわば、家族信託という仕組みをスタートさせる「発起人」であり、信託する財産の元の所有者です。
  • 誰がなれるか: 原則として、信託する財産を所有している個人または法人が委託者になることができます。ただし、信託契約という法律行為を行うため、十分な判断能力(意思能力)を持っていることが必要です。
  • 主な権利:
    • 信託契約の内容(信託の目的、信託財産、受益者、受託者の権限など)を決定する権利。
    • 信託契約に基づいて、受託者を選任する権利。また、信託契約の定めにより、受託者を解任する権利を持つこともあります。
    • 必要に応じて、信託監督人(受託者の業務を監督する人)や受益者代理人(受益者の権利を代理行使する人)を選任する権利を持つこともあります。
  • 主な義務:
    • 信託契約で定めた財産を、受託者に実際に移転する(名義変更などを行う)義務があります。
  • 注意点: 委託者が亡くなった場合、委託者としての地位は、原則として相続人には引き継がれません(ただし、信託契約で別途定めることは可能です)。信託契約で定められた期間や目的が達成されるまで、信託は継続します。

登場人物②:受託者(じゅたくしゃ)~財産を託され管理する「実行役」~

  • 役割・定義: 受託者とは、委託者から信託された財産(信託財産)の移転を受け、信託契約で定められた目的(信託目的)に従って、受益者のためにその財産を管理・運用・処分する重要な役割を担う人です。いわば、信託という仕組みを実際に動かしていく「実行役」です。
  • 誰がなれるか: 信頼できる個人(成人で判断能力のある人)または法人が受託者になることができます。家族信託では、委託者の子や配偶者といったご家族・ご親族が受託者となるケースが一般的です。しかし、適当な親族がいない場合や、より専門的な管理が必要な場合には、行政書士、弁護士、司法書士などの専門家や、一般社団法人などが受託者となることもあります。
  • 主な権利:
    • 信託契約で定められた範囲内で、信託財産を管理・運用・処分する権限。
    • 信託契約で定められていれば、信託事務の処理に対して報酬(信託報酬)を受け取る権利。
  • 主な義務(非常に重要): 受託者は、受益者のために行動するという非常に重い責任を負います。主な義務としては以下のようなものがあります。
    • 善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ): 「善良な管理者の注意」をもって、信託事務を処理する義務。つまり、一般的な常識と専門知識をもって、慎重かつ適切に財産を管理する義務です。
    • 忠実義務(ちゅうじつぎむ): 専ら受益者の利益のために行動する義務。自己の利益や第三者の利益を図ってはなりません。
    • 分別管理義務(ふんべつかんりぎむ): 信託財産を、受託者自身の固有財産や他の信託財産とは明確に分けて管理する義務。例えば、信託された金銭は、受託者個人の口座とは別に、「受託者 山田太郎 信託口」のような専用の信託口口座で管理します。
    • 帳簿作成・報告義務: 信託事務に関する帳簿や財産状況に関する書類を作成し、保存し、受益者の求めに応じて報告する義務があります。
    • 損失てん補責任・原状回復責任: 受託者がこれらの義務に違反して信託財産に損失を生じさせた場合、その損失を賠償したり、財産を元の状態に戻したりする責任を負うことがあります。
  • 受託者選任時のポイント: 受託者は、信託の成否を左右する非常に重要な役割です。選任にあたっては、以下の点を総合的に考慮する必要があります。
    • 信頼性・誠実性: 何よりもまず、委託者や受益者から見て心から信頼できる人物であること。
    • 財産管理能力: 信託財産の種類に応じた適切な管理・運用能力があるか。
    • 年齢・健康状態: 信託は長期にわたることが多いため、受託者自身が信託期間中に任務を継続できるか。
    • 他の受益者との関係性: 受益者が複数いる場合、公平に利益を分配できるか。 受託者は一人に限らず、複数人を選任することも可能です(共同受託者)。
  • 注意点: 受託者の責任は非常に重いため、安易に引き受けるべきではありません。また、受託者が死亡したり、病気や高齢で任務を継続できなくなったり、あるいは辞任したり解任されたりした場合に備えて、次の受託者となる「後継受託者(こうけいじゅたくしゃ)」や、受託者が一時的に不在の場合の「代行受託者」を、あらかじめ信託契約で定めておくことが非常に重要です。

登場人物③:受益者(じゅえきしゃ)~信託の利益を受ける「主人公」~

  • 役割・定義: 受益者とは、信託された財産から生じる経済的な利益(例えば、不動産からの賃料収入、預貯金の利息や元本の交付、生活費や医療費としての金銭給付など)を受け取る権利(受益権)を持つ人のことです。家族信託は、この受益者の利益のために設定・運営されるため、いわば信託の「主人公」とも言える存在です。
  • 誰がなれるか: 個人でも法人でも受益者になることができます。
    • 自益信託(じえきしんたく): 委託者自身が最初の受益者となるケースが家族信託では一般的です。例えば、高齢の親が委託者となり、自分自身を受益者として、子の受託者に財産管理を任せる場合などです。
    • 他益信託(たえきしんたく): 委託者以外の第三者(例えば、委託者の配偶者、子、孫、障がいのある子など)が受益者となるケースです。
  • 主な権利:
    • 信託契約で定められた信託利益(金銭や財産)を受け取る権利。
    • 受託者の信託事務の処理状況を監督する権利(例えば、帳簿の閲覧請求権など)。
    • 信託契約や法律の定めに従って、受託者の解任を請求する権利を持つ場合もあります。
  • 受益者の連続(受益者連続型信託): 家族信託の大きな特徴の一つとして、最初の受益者が死亡した後、次の受益者(第二受益者)、さらにその次の受益者(第三受益者)へと、受益権をリレー形式で承継させていく設計が可能です(ただし、信託法では、信託設定時から30年経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで、または受益権が消滅するまで、といった一定の期間制限があります)。これにより、遺言では難しかった、数世代にわたる財産承継の希望を実現できる可能性があります。
  • 注意点: 受益者がどのような利益を、いつ、どのような方法で受けられるのか、その権利内容は信託契約で明確に定めておく必要があります。また、受益者が未成年者や判断能力の不十分な方である場合は、その権利を適切に行使できるよう、後述する「信託監督人」や「受益者代理人」の設置を検討することが重要です。

その他の関係者~信託を支える人々~

上記の3つの主要な登場人物の他に、信託の目的や受益者の状況に応じて、以下のような関係者が関わることがあります。

  • 信託監督人(しんたくかんとくにん): 受益者がまだ幼い、判断能力が不十分である、あるいは受益者の権利保護のために特に必要がある場合に、受益者に代わって受託者の業務を監督したり、受益者のために必要な権限を行使したりする人です。信託契約で定めるか、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が選任します。
  • 受益者代理人(じゅえきしゃだいりにん): 受益者に代わって、受益権に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を持つ人です。これも、受益者が自ら権利行使することが難しい場合などに、信託契約で定めるか、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が選任します。

これらの人々は、信託がより適切に、そして受益者の利益のために運営されるよう支える役割を担います。

【事例で理解】登場人物の関係性をイメージしよう

ここで、簡単な事例を通じて、委託者・受託者・受益者の関係性を具体的にイメージしてみましょう。

事例:認知症対策と妻への生活保障のための家族信託

  • 委託者: 夫Aさん(75歳、不動産と預貯金を持つ)
  • 受託者: 長男Bさん(45歳、信頼できるしっかり者)
  • 当初受益者: 夫Aさん自身
  • 第二受益者: 夫Aさんの死亡後、妻Cさん(70歳)

この信託契約では、

  1. Aさんは、所有する不動産と預貯金を長男Bさんに信託します(Aさんは委託者、Bさんは受託者)。
  2. 信託期間中、Aさんは受益者として、不動産からの賃料収入や預貯金から生活費を受け取ります。Bさんは受託者として、Aさんのために財産を管理し、必要な支払いなどを行います。
  3. 将来、Aさんが認知症などで判断能力を失っても、Bさんが受託者として引き続き財産管理を行うため、Aさんの生活は守られます(資産凍結の回避)。
  4. Aさんが亡くなった後は、妻Cさんが第二受益者となり、Bさんは引き続きCさんのために信託財産を管理し、Cさんの生活費などを給付します。
  5. 最終的にCさんも亡くなった時点で信託が終了し、残った財産は(信託契約の定めに従い)長男Bさんや他の子供たちに帰属する、といった設計が可能です。

このように、登場人物の役割と関係性を明確にすることで、信託の目的が具体化されます。

登場人物の設定と行政書士の役割~最適な設計のために~

誰を委託者、受託者、受益者にするか、そしてそれぞれの権利や義務、信託の期間や終了時の取り扱いなどをどのように定めるかは、家族信託の目的を達成し、将来にわたって円滑に機能させるための最も重要な設計ポイントです。

行政書士は、家族信託の専門家として、以下のようなサポートを通じて、皆様の状況やご希望に最適な登場人物の設定と信託全体の設計をお手伝いします。

  • 丁寧なヒアリングと現状分析: ご家族の構成、財産状況、将来へのご希望やお悩みなどを詳しくお伺いし、家族信託の必要性や目的を明確にします。
  • 最適な登場人物の選定サポート: それぞれの役割(特に責任の重い受託者)に誰が最も適しているか、後継受託者をどうするかなど、メリット・デメリットを考慮しながら一緒に検討します。
  • 権利義務の明確化とバランス調整: 受託者の権限と責任、受益者の権利保護など、各当事者の立場とバランスを考慮した、公平で実行可能な内容を提案します。
  • 信託契約書への正確な反映: 決定した登場人物の役割や権限、義務、信託の目的、信託財産の詳細などを、法的に有効かつ明確な形で信託契約書に落とし込みます。
  • 関係者への説明と合意形成サポート: 家族信託は関係者全員の理解と協力が不可欠です。行政書士が中立的な立場から、契約内容や各人の役割について分かりやすく説明し、円満な合意形成をサポートします。

登場人物の設定は、家族信託という「オーダーメイドの服」の採寸のようなものです。専門家である行政書士と一緒に、皆様の体にぴったり合う、最適な設計を目指しましょう。

まとめ:登場人物の理解が、家族信託成功の鍵

今回は、家族信託の仕組みを理解する上で欠かせない「委託者」「受託者」「受益者」という3つの主要な登場人物について、それぞれの役割や権利義務、選任のポイントなどを詳しく解説しました。

  • 家族信託は、財産を託す「委託者」、託されて管理する「受託者」、そして信託の利益を受ける「受益者」という3つの役割によって成り立っている。
  • 特に受託者は、信託財産を適切に管理・処分し、受益者のために行動するという重い責任を負う。
  • 誰をどの役割に設定するか、そしてそれぞれの権利や義務をどのように定めるかは、信託の目的を達成するために非常に重要であり、専門家と共に慎重に検討する必要がある。

これらの登場人物の関係性と役割を正しく理解することが、家族信託を成功させるための重要な鍵となります。

次回は、第24回「遺言 vs 成年後見 vs 家族信託~メリット・デメリット徹底比較~」と題して、家族信託と、これまでにもご紹介してきた遺言や成年後見制度といった他の財産管理・承継の方法とを具体的に比較し、それぞれのメリット・デメリット、そしてどのような場合にどの制度が適しているのかを明らかにしていきます。

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