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相続セミナー第42回 :数次相続・再転相続 ~複雑化する相続への対応~

みなさん、こんにちは。「相続・遺言・家族信託お役立ちブログ」へお越しいただき、ありがとうございます。このブログでは、相続、遺言、そして民事信託(家族信託)に関する情報を、専門家である行政書士の視点から、分かりやすく、そして実践的な情報をお届けしています。

前回の第41回相続セミナーでは、「相続人と連絡が取れない場合」の対処法として、不在者財産管理人制度や失踪宣告制度について詳しく解説いたしました。困難な状況でも法的な解決策があることをご理解いただけたかと存じます。

さて、相続手続きは、時として予期せぬ形で複雑化することがあります。特に、最初の相続(一次相続)の手続きが終わらないうちに、相続人の一人が亡くなってしまい、さらに次の相続(二次相続)が発生してしまうケースは、関係者を悩ませる典型的なパターンです。

今回の第42回では、このような「数次相続(すうじそうぞく)・再転相続(さいてんそうぞく) ~複雑化する相続への対応~」という、相続が連続して発生し、権利関係が複雑になった場合の対応方法について、詳しくご説明してまいります。

この記事を最後までお読みいただければ、数次相続・再転相続とは何か、どのような問題が生じるのか、そしてその複雑な状況にどのように対処していけばよいのか、その基本的な知識と解決への糸口を見つけていただけるはずです。

「数次相続」とは何か? なぜ手続きが複雑になるのか?

まず、「数次相続」という言葉の意味から確認しましょう。

数次相続とは、最初の相続(これを「一次相続」と呼びます)に関する遺産分割協議や相続登記などの手続きが完了しないうちに、その相続人の一人(一次相続の相続人)が亡くなってしまい、その方についての新たな相続(これを「二次相続」と呼びます)が開始されてしまう状態を指します。つまり、相続が数珠つなぎに、次々と発生していくイメージです。

【具体例で見てみましょう】

  1. 祖父Aさんが亡くなりました(これが一次相続です)。
  2. Aさんの相続人は、妻Bさん、長男Cさん、長女Dさんでした。
  3. Aさんの遺産分割協議がまとまらないうちに、長男Cさんが亡くなってしまいました(これが二次相続です)。
  4. 長男Cさんには、妻Eさんと子Fさんがいました(EさんとFさんがCさんの相続人です)。

この場合、長男Cさんが一次相続(Aさんの相続)で取得するはずだった権利や義務は、二次相続の相続人である妻Eさんと子Fさんが引き継ぐことになります。その結果、妻Eさんと子Fさんは、Aさんの遺産分割協議にも参加しなければならなくなるのです。

数次相続が引き起こす主な問題点

  • 相続人の範囲が雪だるま式に拡大・複雑化する: 一次相続の相続人に加え、二次相続、三次相続…と相続が重なるごとに、関係する相続人の数が増え、それぞれの立場や関係性も複雑になります。
  • 遺産分割協議の難航: 参加する相続人が増えれば増えるほど、全員の意見をまとめ、合意に至ることが格段に難しくなります。面識のない親族同士が協議に参加しなければならないケースも出てきます。
  • 必要書類の膨大化: 各相続段階で、それぞれの被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本などが必要となるため、収集すべき書類が非常に多くなり、時間と手間がかかります。
  • 相続放棄・限定承認の判断の複雑化: どの相続について、誰が、いつまでに承認または放棄の判断をするのか、熟慮期間の管理が複雑になります。
  • 相続登記や税務処理の複雑化: 不動産の相続登記や、相続税の申告・納税も、複数の相続が絡むことで手続きがより専門的かつ複雑になります。

数次相続は、相続手続きを長期間放置していたり、相続人間でなかなか合意が得られなかったりする場合に発生しやすく、問題をさらに深刻化させる要因となります。

「再転相続」とは何か? 数次相続との違いと特殊な選択

次に、「再転相続」という、数次相続と似て非なる、しかし非常に重要な概念についてご説明します。

再転相続とは、相続人(例えば、上記の例でいう長男Cさん)が、自己のために相続の開始があったこと(つまり、被相続人Aさんの死亡と、自分がAさんの相続人であることを知ったこと)を知った時から3ヶ月の熟慮期間内に、相続を承認するか放棄するかの選択をしないまま死亡してしまった場合に、その相続人の地位を、さらにその相続人(上記の例ではCさんの妻Eさんと子Fさん=再転相続人)が引き継ぐことを指します。

数次相続と再転相続の主な違い

最も大きな違いは、**「熟慮期間内に相続人が死亡したかどうか」**という点です。

  • 数次相続: 最初の相続の熟慮期間が経過した後(つまり、単純承認したものとみなされた後)に相続人が死亡した場合や、遺産分割協議が未了のまま死亡した場合など、比較的広い範囲で使われます。
  • 再転相続: 最初の相続の熟慮期間内に、承認も放棄もしないまま相続人が死亡した場合に限定して使われる、より特殊な概念です。

再転相続人の「特別な選択権」

再転相続が発生した場合、再転相続人(上記の例ではCさんの妻Eさんと子Fさん)は、以下の2つの相続について、それぞれ承認するか放棄するかを選択する権利を持ちます。

  1. 一次相続(Aさんの相続)に関する選択: Aさんの財産を相続するか、放棄するか。
  2. 二次相続(Cさんの相続)に関する選択: Cさん自身の固有の財産を相続するか、放棄するか。

そして、この選択を行うための熟慮期間は、再転相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」(つまり、Cさんが亡くなったこと、そしてそれによって自分たちがCさんの相続人となり、かつAさんの相続についても選択権を引き継いだことを知った時)から新たに起算され、原則として3ヶ月以内となります。

この再転相続人の選択は複雑で、例えば、

  • Aさんの相続は承認するが、Cさんの相続は放棄する。
  • Aさんの相続もCさんの相続も両方承認する。
  • Aさんの相続もCさんの相続も両方放棄する。 といった組み合わせが考えられます(ただし、Aさんの相続を放棄した場合は、Cさんの相続財産の中にAさんから相続するはずだった財産は含まれない、といった関係性があります)。

再転相続は、熟慮期間の管理と、どの相続についてどのような選択をするかという判断が非常に難しく、専門家のアドバイスが不可欠なケースと言えます。

数次相続・再転相続が発生した場合の具体的な手続きと注意点

相続が数次にわたって発生した場合、または再転相続が生じた場合、その手続きは通常の一つの相続よりも格段に複雑になります。

  1. 相続人の確定(戸籍収集の徹底): 全ての相続段階に関わる被相続人全員の出生から死亡までの戸籍謄本等、そして全ての相続人の現在の戸籍謄本等を収集し、誰がどの相続において法的な相続人となるのか、その複雑な相続関係を正確に把握する必要があります。この段階で「相続関係説明図」を作成することが、全体の状況を理解し、その後の手続きを進める上で極めて有効です。
  2. 遺産分割協議の進め方: 一次相続の遺産分割協議には、一次相続の当初の相続人のうち生存している方々と、既に亡くなった相続人の地位を引き継いだ二次相続の相続人(または再転相続人)全員が参加して行わなければなりません。関係者が多ければ多いほど、全員の意見調整や合意形成は困難を極める可能性があります。できる限り、感情的な対立を避け、客観的な資料に基づき、専門家(弁護士や行政書士など)のサポートも得ながら、粘り強く話し合いを進める必要があります。
  3. 相続放棄・限定承認の熟慮期間の管理:
    • 数次相続の場合: 基本的には、それぞれの相続段階で、各相続人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に、その相続について承認または放棄の判断をする必要があります。
    • 再転相続の場合: 前述の通り、再転相続人は、自己のために再転相続の開始を知った時から3ヶ月以内に、一次相続と二次相続(間の相続)の両方について承認・放棄の意思表示をしなければなりません。この熟慮期間の起算点の判断が微妙なケースもあるため、早めに専門家に相談することが肝要です。
  4. 不動産の相続登記: 数次相続が発生している場合の不動産の相続登記は、原則として、一次相続、二次相続…と順を追って登記申請を行うのが基本ですが、遺産分割協議の内容や、中間の相続人が単独相続であった場合など、一定の条件下では、中間の相続登記を省略して、最終的な取得者に直接名義を移すことができる場合もあります(いわゆる「中間省略登記」の可否)。これは非常に専門的な判断を要するため、必ず司法書士に相談してください。
  5. 相続税の申告: 一次相続、二次相続、それぞれの相続について、相続財産の価額が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納税が必要となる可能性があります。それぞれの申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)も個別に管理しなければなりません。 なお、10年以内に相次いで相続が発生した場合など、一定の要件を満たすと「相次相続控除(そうつぎそうぞくこうじょ)」という税額控除の適用を受けられる場合があり、相続税の負担が軽減されることもあります。相続税については、必ず税理士に相談しましょう。

数次相続・再転相続を予防・簡略化するための有効な対策

このように複雑な事態を招く数次相続や再転相続は、できる限り避けたいものです。そのための有効な対策としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 最も効果的な予防策は「遺言書の作成」: 被相続人が生前に、法的に有効な遺言書(特に公正証書遺言が望ましい)を作成し、財産の承継先を明確に指定しておくことで、遺産分割協議そのものが不要となり、相続手続きが大幅に簡略化されます。これにより、相続手続きが長引くリスクを減らし、結果として数次相続の発生を抑えることができます。
  2. 相続発生後は、速やかに遺産分割協議を完了させる: 遺言書がない場合でも、相続が発生したら、できる限り速やかに相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容を遺産分割協議書としてまとめ、各種名義変更手続きを完了させることが重要です。遺産分割を長期間放置すればするほど、その間に新たな相続が発生するリスクが高まります。
  3. 生命保険の活用: 特定の相続人にまとまった現金を遺したい場合、生命保険の受取人にその相続人を指定しておくことで、その保険金は受取人固有の財産となり、遺産分割の対象外となります。これにより、遺産分割をスムーズに進め、現金の確保に役立つことがあります。
  4. 家族信託の活用: 生前に家族信託契約を締結し、財産の管理・運用方法や、ご自身が亡くなった後の財産の承継先(受益者)をあらかじめ指定しておくことで、相続発生時の手続きを大幅に簡略化し、円滑な資産承継を実現できる可能性があります。特に、事業承継や障がいのある子の将来設計など、特定の目的がある場合には有効な手段となり得ます。

複雑化する相続手続きにおける行政書士の役割とサポート

数次相続や再転相続といった複雑な相続案件において、私たち行政書士は、その専門知識と実務経験を活かし、みなさまが直面する困難な状況を整理し、解決への道筋をつけるお手伝いをいたします。

絡み合った糸を解きほぐし、相続という迷路の出口へと導く「案内人」として、行政書士は以下のサポートを提供します。

  1. 複雑な相続関係の徹底調査と確定:

    • 数次にわたる相続関係を明らかにするため、膨大になる可能性のある戸籍謄本等(被相続人全員の出生から死亡まで、及び相続人全員の現在のもの)を、職務上の権限を用いて収集・読解し、正確な相続関係説明図を作成します。これにより、誰がどの相続においてどのような権利義務を持つのかを明確にします。
  2. 遺産分割協議の前提となる各種資料作成のサポート:

    • 各相続段階における財産調査の助言や、財産目録の作成支援を行い、複雑な状況下での遺産分割協議に必要な客観的資料を整備します。
  3. 遺産分割協議書の作成支援:

    • 数次相続や再転相続の特殊性を踏まえ、関係者全員の合意内容を法的に有効かつ明確な遺産分割協議書として文書化するサポートをいたします。誰がどの相続のどの権利を引き継いで協議に参加するのかを明確に記載することが重要です。
  4. 各専門家への適切な橋渡しとシームレスな連携:

    • 相続放棄や限定承認の熟慮期間に関する法的な判断、遺産分割調停・審判といった紛争解決が必要な場合は弁護士を、複雑な相続登記は司法書士を、相続税の申告や相次相続控除の適用は税理士を、といったように、それぞれの専門分野に応じて、信頼できる専門家と緊密に連携を取り、みなさまがワンストップで必要なサポートを受けられるようお手伝いします。
  5. 相続手続き全体の流れの整理とナビゲート:

    • 複数の相続が絡み合い、手続きがどこまで進んでいるのか、次に何をすべきかが見えにくくなりがちな状況において、全体の流れを整理し、各ステップで必要なことを分かりやすくご説明し、相続人のみなさまが混乱しないようナビゲートします。
  6. 「予防法務」の観点からのアドバイス:

    • 今後のさらなる複雑化を防ぐため、あるいは将来ご自身が被相続人となる場合に備え、遺言書の作成や家族信託の活用といった生前対策の重要性についてアドバイスし、その具体的な実行をサポートします。

行政書士は、複雑な相続案件においても、みなさまの不安に寄り添い、法的な知識と実務経験をもって、円滑な解決に向けた道筋を照らすお手伝いをすることをお約束します。

まとめ:相続の連鎖は複雑化のもと。早期対応と専門家の活用で乗り切る。

今回の「相続セミナー」では、相続が連続して発生する「数次相続」と、熟慮期間内に相続人が亡くなった場合の特殊な「再転相続」について、その基本的な考え方、問題点、そして対応方法を詳しく解説してまいりました。

相続手続きを長期間放置したり、相続人間で合意形成ができなかったりすると、新たな相続が発生し、権利関係は雪だるま式に複雑化していきます。 そうなる前に、できる限り速やかに遺産分割協議をまとめ、必要な手続きを完了させることが、最も重要な予防策と言えるでしょう。そして、そのための最も有効な手段の一つが、生前の「遺言書作成」です。

もし、既に数次相続や再転相続といった複雑な状況に直面してしまっている場合には、決してご自身たちだけで抱え込まず、できるだけ早い段階で、私たち行政書士を含む、相続問題に詳しい専門家チーム(弁護士、司法書士、税理士など)にご相談ください。専門家は、絡み合った権利関係を整理し、法的な手続きを適切に進め、みなさまが納得のいく解決に至るためのお手伝いをいたします。

さて、今回の第42回をもちまして、「第4部 相続手続きの実務と注意点」は完了となります。次回からは、いよいよ本ブログセミナーの最終章となる「第5部 相続の特別知識と周辺制度」がスタートいたします。

その最初のテーマとして、第43回では「遺留分とは? ~最低限保障される相続人の権利とその請求方法~」をお届けする予定です。遺言によっても侵害できない、相続人に保障された最低限の取り分である「遺留分」について、その基本的な考え方や、侵害された場合の対応方法などを詳しく解説します。どうぞご期待ください。

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