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相続セミナー第43回: 遺留分とは? ~最低限保障される相続人の権利とその請求方法~

みなさん、こんにちは。さて、好評をいただいております当ブログの「相続セミナーシリーズ」、前回から第5部「相続の特別知識と周辺制度」がスタートしました。今回はその第43回として、上記のテーマでお届けします。

「遺言書があれば、故人の意思通りに全ての財産が分配されるのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、法律は、遺された家族の生活保障や相続人間の公平性を考慮し、一定の相続人には最低限の遺産の取り分を保障しています。これが「遺留分」です。

 

遺言書の内容が、この遺留分を侵害している場合、遺留分を持つ相続人は、多くの財産を受け取った人に対して、侵害された分を請求することができます。この権利を知っているかどうかで、受け取れる財産額が大きく変わる可能性もあるのです。

今回のブログでは、この「遺留分」という少し専門的ながら非常に重要な制度について、

  • 遺留分とは何か、なぜ存在するのか?
  • 誰が遺留分の権利を持っているのか(遺留分権利者)?
  • 遺留分はどれくらいの割合なのか?
  • 遺留分が侵害された場合、どのように請求すればよいのか?
  • 遺留分を請求する際の注意点(時効など)
  • 遺留分に関するトラブルを避けるための対策

といった点を、できるだけ分かりやすく、具体例を交えながら解説していきます。私たち行政書士が、遺留分に関するご相談や、関連する書類作成のサポートでどのようにお役に立てるかについても触れていきますので、ぜひ最後までお付き合いください。

遺留分とは何か? なぜ必要なのか?

まず、「遺留分」とは何か、その基本的な定義から確認しましょう。

遺留分とは、簡単に言うと、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に法律上保障された、最低限の遺産の取り分のことを指します。

被相続人(亡くなった方)は、原則としてご自身の財産を遺言によって自由に処分することができます(これを「遺言自由の原則」といいます)。例えば、「全財産を長男に相続させる」とか、「愛人に全財産を遺贈する」といった内容の遺言も、形式的に有効であれば、その意思は尊重されます。

しかし、この遺言自由の原則を無制限に認めてしまうと、遺された家族の生活が立ち行かなくなったり、長年連れ添った配偶者や、被相続人の財産形成に貢献してきたかもしれない子が全く財産を受け取れず、著しく不公平な結果が生じたりする可能性があります。

そこで民法は、被相続人の財産処分の自由を尊重しつつも、遺族の生活保障や、相続人間の実質的な公平を図るために、一定の範囲でこの自由を制限し、相続人に最低限の遺産取得を保障する「遺留分制度」を設けているのです。

つまり、遺留分制度は、被相続人の意思(遺言)と、遺された相続人の期待や生活を守るためのバランスを取る制度であると言えます。

遺留分権利者は誰? あなたに権利はある?

では、具体的に誰がこの遺留分の権利を持っているのでしょうか?これを「遺留分権利者」といいます。

民法で遺留分が認められているのは、以下の相続人です。

  1. 配偶者: 常に遺留分権利者となります。
  2. 子: 実子、養子、嫡出子、非嫡出子を問いません。子が既に亡くなっている場合で、その子に子(被相続人から見て孫)がいる場合は、その孫が代襲相続人として遺留分を持ちます(これを代襲遺留分といいます)。
  3. 直系尊属: 父母、祖父母などです。子がいない場合に相続人となり、遺留分権利者となります。

【重要ポイント】兄弟姉妹には遺留分がない!

ここで非常に重要な点は、被相続人の兄弟姉妹(およびその代襲相続人である甥姪)には、遺留分が認められていないということです。 したがって、例えば「全財産を特定の兄弟に相続させる」という遺言があった場合、他の兄弟姉妹は遺留分を主張することはできません。

具体例で見てみましょう

  • ケース1:相続人が配偶者と子2人 ⇒ 配偶者と子2人、全員が遺留分権利者です。
  • ケース2:相続人が子3人のみ ⇒ 子3人全員が遺留分権利者です。
  • ケース3:相続人が配偶者と被相続人の父 (子がいない場合) ⇒ 配偶者と父が遺留分権利者です。
  • ケース4:相続人が被相続人の母のみ (配偶者も子もいない場合) ⇒ 母が遺留分権利者です。
  • ケース5:相続人が被相続人の兄と弟のみ (配偶者も子も直系尊属もいない場合) ⇒ 兄も弟も遺留分権利者ではありません。

ご自身の状況がどれに当てはまるか、確認してみてください。

遺留分の割合はどれくらい? 計算方法を解説!

遺留分権利者であることが分かったら、次に気になるのは「どれくらいの割合の遺留分が保障されるのか?」という点でしょう。遺留分の割合は、2段階で考えます。

1. 総体的遺留分:遺留分として確保される全体のパイ

まず、遺留分権利者全体として確保される遺産の割合(これを「総体的遺留分」といいます)が定められています。これは、相続人の構成によって変わります。

  • 直系尊属(父母、祖父母など)のみが相続人の場合被相続人の財産の3分の1
  • 上記以外の場合(配偶者のみ、子のみ、配偶者と子、配偶者と直系尊属など) ⇒ 被相続人の財産の2分の1

2. 個別的遺留分:各遺留分権利者の取り分

次に、上記の総体的遺留分を、各遺留分権利者がそれぞれの法定相続分の割合に応じて分け合います。これが、実際に各人が主張できる「個別的遺留分」の割合となります。

計算式:個別的遺留分 = 総体的遺留分 × 各遺留分権利者の法定相続分

具体的な計算例

少し複雑に感じるかもしれませんが、具体例で見ていくと分かりやすいでしょう。

  • 例1:相続人が配偶者と子2人(長男・長女)の場合

    • 総体的遺留分:財産の1/2
    • 法定相続分:配偶者1/2、子それぞれ1/4 (1/2 × 1/2)
    • 個別的遺留分:
      • 配偶者:1/2 (総体的遺留分) × 1/2 (法定相続分) = 財産の1/4
      • 長男:1/2 (総体的遺留分) × 1/4 (法定相続分) = 財産の1/8
      • 長女:1/2 (総体的遺留分) × 1/4 (法定相続分) = 財産の1/8
  • 例2:相続人が子3人(長男・次男・三男)のみの場合

    • 総体的遺留分:財産の1/2
    • 法定相続分:各子1/3
    • 個別的遺留分:
      • 各子:1/2 (総体的遺留分) × 1/3 (法定相続分) = 財産の1/6
  • 例3:相続人が配偶者と被相続人の母の場合 (子がいないケース)

    • 総体的遺留分:財産の1/2
    • 法定相続分:配偶者2/3、母1/3
    • 個別的遺留分:
      • 配偶者:1/2 (総体的遺留分) × 2/3 (法定相続分) = 財産の1/3
      • 母:1/2 (総体的遺留分) × 1/3 (法定相続分) = 財産の1/6
  • 例4:相続人が被相続人の父と母のみの場合 (配偶者も子もいないケース)

    • 総体的遺留分:財産の1/3
    • 法定相続分:父1/2、母1/2 (1/3 × 1/2)
    • 個別的遺留分:
      • 父:1/3 (総体的遺留分) × 1/2 (法定相続分) = 財産の1/6
      • 母:1/3 (総ახებ遺留分) × 1/2 (法定相続分) = 財産の1/6

これらの計算は、遺留分を主張する際の基礎となります。ご自身のケースに当てはめて、おおよその割合を把握しておくと良いでしょう。

遺留分を侵害された場合の対応:遺留分侵害額請求

遺言や生前贈与によって、ご自身の遺留分が侵害されている(つまり、遺留分の割合に満たない財産しか受け取れない)ことが判明した場合、その侵害された分を取り戻すために行うのが**「遺留分侵害額請求」**です。

旧制度(遺留分減殺請求)との違い

2019年7月1日の民法改正により、遺留分制度は大きく変わりました。改正前は「遺留分減殺請求(いりゅうぶんげんさいせいきゅう)」といい、遺留分を侵害する遺贈や贈与の効力を一部失わせて、不動産などの現物を共有状態で取り戻すものでした。しかし、これでは共有関係が複雑になり、紛争が長期化しやすいという問題点がありました。

改正後の**「遺留分侵害額請求」**では、このような問題を解消するため、侵害された遺留分額に相当する金銭の支払いを請求する権利(金銭債権)へと変わりました。これにより、不動産などを売却せずに解決できる可能性が高まり、より柔軟な解決が期待できるようになりました。

請求方法:段階を踏んで進める

遺留分侵害額請求は、以下の手順で進めるのが一般的です。

  1. まずは当事者間での話し合い(協議): 請求する側もされる側も、まずは冷静に話し合いでの解決を目指しましょう。感情的にならず、法的な根拠(遺留分額の計算など)を示して交渉することが大切です。

  2. 内容証明郵便による請求: 話し合いでの解決が難しい場合や、相手が話し合いに応じない場合、または時効の進行を止める(催告の効果)ために、内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をすることが有効です。 内容証明郵便は、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰宛に差し出したか」を郵便局が証明してくれるもので、後々の紛争に備えた証拠となります。 私たち行政書士は、この内容証明郵便の作成をサポートすることができます。法的に正確な文書を作成し、請求の意思を明確に伝えるお手伝いをします。

  3. 家庭裁判所での調停: 内容証明郵便を送っても相手が支払いに応じない場合や、金額について合意できない場合は、家庭裁判所に「遺留分侵害額請求調停」を申し立てることができます。調停は、調停委員が間に入り、話し合いによる円満な解決を目指す手続きです。

  4. 訴訟: 調停でも解決しない場合は、地方裁判所に「遺留分侵害額請求訴訟」を提起することになります。訴訟では、裁判官が法的な判断を下すことになります。弁護士への依頼が必要となるでしょう。

請求の相手方

遺留分侵害額を請求する相手は、遺留分を侵害する原因となった遺贈や贈与を受けた人です。具体的には、以下のような人が対象となります。

  • 遺贈を受けた人(受遺者)
  • 特定の相続分を指定された相続人
  • 贈与を受けた人(受贈者)
    • 相続開始前1年以内に行われた贈与
    • 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って(悪意で)行った贈与(1年以上前でも対象)
    • 相続人に対する贈与のうち、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与(特別受益にあたるもの)は、相続開始前10年以内のものが原則として対象となります。

請求する相手が複数いる場合は、その負担割合なども問題となることがあります。

遺留分侵害額請求の【超重要】注意点:時効!

遺留分侵害額請求権には、時効があります。この期間を過ぎてしまうと、権利を主張できなくなってしまうため、非常に重要です。

  • 消滅時効: 遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。 「知った時」がいつか、という点が争点になることもあります。

  • 除斥期間: 上記の「知った時」に関わらず、相続開始の時から10年間を経過したときも、同様に権利は消滅します。

つまり、遺留分が侵害されている可能性があると感じたら、1年以内(または相続開始から10年以内)に請求の意思表示をする必要があるということです。まずは内容証明郵便で催告することにより、時効の完成を6ヶ月間猶予させることができます。

「まだ時間があるから大丈夫」と油断せず、迅速な対応が何よりも大切です。少しでも「あれ?」と思ったら、すぐに専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。行政書士にご相談いただければ、状況を伺い、必要な手続きや期間についてアドバイスを差し上げることができます。

遺留分算定の基礎となる財産

遺留分を計算する際の基礎となる財産は、単純に相続開始時の財産だけではありません。以下のものが含まれます。

  1. 被相続人が相続開始時に有していた積極財産(プラスの財産)の価額
  2. 贈与された財産の価額(一定の範囲。前述の「請求の相手方」で説明した贈与が該当)
  3. 上記から、被相続人の債務(マイナスの財産)全額を控除します。

財産の評価(特に不動産や非公開株式など)が難しい場合もあり、これが争いの種になることもあります。

遺留分トラブルを避けるために:生前対策が鍵

遺留分に関するトラブルは、遺された家族にとって大きな負担となります。できることなら、生前の対策によって未然に防ぎたいものです。

1. 遺言書作成時の配慮

遺言書を作成する際には、遺留分について十分に配慮することが重要です。

  • 遺留分を侵害しない内容にする: 各相続人の遺留分額を計算し、それを下回らないような財産配分を心がける。
  • 付言事項で想いを伝える: どうしても特定の相続人に多く財産を残したい、あるいは遺留分を侵害する可能性がある内容にする場合は、遺言書の「付言事項」(法的な効力はありませんが、遺言者の想いを伝える部分)に、その理由や家族への感謝の気持ちなどを書き記すことで、他の相続人の理解を得やすくなることがあります。
  • 遺留分に配慮した旨を記載する: 遺言書作成時に遺留分を考慮したことを明記することも、後の紛争予防に繋がることがあります。

行政書士は、遺言書作成サポートの際に、この遺留分についてもアドバイスをさせていただき、円満な相続の実現をお手伝いします。

2. 生前贈与の計画的な活用

生前贈与も、遺留分との関係で注意が必要です。特定の相続人に多くの財産を贈与すると、それが他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。

  • 遺留分算定の基礎財産に含まれる贈与の範囲を理解し、計画的に行う。
  • 贈与契約書を作成し、贈与の事実を明確にしておく。

3. 生命保険の活用

受取人を指定した生命保険金は、原則として相続財産ではなく受取人固有の財産とされ、遺留分算定の基礎財産には含まれないとされています(ただし、著しく不公平な場合は例外的に考慮されることもあります)。 特定の相続人に多くの財産を残したい場合に、有効な手段の一つとなり得ます。

4. 民事信託(家族信託)の活用

民事信託(家族信託)の仕組みを利用して、柔軟な財産承継を設計する際に、遺留分への配慮も検討課題の一つとなります。信託契約の内容によっては、遺留分の問題をクリアできるケースもありますが、専門的な知識が必要ですので、必ず専門家にご相談ください。

これらの生前対策についても、私たち行政書士がご相談に応じ、必要に応じて他の専門家と連携しながらサポートさせていただきます。

遺留分で困ったら行政書士にご相談ください

遺留分の問題は、法律知識だけでなく、感情的な対立も絡みやすく、複雑化しやすい傾向があります。

私たち行政書士は、「身近な街の法律家」として、みなさんの遺留分に関するお悩みに寄り添います。

  • 遺留分に関する正確な情報提供とアドバイス: ご自身の状況で遺留分がどうなるのか、分かりやすくご説明します。
  • 遺留分侵害額請求に関する内容証明郵便の作成: 法的に適切な文書を作成し、あなたの権利主張をサポートします。
  • 遺言書作成における遺留分への配慮に関する助言: トラブルを未然に防ぐための遺言書作りをお手伝いします。
  • 他の専門家との連携: 必要に応じて、弁護士や税理士といった他の専門家とスムーズに連携し、問題解決をサポートします。
  • 話し合いの前提となる資料収集・作成サポート: 戸籍収集による相続人調査や、財産目録の作成など、遺留分額を算定するための基礎資料の準備をお手伝いします。

「遺留分を請求できるかもしれない」「遺言書の内容に納得がいかない」「遺留分について詳しく知りたい」など、少しでも疑問や不安を感じたら、まずは一度、お近くの行政書士にご相談ください。早期のご相談が、円満な解決への第一歩となります。

まとめ:遺留分はあなたの権利、早めの確認と対応を

今回は、相続における重要な権利である「遺留分」について、その意味、権利者、割合、請求方法、注意点、そしてトラブル回避のための対策まで詳しく解説しました。

遺留分は、法律で認められた正当な権利です。しかし、その権利を行使するには、ご自身で行動を起こす必要があり、また、厳しい期間制限も設けられています。

遺言書の内容や生前贈与の状況から、ご自身の遺留分が侵害されている可能性がある場合は、決して諦めずに、まずは専門家にご相談ください。私たち行政書士は、その第一歩を力強くサポートさせていただきます。

このブログが、みなさんの遺留分に関する理解を深め、万が一の際に役立つ情報となれば幸いです。

次回は、第44回「特別受益とは? ~生前贈与が相続分に与える影響~」というテーマでお届けする予定です。こちらも相続財産の公平な分配に関わる重要な知識ですので、ぜひご覧ください。

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