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相続セミナー第45回: 寄与分とは? ~介護や家業への貢献を評価する制度~

「長年、親の介護を一身に担ってきたのに、他の兄弟と相続分が同じなのは納得がいかない…」「家業を無給同然で手伝って財産を増やしたのに、その貢献は考慮されないの?」こうしたお悩みや疑問を抱える方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、「うちの兄弟姉妹のひとりが、親のために本当に尽くしてくれた。その頑張りに報いたいけれど、どうすれば…」とお考えの方もいるかもしれません。

今回のブログでは、このような被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人がいる場合に、その貢献を金銭的に評価し、相続分に反映させる「寄与分」という制度について、分かりやすく解説していきます。寄与分が認められるのはどのようなケースか、どのように計算されるのか、そして寄与分を主張する際の注意点などを具体的に見ていきましょう。この制度を理解することで、より公平で納得のいく遺産分割に繋がる可能性があります。

寄与分とは何か? なぜこの制度が必要なのか?

まず、「寄与分」とは何か、その基本的な定義から確認しましょう。

寄与分とは、共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供(家業の手伝いなど)、財産上の給付(金銭の援助など)、被相続人の療養看護(介護など)、その他さまざまな方法により、被相続人の財産の維持または増加について「特別の寄与」をした人がいる場合に、その貢献度に応じて、相続財産の中から他の相続人よりも多くの財産を取得できる制度のことです(民法904条の2)。

簡単に言えば、**「被相続人のために特別な貢献をした相続人に対して、その頑張りに報いるための制度」**であり、相続人間の実質的な公平を図ることを目的としています。

例えば、相続人が複数いる場合、法定相続分に従って遺産を分けるのが基本ですが、ある特定の相続人が被相続人の財産形成や維持に大きく貢献していた場合、他の相続人と同じ取り分では不公平感が生じることがあります。寄与分制度は、このような不公平を是正し、貢献した相続人がその働きに見合った財産を受け取れるようにするためのものです。

特別受益との違いは? 前回解説した「特別受益」は、被相続人から生前に受けた贈与などが「相続財産の前渡し」とみなされるものでした。これに対し、「寄与分」は、相続人が被相続人に対して行った貢献を「後から評価」して相続分に加算するものです。両方の事情が存在する場合には、これらを総合的に考慮して遺産分割が行われることになります。

寄与分が認められるための【重要な】要件

寄与分が認められるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。誰でも、どんな貢献でも認められるわけではありません。

  1. 寄与行為の主体:共同相続人であること 寄与分を主張できるのは、原則として共同相続人に限られます。したがって、内縁の配偶者や、相続人ではない親族(例えば、長男の妻など)がどれだけ献身的に介護をしても、その人自身が寄与分を主張することはできませんでした。 ※ただし、この点については後述する**「特別寄与料」**という新しい制度が創設されています。

  2. 寄与行為の時期:相続開始前であること 寄与行為は、被相続人が亡くなる前に行われたものである必要があります。相続開始後の行為は対象となりません。

  3. 「特別の寄与」であること これが最も重要な要件であり、判断が難しい部分でもあります。「特別の」とは、通常の親族間の協力や扶養義務の範囲を超える程度の貢献を意味します。

    • 無償性(またはそれに近い状態): 寄与行為が対価を得ずに行われたこと、または著しく低い対価しか得ていなかったことが求められます。例えば、通常の給与をもらって家業を手伝っていた場合は、原則として特別の寄与にはあたりません。
    • 継続性・専従性: 特に療養看護型の場合、長期間にわたり、かつ、ある程度専従的に関わっていたことが考慮される傾向にあります。一時的な手伝いや、短期間の看病では認められにくいことがあります。
    • 通常の期待を超える程度: 夫婦間の協力扶助義務(民法752条)や、親子間の扶養義務(民法877条)の範囲内と評価される行為は、特別の寄与とは認められません。例えば、同居している配偶者が家事を行うことや、子が親の身の回りの世話をすることは、通常期待される範囲内とされやすいです。
  4. 被相続人の財産の維持または増加との因果関係 寄与行為によって、現実に被相続人の財産が維持された(減るべきものが減らなかった)、または増加したという結果が必要です。いくら献身的に行動しても、それが財産状況に影響を与えていなければ寄与分は認められません。

これらの要件を満たしているかどうかは、個別の事案ごとに具体的に判断されます。

寄与分の類型:具体的にどんな行為が対象になるの?

寄与分が認められる行為は、主に以下のような類型に分けられます。

  1. 家業従事型 被相続人が営んでいた農業、漁業、個人商店、小規模な工場などの家業に対して、相続人が無償または著しく低い給与で長期間にわたり労務を提供し、その結果、被相続人の財産の維持または増加に貢献した場合です。

    • 例: 親が経営する八百屋で、子が若い頃から無給で働き続け、店の発展に貢献した。
    • 例: 農業を営む親のもとで、子が通常の労働時間を超えて献身的に働き、収穫量を増やしたり、新たな販路を開拓したりした。
  2. 財産給付型(金銭等出資型) 相続人が、被相続人の事業のために自己の財産から資金を提供したり、被相続人が負っていた借金を肩代わりして返済したり、あるいは被相続人のために不動産を提供したりするなどして、被相続人の財産の維持または増加に貢献した場合です。

    • 例: 親が事業に失敗して多額の借金を抱えた際に、子が自己の預貯金からその借金を返済した。
    • 例: 親が家を新築する際に、子が建築資金の一部を負担した。
  3. 療養看護型 被相続人が病気や高齢により療養看護を必要としていた場合に、相続人が長期間にわたり、専門の介護者に依頼すれば費用がかかるようなレベルの看護を行い、それによって介護サービス費用などの支出を免れさせ、被相続人の財産の維持に貢献した場合です。

    • 例: 寝たきりになった親を、子が仕事を辞めて自宅で数年間にわたり全面的に介護し、施設入所費用や高額なヘルパー費用を節約できた。
    • ポイント:
      • 単なる身の回りの世話や、たまに様子を見に行く程度では「特別の寄与」とは認められにくいです。
      • 介護の期間、内容(食事、排泄、入浴介助、医療的ケアの補助など)、要介護度、相続人の負担の度合いなどが総合的に考慮されます。
      • 他の相続人の協力状況(他の兄弟はほとんど介護に関わらなかったなど)も影響します。
  4. 財産管理型 相続人が、被相続人の所有する賃貸不動産(アパートや駐車場など)や金融資産などを、無償または著しく低い報酬で管理・運用し、その結果、財産の価値を維持したり、収益を増加させたりした場合です。

    • 例: 親が所有するアパートの入居者募集、家賃回収、クレーム対応、修繕手配などを、子が不動産業者に委託せずに無償で行い、安定した家賃収入を確保した。
  5. 扶養型 相続人が、生活に困窮している被相続人を経済的に長期間にわたり扶養し、それによって被相続人自身の財産の減少を防いだ場合です。ただし、これは親族間の扶養義務の範囲を超える「特別の」扶養である必要があり、認められるハードルは比較的高いとされています。

これらの類型は典型例であり、複数の類型にまたがる貢献や、これらに当てはまらない特殊な貢献が認められる場合もあります。

寄与分はどうやって決める? 計算方法は?

寄与分が認められるとして、その金額はどのように決定されるのでしょうか。

  1. まずは相続人間の協議で決定 最も望ましいのは、**共同相続人全員の話し合い(遺産分割協議)**によって、寄与した相続人の貢献内容と評価額について合意することです。寄与を主張する相続人は、具体的な貢献内容、期間、それによって財産がどう維持・増加したのかなどを他の相続人に説明し、理解を求めることになります。

  2. 協議が調わない場合は、家庭裁判所の手続きへ 相続人間で話し合いがまとまらない場合や、そもそも協議ができない場合には、寄与を主張する相続人は、家庭裁判所に遺産分割調停または審判を申し立て、その中で寄与分を主張することができます。裁判所が、提出された証拠や双方の主張を聴いた上で、寄与分の有無や額を判断します。

寄与分の算定方法(一般的な考え方)

法律には、寄与分を計算するための具体的な算定式が定められているわけではありません。裁判所が個々の事案の具体的な事情を総合的に考慮して、裁量で決定します。ただし、実務上は、以下のような考え方で評価されることが多いです。

  • 家業従事型: (寄与者が通常得られたはずの年間給与額 - 実際に受け取っていた給与額)× 寄与期間 × 生活費控除などの裁量的割合
  • 財産給付型: 提供した財産の価額(金銭の場合はインフレ調整後の価額)、肩代わりした債務額などが基礎となります。
  • 療養看護型: (介護サービスを利用した場合の標準的な費用額や、介護保険の要介護度に応じた介護報酬基準額など)× 療養看護日数 × 裁量的割合(介護の専従度、負担の度合い、被相続人の状態などを考慮) ※裁量的割合は、専門の介護職ではないこと、親族としての扶養義務も一定程度あることなどから、計算上の満額が認められることは少ない傾向にあります。
  • 財産管理型: 第三者に財産管理を委託した場合に支払うべき報酬額などが参考になります。

【重要】寄与分の上限 寄与分として認められる額は、相続開始時の被相続人の遺産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできません。つまり、どんなに大きな貢献があったとしても、残された遺産以上にもらうことはできないということです。

寄与分を主張する際の【最重要】ポイント:証拠!

寄与分を主張する上で、最も重要かつ困難なのが**「証拠の収集と提示」**です。口頭で「これだけ尽くした」と主張するだけでは、他の相続人の納得を得ることも、裁判所に認めてもらうことも難しいでしょう。

以下のような客観的な証拠を、できる限り具体的に、かつ時系列に沿って整理しておくことが重要です。

  • 療養看護型の場合:
    • 医師の診断書、カルテ、要介護認定の通知書、ケアプラン
    • 介護日誌(いつ、どのような介護を、どのくらいの時間行ったかの記録)
    • 介護にかかった費用の領収書(おむつ代、薬代など)
    • ヘルパーやデイサービスを利用した場合の契約書や領収書(もし自分で介護したことでこれらが節約できたと主張する場合の比較対象として)
    • 写真や動画(介護の状況がわかるもの)
    • 第三者の証言(ケアマネージャー、訪問看護師、近所の人など)
  • 家業従事型の場合:
    • 被相続人の事業の確定申告書、帳簿類
    • 給与明細や源泉徴収票(無償または低廉な報酬であったことの証明)
    • 取引先との契約書や請求書(貢献によって売上が増加したことの証明など)
    • 事業所の写真、従業員や取引先の証言
  • 財産給付型の場合:
    • 金銭の贈与であれば、銀行の振込記録、贈与契約書
    • 借金の肩代わりであれば、金融機関との返済に関する書類、領収書
    • 不動産の提供であれば、登記事項証明書、固定資産評価証明書

これらの証拠を元に、いつ、誰が、どのような貢献をし、その結果として被相続人の財産がいくら維持・増加したのかを、具体的に説明できるように準備する必要があります。私たち行政書士も、どのような証拠が有効かといったアドバイスや、書類の整理・作成のお手伝いをさせていただくことがあります。

相続人以外の親族の貢献はどうなる?「特別寄与料」制度

前述の通り、寄与分は原則として共同相続人にしか認められませんでした。しかし、現実には、相続人ではない親族(例えば、長男の妻や、被相続人の兄弟姉妹の子など)が献身的に被相続人の療養看護を行うケースも少なくありません。

このような不公平を解消するため、2019年7月1日施行の改正民法で「特別寄与料請求権」という新しい制度が創設されました(民法1050条)。

これは、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続放棄者、相続欠格者・廃除者は除く)が、相続人に対して、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求できるというものです。

  • 請求できる人: 被相続人の6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族(相続人等を除く)。
  • 請求の相手方: 相続人(複数いる場合は各相続人に法定相続分に応じて請求)。
  • 請求方法: まずは相続人との協議。まとまらなければ家庭裁判所に調停または審判を申し立てる。
  • 【重要】請求期間の制限:
    • 特別寄与者が、相続の開始および相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき
    • または、相続開始の時から1年を経過したとき このいずれか早い期間を過ぎると請求できなくなります。寄与分本体の主張に時効はありませんが、この特別寄与料は期間が非常に短いので注意が必要です。

この制度により、これまで法的に報われることのなかった方の貢献が評価される道が開かれました。

寄与分と遺言の関係

被相続人が、特定の相続人の貢献に報いたいと考える場合、遺言書でその意思を表明することができます。

  • 「相続させる」旨の遺言(相続分の指定): 遺言で「長女〇〇には、長年にわたり私の介護をしてくれたことに感謝し、他の相続人よりも〇〇円多く相続させる」とか「全財産のうち〇割を長男△△に相続させる」といったように、特定の相続人の取得分を多く指定することができます。これは法的には「寄与分を認める」というものではなく、「相続分の指定」または「遺贈」にあたりますが、実質的に寄与に報いる効果があります。
  • 付言事項での感謝の表明: 遺言書の付言事項(法的な効力はないが、遺言者の想いを伝える部分)に、特定の相続人の貢献に対する感謝の気持ちや、なぜそのような財産配分にしたのか理由を書き記すことで、他の相続人の理解を得やすくなり、円満な遺産分割に繋がる可能性があります。

生前に自身の世話をしてくれた相続人に対して、感謝の気持ちを込めて遺言書で配慮を示すことは、相続トラブルの予防にも繋がります。行政書士は、このような想いを遺言書という形にするお手伝いを専門としています。

寄与分で困ったら行政書士にご相談ください

寄与分の問題は、法律的な知識だけでなく、具体的な事実認定、証拠の整理、そして何よりも相続人間の感情的な調整が難しく、当事者だけでの解決が困難なケースが少なくありません。

「私の長年の介護は寄与分として認められるの?」「どれくらいの金額を主張できる?」「他の兄弟にどう説明すればいい?」「証拠として何を集めたらいいか分からない」など、寄与分に関して疑問や不安を感じたら、ぜひ私たち行政書士にご相談ください。

  • 寄与分に関する正確な情報提供とアドバイス: あなたのケースで寄与分が認められる可能性や、おおよその評価額について、過去の事例なども踏まえてご説明します。
  • 寄与分を主張するための証拠収集・整理のアドバイス: どのような証拠が有効か、どのように整理・提示すればよいか、具体的なアドバイスをします。
  • 遺産分割協議における寄与分の主張方法に関するサポート: 他の相続人に対して、客観的かつ論理的に寄与の内容を説明するための資料作成や、話し合いの進め方について助言します。
  • 遺言書作成における寄与への配慮に関する助言: 被相続人として、貢献してくれた相続人に報いたいというお気持ちを、法的に有効な形で遺言書に残すお手伝いをします。
  • 特別寄与料請求に関する情報提供: 相続人以外の方で貢献された場合、特別寄与料制度の利用についてご説明し、必要に応じて弁護士などの専門家へお繋ぎすることも可能です。
  • 話し合いの内容を記録する書類作成のサポート: 相続人間で寄与分について合意できた場合、その内容を遺産分割協議書などの書面に正確に記載するお手伝いをします。

行政書士は「身近な街の法律家」として、皆さまのお話を丁寧にお伺いし、円満な解決に向けた第一歩をサポートいたします。

まとめ:寄与分は「感謝の形」、証拠と冷静な話し合いが鍵

今回は、相続人間の公平を図るための「寄与分」という制度について、その意味、認められるケース、計算の考え方、主張する際の注意点、そして新しい「特別寄与料」制度まで詳しく解説しました。

寄与分は、被相続人のために特別な貢献をした相続人の「頑張り」や「感謝の気持ち」を法的に評価し、形にするための大切な制度です。しかし、その主張は感情的な対立を生みやすく、客観的な証拠に基づいて冷静に話し合うことが何よりも重要となります。

もし、ご自身が寄与を主張したいとお考えの場合、あるいは他の相続人から寄与分の主張を受けて対応に困っている場合は、決して一人で悩まず、できるだけ早い段階で専門家にご相談ください。

次回は、いよいよ相続に関する税金の話に入っていきます。相続セミナー第46回「相続税の基礎知識 ~計算方法と基礎控除~」というテーマでお届けする予定です。こちらも多くの方が気になる内容かと思いますので、ぜひご覧ください。

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