
相続セミナー第26回 :こんなお悩みありませんか? 家族信託の具体的な活用事例② ~障がいのある子の親なき後問題~
みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして民事信託(家族信託)に関する情報を、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。
前回の第25回相続セミナーでは、「認知症への備え」というテーマで、家族信託がどのように役立つのか、具体的な活用事例を交えて解説いたしました。多くの方から反響をいただき、関心の高さを改めて感じております。
そして今回の第26回では、これまた多くの方が深い悩みを抱えていらっしゃる「親なき後問題」、特に「障がいのあるお子さんの将来」に焦点を当てます。「私たちが亡くなった後、この子の生活はどうなるのだろう…」「誰がこの子のことを見てくれるのだろう…」そんな切実な親御さんの想いに、家族信託がどのように応えることができるのか、具体的な活用事例を通じて詳しくご説明してまいります。
この記事が、障がいのあるお子さんを持つ親御さんにとって、一条の光となり、未来への具体的な一歩を踏み出すためのお力添えとなれば、これほど嬉しいことはありません。
「親なき後問題」とは? – 親御さんが抱える切実な不安
「親なき後問題」とは、親御さんがご高齢になったり、亡くなられたりした後に、残されたお子さん(特に障がいのあるお子さんや、ひきこもりのお子さんなど、何らかの支援が必要なお子さん)の生活や財産管理がどうなるのか、という深刻な問題です。
特に障がいのあるお子さんをお持ちの親御さんにとっては、日々尽きることのない心配事でしょう。
- 生活費の確保: 「私たちが亡くなったら、この子はどうやって生活していくのだろう?年金だけで足りるだろうか…」
- 住まいの確保: 「今の家に住み続けられるだろうか?施設に入るなら、その費用は誰がどうやって支払うのだろう…」
- 日常のサポート: 「誰がこの子の身の回りの世話や、役所の手続き、病院の付き添いをしてくれるのだろう…」
- 財産管理: 「私たちが遺した財産を、この子自身が適切に管理できるだろうか?騙されたり、無駄遣いしてしまったりしないだろうか…」
- 兄弟姉妹への負担: 「他の兄弟姉妹に、この子の将来のすべてを託してしまうのは申し訳ない…」
- 親の想いの実現: 「この子には、できる限り穏やかで、自分らしい生活を送ってほしい。その想いをどうすれば実現できるのだろう…」
これらの不安に対し、従来は遺言書を作成したり、兄弟姉 Meskiに将来を託したり、成年後見制度の利用を検討したりといった方法が考えられてきました。しかし、遺言だけでは財産の「渡し方」は指定できても、その後の継続的な管理や使い方までは指示できません。また、成年後見制度は強力な保護制度である一方、財産管理が本人の保護に重点を置くため、親御さんが望むような柔軟な財産の活用が難しかったり、後見人への報酬が継続的に発生したりといった側面もあります。
そこで今、これらの課題を解決する新たな選択肢として「家族信託」が大きな注目を集めているのです。
家族信託が「親なき後問題」に光を灯す理由
家族信託は、ご自身の財産を信頼できる人(受託者)に託し、特定の人(受益者=この場合は障がいのあるお子さん)のために、あらかじめ定めた目的(生活支援、療養看護など)に従って管理・運用・処分してもらう制度です。
この仕組みが、「親なき後問題」において、なぜ有効なのでしょうか。
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親の想いを、長期的に、かつ具体的に実現できる: 信託契約の中で、「毎月〇〇万円を生活費として給付する」「医療費や施設費が必要な場合は、信託財産から支払う」「年に一度、旅行費用を支出する」など、お子さんのためのお金の使い道を具体的に定めることができます。そして、親御さんが亡くなった後も、その契約内容に基づいて、受託者が長期にわたりお子さんを支援し続けることができます。
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柔軟な財産管理が可能: 成年後見制度が「本人の財産を守る」ことに主眼を置くのに対し、家族信託は「本人のために財産を積極的に活用する」ことも可能です(もちろん契約内容によります)。例えば、収益不動産を信託財産として、その家賃収入をお子さんの生活費に充て続けるといった設計もできます。
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二次相続以降の財産の行方も指定できる: 親御さんからお子さんへ、そしてお子さんが亡くなった後の残った財産を、さらに別の方(例えば、お世話になったご親族や福祉団体など)へ承継させる、といった「受益者連続型信託」の設計も可能です。これにより、親御さんの想いをより遠くまで繋いでいくことができます。
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受託者と身上監護を行う人との連携: 家族信託は主に財産管理の仕組みですが、お子さんの日常生活のサポートや契約行為を行う成年後見人(親族や専門職が就任)などと、財産を管理する受託者が連携することで、お子さんの生活を両面から支える体制を築くことができます。
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兄弟姉 Prêmioへの過度な負担を軽減: お子さんの将来を特定の兄弟姉妹だけに託すのではなく、信託契約という法的な枠組みの中で、受託者(場合によっては専門家や法人も選択可能)が責任をもって財産管理を行うことで、精神的・物理的な負担を軽減することが期待できます。
【具体的な活用事例】障がいのある長男の「親なき後」に備えたB様のケース
それでは、家族信託を活用して、障がいのあるお子さんの「親なき後」に備えた具体的な事例をご紹介します。
<B様ご一家の状況>
- ご相談者: B様ご夫婦(60代後半)
- お子さん: 長男Cさん(30代・知的障がいがあり、コミュニケーションは可能だが金銭管理や複雑な契約は難しい)、長女Dさん(30代・既婚で遠方に居住)
- 主な財産: B様ご夫婦名義のご自宅不動産、預貯金、若干の有価証券
- お悩み・ご希望:
- 「自分たちが亡くなった後、長男Cが安心して生活していけるか、それが一番の心配です。」
- 「Cには障がい者年金があるが、それだけでは心許ない。私たちが遺す財産を、Cの生活のために少しずつ、長く使っていけるようにしたい。」
- 「長女Dには自分の家庭があり、Cの財産管理で大きな負担をかけたくない。しかし、DにはCのことを見守っていてほしい。」
- 「万が一、Cが私たちより先に亡くなるようなことがあれば、残った財産はDに渡したい。」
<行政書士による家族信託のご提案と設計サポート>
B様ご夫婦の深い愛情と切実な願いを受け止め、行政書士は以下のような家族信託契約をご提案し、その設計と組成をサポートしました。
- 委託者(財産を託す人): B様ご夫婦
- 受託者(財産を託され管理する人): 当初は長女D様も検討しましたが、遠方であることや負担を考慮し、B様ご夫婦と長年付き合いのある信頼できる司法書士法人(または一般社団法人など、専門家が関与する法人格)を受託者とすることを提案。最終的に、専門家である行政書士が紹介した、信託業務に精通した一般社団法人が受託者となることで合意。
- 受益者(信託から利益を受ける人): 当初はB様ご夫婦(ご自身の老後資金管理のため)、B様ご夫婦がお亡くなりになった後は長男Cさん。
- 信託財産: ご自宅不動産(B様ご夫婦の生存中は居住権を確保)、預貯金の一部、有価証券。
- 信託の主な目的(Cさんが受益者となった後):
- Cさんの生活拠点として、現在の自宅に住み続けられるようにする(固定資産税や修繕費なども信託財産から支出)。
- Cさんの障がい者年金で不足する生活費として、毎月一定額をCさんの口座に振り込む。
- Cさんの医療費、介護サービス費、施設利用料など、必要に応じて信託財産から支払う。
- 年に一度、Cさんのレクリエーションや趣味活動のための費用を一定額まで支出する。
- 信託監督人: 長女D様。受託者(一般社団法人)の業務を監督し、Cさんの状況を受託者に伝えたり、受託者から報告を受けたりする役割。これにより、D様は直接的な財産管理の負担を負うことなく、弟Cさんの生活を見守り、関与することができます。
- 残余財産の帰属: Cさんがお亡くなりになった時点で信託契約は終了し、その時点で残っている信託財産は長女D様に帰属する。もしD様も既に亡くなっている場合は、D様のお子さん(B様ご夫婦から見てお孫さん)に帰属するよう指定。
<家族信託契約締結によって得られた効果>
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親御さんの想いを具体化・法制化: B様ご夫婦の「長男Cに、自分たちが亡き後も安心して生活を送ってほしい」という漠然とした願いが、信託契約という法的な文書によって明確な形となり、その実現可能性が格段に高まりました。
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長期にわたる安定的な生活支援の確保: 専門家である一般社団法人が受託者となることで、B様ご夫婦の判断能力が低下した後も、そしてお亡くなりになった後も、契約に従ってCさんのために財産が適切に管理・給付され続ける体制が整いました。
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長女D様の負担軽減と適切な関与: D様は、財産管理という重責を直接負うことなく、信託監督人という立場で弟Cさんを見守り、専門家である受託者と連携を取ることができるようになりました。
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将来の柔軟な対応への備え: 信託契約の中に、将来の状況変化(例えば、Cさんが施設に入所する必要が生じた場合など)に対応するための条項(例えば、自宅を売却して施設費用に充当するなど)も盛り込むことで、より長期的な安心感を確保しました。
B様ご夫婦は、「これで肩の荷が下りた。私たちの想いを専門家が引き継いでくれると思うと、本当に心強い」と、安堵の表情でお話しされていました。
「親なき後問題」対策としての家族信託、検討時の留意点
家族信託は「親なき後問題」に対する強力な解決策となり得ますが、その設計と運用には細心の注意が必要です。
- 受託者の選任は最重要課題: 個人(兄弟姉妹など)に託す場合、その方の年齢、健康状態、専門知識、そして何よりも長期にわたる責任を負えるかどうかが問われます。法人や専門家を受託者とする場合は、信頼性や費用などを十分に比較検討する必要があります。
- 信託契約内容はオーダーメイド: お子さんの障がいの程度や性格、財産の種類や額、他のご家族との関係など、個別の状況に合わせて最適な契約内容を設計する必要があります。テンプレート的な契約では対応しきれないことが多いです.
- 他の相続人への配慮: 家族信託によって特定の相続人の遺留分を侵害しないよう、財産の配分には注意が必要です。
- 税務上の検討: 家族信託は税務上の影響も伴います(贈与税、相続税、所得税など)。必ず税理士などの専門家にも相談し、適切なアドバイスを受けることが不可欠です。
- 身上監護は別途手配が必要: 家族信託は主に財産管理の仕組みです。お子さんの日常的な見守りや介護、契約手続きなどの身上監護については、別途、成年後見制度(特に任意後見契約の活用など)や、信頼できる親族・福祉サービス事業者との連携を検討する必要があります。
家族信託と他の制度(遺言・成年後見)との賢い組み合わせ
「親なき後問題」への備えは、家族信託だけで全てが解決するわけではありません。それぞれの家庭の状況に応じて、遺言や成年後見制度といった他の制度と効果的に組み合わせることが、より万全な対策に繋がります。
- 遺言との連携: 信託財産以外の財産の承継方法を指定したり、信託契約を補完するような想いを付言事項として遺したりすることができます。
- 成年後見制度との連携: 特に任意後見契約を活用し、親御さんが元気なうちにお子さんの将来の身上監護を行う任意後見人(例えば、信頼できる親族や専門家)を選任し、その任意後見人と家族信託の受託者が連携して、お子さんの財産面と生活面をトータルでサポートする体制を構築することが理想的です。
- 生命保険の活用: 親御さんが亡くなった際に、生命保険金を信託財産の原資としたり、受託者の活動資金や信託報酬の支払いに充てたりする設計も考えられます。
どの制度をどのように組み合わせるのが最適かは、専門家とじっくり相談しながら決めていくことが重要です。
家族信託で「親なき後」の想いを繋ぐために ~行政書士の役割とサポート~
障がいのあるお子さんの将来を案じる親御さんの想いは、計り知れないほど深く、切実なものです。私たち行政書士は、その一つひとつの想いに真摯に耳を傾け、家族信託という法的ツールを用いて、その想いを未来へと確実につなぐお手伝いをさせていただくことを使命としています。
家族信託の設計は、単なる法律手続きではありません。それは、親御さんの愛情や願いを、法的な裏付けをもって「かたち」にする創造的な作業です。 私たちは、そのプロセスに最初から最後まで伴走し、みなさんの「こんな風にしてあげたい」という気持ちを最大限に尊重した、オーダーメイドの信託契約づくりをサポートします。
具体的には、以下のようなサポートを通じて、みなさんの「親なき後問題」への備えを力強く後押しします。
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現状と想いの徹底的なヒアリング(コンサルティング): まず、お子さんの現在の状況、将来へのご希望、財産の内容、ご家族構成、そして何よりも親御さんがお子さんに対して抱いていらっしゃる愛情や願い、不安などを、時間をかけて丁寧にお伺いします。このヒアリングこそが、最適な家族信託を設計するための最も重要な土台となります。
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最適な信託スキームの立案とご提案: お伺いした内容に基づき、誰を受託者とし(個人か法人か、その選定基準など)、どの財産を信託し、お子さんのためにどのような給付や支援を行い、信託期間や残余財産の帰属先をどうするかなど、具体的な信託の骨格(スキーム)をご提案します。メリットだけでなく、潜在的なリスクや注意点についても包み隠さずご説明し、ご家族全員が納得できるプランを一緒に練り上げていきます。
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法的に有効かつ想いを反映した信託契約書の作成支援: 決定したスキームに基づき、将来にわたって効力を持ち続け、かつ親御さんの細やかな想いが反映された、法的に万全な信託契約書の案を作成します。難解な法律用語は避け、平易な言葉で丁寧にご説明し、ご納得いただけるまで何度でも修正を行います。必要に応じて、公正証書として作成するための公証役場との調整も代行いたします。
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関係機関との連携および信託開始までのサポート: 信託財産に不動産が含まれる場合の司法書士(登記担当)との連携、税務上の検討が必要な場合の税理士との連携、信託口口座の開設に関する金融機関との調整など、信託契約をスムーズにスタートさせるための各種手続きをサポートし、必要に応じて適切な専門家をご紹介します。
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信託開始後の継続的なサポート(ご要望に応じて): 受託者となられる方へのアドバイス、信託監督人としての関与、定期的な契約内容の見直しのご提案など、信託が開始された後も、ご家族の状況変化に合わせて継続的なサポートをご提供することも可能です。
私たちは、単に法律の専門家として手続きを代行するだけでなく、親御さんの「親心」に寄り添い、共に悩み、共に考え、そして共に未来を創造するパートナーでありたいと願っています。
まとめ:親の想いを、未来へ確実に届けるために。家族信託という「希望のバトン」
今回の「相続セミナー」では、障がいのあるお子さんの「親なき後問題」に対する家族信託の活用という、非常にデリケートで、しかし避けては通れないテーマについてお話しさせていただきました。
親御さんの「この子の将来を守りたい」という深い愛情は、何物にも代えがたい尊いものです。 その想いを、ただ願うだけでなく、法的な裏付けのある「かたち」として、未来のお子さんへと確実に手渡す。家族信託は、まさにそのための「希望のバトン」となり得る制度です。
もちろん、家族信託が万能というわけではありません。しかし、他の制度との組み合わせや、専門家の知恵を借りることで、その可能性は大きく広がります。大切なのは、諦めずに、情報を集め、信頼できる相談相手を見つけることです。
「うちの子の場合はどうだろうか…」「何から相談すればいいのか分からない…」 もし、そのようなお悩みをお持ちでしたら、どうか一人で抱え込まず、まずは私たちのような専門家にご相談ください。私たちは、みなさんの声に真摯に耳を傾け、それぞれの状況に最適な解決策を一緒に考え、その実現に向けて全力でサポートさせていただきます。未来への扉は、必ず開けます。
次回の「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」第27回相続セミナーでは、引き続き家族信託の具体的な活用事例として、「こんなお悩みありませんか? 家族信託の具体的な活用事例③ ~不動産・自社株の共有回避~」というテーマでお届けする予定です。相続財産に不動産や自社株が含まれる場合に起こりがちな「共有」の問題点と、それを家族信託でどのようにスマートに解決できるのか、具体的な事例を交えて分かりやすく解説します。どうぞご期待ください。