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相続セミナー第25回 :こんなお悩みありませんか? 家族信託の具体的な活用事例① ~認知症対策~

みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして近年ますます重要性を増している民事信託(家族信託)について、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。

さて、前回の第24回相続セミナーでは「遺言 vs 成年後見 vs 家族信託 ~メリット・デメリット徹底比較~」と題し、それぞれの制度が持つ特徴や、どのような場合にどの制度が適しているのか、その概要をご説明いたしました。

そして今回の第25回では、多くの方が具体的な対策を知りたいと願う「認知症への備え」というテーマに深く切り込みます。特に、「もし認知症になってしまったら、大切な財産はどうなってしまうのだろう…」という切実な不安に対し、家族信託がどのように有効な解決策となり得るのか、具体的な活用事例を交えながら徹底解説いたします。

この記事が、みなさんの将来への不安を少しでも和らげ、具体的な一歩を踏み出すためのお力になれれば幸いです。

なぜ今、「認知症への備え」がこれほどまでに重要なのでしょうか?

ご存知の通り、日本は世界でも有数の長寿国であり、それに伴い認知症になられる方の数も増加の一途をたどっています。内閣府のデータによれば、2025年には65歳以上の高齢者のうち、実に約5人に1人が認知症になると推計されており、これは決して他人事ではありません。

もし、ご自身や大切なご家族が認知症と診断され、判断能力が低下してしまった場合、私たちの生活にはどのような影響が及ぶのでしょうか。

  • 預貯金口座が凍結されるリスク: 金融機関がご本人の意思確認を正確に行えないと判断した場合、預金の引き出しや定期預金の解約、振込といった日常的な取引が一切できなくなる可能性があります。これは、日々の生活費の確保や、必要な医療費・介護費の支払いに深刻な支障をきたすことを意味します。
  • 不動産が活用も処分もできない状態に: ご自宅の売却や賃貸、リフォームといった行為はもちろん、老朽化した実家の建て替えさえも、ご本人の明確な意思確認が取れなければ進めることができません。介護施設への入所費用をご自宅の売却で賄おうと考えていても、その計画が頓挫してしまうのです。
  • 必要な契約行為が難しくなる: 介護サービスの利用契約や、施設への入所契約、さらには入院時の同意手続きなど、生活を支える上で不可欠な契約行為がスムーズに行えなくなる可能性があります。
  • 悪質なセールスや詐欺の標的に: 判断能力の低下は、残念ながら悪意を持った第三者にとっては格好の的となります。高額な商品を次々と契約させられたり、詐欺的な投資話に巻き込まれたりするリスクが高まります。

こうした事態は、ご本人だけでなく、支えるご家族にとっても計り知れない負担となります。だからこそ、判断能力がしっかりしている「今」、将来への備えを真剣に考え、行動に移すことが何よりも大切なのです。その強力な選択肢の一つが、今回ご紹介する「家族信託」です。

家族信託で実現する「認知症に備えた、安心の財産管理」

「家族信託」とは、ご自身の財産(現金、預貯金、不動産、株式など)を、信頼できるご家族(この方を「受託者」と呼びます)に託し、あらかじめご自身で定めた目的(例えば、「私の生活と介護に必要な費用を、この信託財産から支払うこと」など)に従って、その財産の管理・運用・処分をしてもらう法的な仕組みです。

認知症への備えとして家族信託を活用することには、以下のような大きなメリットがあります。

  1. 判断能力が低下した後も、ご家族がスムーズに財産管理を継続できる: これが、家族信託が認知症対策として注目される最大の理由です。信託契約をご本人の判断能力が確かなうちに結んでおくことで、万が一、将来認知症によって判断能力が著しく低下してしまったとしても、受託者であるご家族は、信託契約で定められた権限と目的に基づいて、引き続き財産の管理や必要な支払い、契約行為などを行うことができます。これにより、前述したような資産凍結のリスクを効果的に回避し、ご本人のためにお金を使い続けることが可能になります。

  2. ご自身の意思を反映した、柔軟な財産管理のルールを設定できる: 誰に(受託者)、どの財産を、どのような目的で、どのように管理・処分してもらうか、といった信託契約の内容は、法律の範囲内で比較的自由に、ご自身の希望に沿ってオーダーメイドで設計することができます。「毎月〇〇万円を私の生活費として、信託口口座から私の普通預金口座に振り込む」「将来、私が介護施設に入所する際には、この自宅不動産を売却し、その代金を施設費用や医療費に充当する」といった具体的な指示を契約に盛り込むことが可能です。

  3. 成年後見制度と比較して、より迅速かつ柔軟な対応が期待できるケースがある: 成年後見制度(特に法定後見)は、家庭裁判所の厳格な監督のもとでご本人の財産を保護する制度ですが、その性質上、財産の処分(特に居住用不動産など)に際しては家庭裁判所の許可が必要となるなど、手続きに時間や手間を要することがあります。一方、家族信託では、信託契約の範囲内であり、かつ受益者(多くはご本人)の利益のためであれば、受託者の判断と責任において、比較的迅速かつ柔軟に財産を動かすことが可能です。(ただし、受託者は信託契約および信託法に定められた義務を遵守し、常に受益者のために行動する義務を負います。)

  4. 「おひとりさま」や「お子さんのいないご夫婦」の将来設計にも有効: 信頼できるご親族や、場合によっては専門家を受託者候補として検討することで、ご自身の判断能力低下後や亡き後の財産管理・承継について、きめ細かく道筋をつけておくことができます。

【具体的な活用事例】認知症のお母様の財産を守り、ご家族の安心を実現したA様のケース

ここで、実際に家族信託を活用して、認知症のお母様の財産管理とご家族の将来の安心を実現されたA様の事例をご紹介しましょう。

<ご相談の背景>

  • ご相談者: A様(50代・長男)
  • お母様: B様(80代・軽度の認知症と診断され、最近お金の管理に不安が見られる)
  • ご家族構成: A様の他に、遠方にお住まいの妹C様(50代)
  • 主な財産: B様名義のご自宅不動産、B様名義の預貯金
  • お悩み・ご希望:
    • B様の認知症が進行し、預金口座が凍結されてしまうのではないか、とA様は深く憂慮されていました。
    • 過去にB様が訪問販売で高額なリフォーム契約を結びそうになったことがあり、今後の悪徳商法被害も心配でした。
    • 将来、B様が介護施設へ入所する可能性も考慮し、その際にはご自宅を売却して費用に充てたいと考えていましたが、B様の判断能力が低下した場合に売却手続きができなくなることを懸念されていました。
    • A様ご自身も日中は仕事でお忙しく、また妹C様ともよく話し合い、透明性の高い形でB様の財産を守りたいという強いご希望がありました。

<行政書士による家族信託のご提案と設計サポート>

A様からのご相談を受け、私ども行政書士は、まずB様の現在の判断能力の程度(幸い、この時点では信託契約の内容をご理解いただき、ご自身の意思で契約を締結できる状態でした)、財産の内容、そしてA様とC様のご意向や将来のご希望について、時間をかけて丁寧にヒアリングさせていただきました。 その結果、以下の内容を骨子とする家族信託契約の締結をサポートいたしました。

  • 委託者(財産を託す人): B様(お母様)
  • 受託者(財産を託され管理する人): A様(長男)
    • 当初はA様とC様の共同受託も選択肢として検討しましたが、意思決定の迅速性や責任の所在の明確化、金融機関との手続きの簡便性などを考慮し、A様を単独の受託者とすることでご家族間で合意されました。
  • 受益者(信託から利益を受ける人): B様(お母様)
  • 信託財産: B様名義のご自宅不動産、およびB様名義の預貯金の一部(当面の生活費や小遣い等を除く、まとまった金額)
  • 信託の主な目的:
    1. B様の毎月の生活費、医療費、介護サービス利用料、税金や公共料金などを、信託財産から安定的かつ確実に支払うこと。
    2. B様の心身の状態や生活環境に変化が生じ、例えば有料老人ホームへの入所が必要となった場合には、受託者であるA様の判断と責任において、信託不動産(ご自宅)を売却し、その売却代金をB様の入所一時金や月々の施設利用料、その他の必要な費用に充当すること。
    3. B様がお亡くなりになった時点で信託契約は終了し、その時点で残った信託財産(残余財産)は、A様とC様に均等な割合で帰属させること(いわゆる「清算型」の信託)。
  • その他の重要な取り決め:
    • 受託者であるA様は、少なくとも年に一度、B様(受益者)およびC様(A様の妹、B様の子)に対し、信託財産の管理状況や収支について書面で報告する義務を負うこと。
    • 必要に応じて、受益者代理人や信託監督人(ご家族以外の第三者や専門家など)を選任できる規定を設けること。

<家族信託契約締結によって得られた効果>

  1. 認知症進行後も安心の財産管理体制の確立: B様の預貯金の一部が、受託者A様名義の信託専用口座(いわゆる「信託口口座」)に移管され、A様が責任を持って管理・支出を行う体制が整いました。これにより、万が一B様の認知症が進行し、ご自身での金銭管理が困難になったとしても、A様がB様のために必要なお金を引き出し、支払いを継続できるため、資産凍結の心配がなくなりました。

  2. 将来の不動産売却手続きへの万全な備え: 信託契約において、将来B様が施設入所等でご自宅が不要になった場合に、受託者A様がB様に代わってご自宅を売却できる権限が明確に付与されました。これにより、B様の判断能力の低下を心配することなく、最適なタイミングで不動産を現金化し、B様の介護費用等に充当できる道筋が確保されました。

  3. ご家族間の透明性と納得感の向上: A様だけでなく、遠方にお住まいの妹C様も、信託契約の内容や財産管理の方針について事前に十分な説明を受け、合意の上で進められたため、将来の不安が軽減され、ご家族間の信頼関係もより深まりました。「兄が母のためにきちんと管理してくれる」という安心感が生まれました。

  4. B様ご本人の意思の尊重と安心感: 何よりも、B様ご自身が、判断能力がしっかりしているうちに、ご自身の財産の将来について、信頼する長男に託す形で意思を明確に示すことができた点に、大きな満足感と安心感を得ていらっしゃいました。「これで子どもたちに迷惑をかけずに済む」と安堵の表情を浮かべられたのが印象的でした。

このA様の事例のように、家族信託は、認知症という避けがたいリスクに対し、ご本人の尊厳と意思を最大限に尊重しながら、ご家族が協力して財産を守り、活用していくための非常に有効な法的手段となり得るのです。

家族信託を成功させるために ~行政書士の役割とサポート~

家族信託は、その効果の大きさゆえに、設計や契約書の作成、そしてその後の運用に至るまで、高度な専門知識と細心の注意が求められる制度です。単に「家族に任せる」という簡単なものではなく、法的に有効で、かつ将来にわたって実効性のある仕組みを構築する必要があります。

「家族信託」は、いわばオーダーメイドの家づくりに似ています。 ご家族の状況やご希望という「設計図」を元に、法律という「建材」を使い、将来にわたって安全で快適に暮らせる「家」を建てるのです。その設計から施工監理までをトータルでサポートするのが、私たち行政書士の役割です。

具体的には、以下のようなサポートをご提供しています。

  1. 現状分析と課題の明確化(コンサルティング): まず、みなさんのご家族構成、財産の種類と評価額、将来に対するご希望や不安、解決したい課題などを、時間をかけてじっくりとお伺いします。その上で、家族信託が本当に最適な解決策なのか、あるいは他の制度(例えば、遺言や任意後見制度など)との組み合わせがより効果的なのか、といった点を専門家の視点から多角的に検討し、分かりやすくご説明します。

  2. オーダーメイドの信託契約スキームのご提案: お伺いした内容に基づき、誰を委託者、受託者、受益者とし、どの財産を信託し、どのような目的で、どのように管理・運用・承継していくのか、といった信託契約の具体的な骨子(スキーム)を、みなさんと一緒に練り上げていきます。将来起こりうる様々な事態(例えば、受託者が先に亡くなってしまった場合など)も想定し、柔軟かつ持続可能なプランをご提案します。

  3. 法的に有効な信託契約書の作成サポート: 決定した信託スキームに基づき、法的に有効で、かつ将来の紛争リスクを最大限に低減できるような、詳細かつ明確な信託契約書の案を作成し、その内容を丁寧にご説明します。必要に応じて、契約書を公正証書として作成するための公証役場との調整や、必要書類の収集などもサポートします。

  4. 信託口口座の開設サポートと関係機関との連携: 信託財産を適切に分別管理するための信託口口座の開設手続きについて、金融機関への説明や必要書類の準備などをサポートします。また、不動産を信託財産とする場合には、信託登記を担当する司法書士と、税務上の検討が必要な場合には税理士と、それぞれ緊密に連携を取りながら、手続き全体がスムーズに進むようお手伝いします。

  5. 信託開始後のフォローアップ(ご要望に応じて): 信託契約は締結して終わりではありません。受託者の方が適切に信託事務を遂行できるよう、帳簿作成のアドバイスや、定期的な報告書の作成サポートなど、信託開始後のフォローアップについても、ご要望に応じて対応いたします。

家族信託の検討は、思い立ったが吉日です。しかし、決して焦って結論を出すべきものでもありません。 大切なのは、信頼できる専門家を見つけ、十分に時間をかけて話し合い、ご自身とご家族全員が心から納得できる形で準備を進めることです。

私たち行政書士は、そのための良き伴走者でありたいと考えています。

まとめ:未来への安心を、確かな法的知識でかたちに。家族信託は、そのための「賢い選択」です。

今回の「相続セミナー」では、認知症への備えとしての家族信託の具体的な活用事例と、その実現に向けた行政書士の役割についてお話しさせていただきました。

「もしも」の時に備えて、判断能力が確かな「今」だからこそできることがあります。 それは、ご自身の意思で、ご自身の未来を、そして愛するご家族の未来を、より確かなものにするための準備です。

家族信託は、認知症による資産凍結という大きな不安から解放され、ご本人の尊厳を守り、ご家族が安心して財産を管理・承継していくための、非常に有効で柔軟な法的ツールです。しかし、その設計と実行には、専門的な知識と経験が不可欠です。

「うちはどうなんだろう?」「具体的に何から始めればいいの?」 そんな疑問や不安をお持ちでしたら、どうか一人で抱え込まず、まずは専門家にご相談いただくことをお勧めします。お一人おひとりの状況と想いに真摯に耳を傾け、最適な解決策を一緒に見つけ出すお手伝いを専門家はしてくれます。未来への安心は、今日の一歩から始まります。

次回の「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」第26回相続セミナーでは、引き続き家族信託の具体的な活用事例に焦点を当て、「こんなお悩みありませんか? 家族信託の具体的な活用事例② ~障がいのある子の親なき後問題~」というテーマで詳しく解説してまいります。ご自身がいなくなった後、障がいのあるお子さんの生活や財産をどのように守り、支えていくことができるのか、家族信託がその大きな力となり得ることを、具体的なケースを通じてお伝えします。どうぞご期待ください。

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