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相続セミナー第47回: 相続税申告が必要なケースと納税方法 ~申告期限は10ヶ月!~

前回(第46回)は、相続税の基本的な仕組みや、特に重要な「基礎控除」について学びました。「うちは基礎控除の範囲内だから大丈夫そうだな」と安心された方もいらっしゃるかもしれませんし、「もしかしたら申告が必要かもしれない…」と少し心配になった方もいらっしゃるかもしれませんね。では、具体的にどのような場合に相続税の申告が必要になり、その申告や納税はどのように進めていけばよいのでしょうか?そして、最も気になる「期限」はいつまでなのでしょうか?

今回のブログでは、これらの具体的な疑問にお答えするため、相続税の申告が実際に必要となるケース、申告手続きの大まかな流れ、そして納税方法について詳しく解説していきます。また、相続税の申告・納税で最も注意すべき「10ヶ月」という期限を守ることの重要性や、万が一、期限までに現金で納付できない場合の「延納」「物納」といった制度についても触れていきます。この記事を通して、相続税の申告・納税に関する実務的な知識を深めていただければ幸いです。

まずはおさらい:相続税がかかるかどうかの基本的な判断基準

本題に入る前に、前回のおさらいです。相続税がかかるかどうかを判断する上で最も重要なのは「基礎控除額」でしたね。

【相続税の基礎控除額】 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

この計算式で算出された金額が、相続税がかからないラインの一つの目安となります。具体的には、亡くなった方(被相続人)の財産総額(プラスの財産からマイナスの財産や非課税財産を引いたもの、さらに一定の生前贈与を加えた「課税遺産総額」)が、この基礎控除額を超える場合に、原則として相続税の申告と納税が必要になります。

相続税申告が「必要」となる具体的なケースとは?

課税遺産総額が基礎控除額を超える場合に申告が必要、というのが大原則ですが、それ以外にも申告が必要となるケースがあります。混同しやすいポイントですので、しっかり押さえておきましょう。

  1. ケース1:課税遺産総額が基礎控除額を超える場合(これが原則!) これが最も基本的なケースです。例えば、法定相続人が3人(基礎控除額4,800万円)で、課税遺産総額が5,000万円だった場合、基礎控除額を超えていますので、相続税の申告と納税が必要になります。

  2. ケース2:各種特例や税額控除を適用した結果、納税額がゼロになる場合でも「申告」は必要なケース ここが非常に重要なポイントです。「税金がかからないなら申告もいらないでしょ?」と思いがちですが、特定の有利な特例や税額控除を受けるためには、たとえ計算上の納税額がゼロになったとしても、相続税の申告書の提出が必須条件となっている場合があるのです。代表的なものとしては、以下の2つが挙げられます。

    • 配偶者の税額軽減(通称:配偶者控除)を適用する場合: 前回も触れましたが、配偶者が取得した財産額が、法定相続分相当額または1億6,000万円のいずれか多い金額までは相続税がかからないという非常に強力な制度です。この制度の適用を受けるためには、相続税の申告書を提出することが要件となっています。つまり、この特例を使って納税額が0円になったとしても、申告は必要です。

    • 小規模宅地等の特例を適用する場合: 被相続人の自宅の土地や事業用の土地などについて、一定の要件を満たせば、その土地の評価額を最大で80%も減額できるという、こちらも非常に効果の大きな特例です。この「小規模宅地等の特例」の適用を受けるためにも、相続税の申告書を提出することが必須です。「この特例を使えば基礎控除以下になるから申告不要」とはならない点に注意が必要です。

    他にも、農地等の納税猶予及び免除の特例や、特定の公益法人への寄付による非課税の適用など、有利な制度を利用するためには申告が条件となっている場合があります。有利な特例を見逃さず、かつ、正しく適用を受けるためにも、専門家である税理士への相談が不可欠です。

  3. ケース3:相続時精算課税制度を利用した贈与がある場合 生前贈与の際に「相続時精算課税制度」を選択していた場合、その贈与財産は相続発生時に相続財産に加算して相続税を計算することになります。この制度を利用した場合、相続税の基礎控除額とは別に、贈与時に利用できる累計2,500万円の特別控除とは別に、2024年1月1日以降の贈与からは年110万円の基礎控除が創設されましたが、相続発生時には、原則として相続税の申告が必要となります。

「うちは特例を使えば大丈夫そうだから」と安易に自己判断せず、申告が必要かどうかを正確に確認することが大切です。

相続税申告が「不要」となる主なケース

では、逆に相続税の申告が不要となるのはどのような場合でしょうか。

  • 課税遺産総額が基礎控除額以下である場合: これが最も一般的な申告不要のケースです。例えば、法定相続人が2人(基礎控除額4,200万円)で、課税遺産総額が3,000万円だった場合は、基礎控除額を下回っているため、相続税の申告も納税も原則として不要です。
  • 相続財産が、すべて相続税の非課税財産のみで構成されている場合: 例えば、墓地や仏壇、そして生命保険金の非課税枠内の金額のみ、といったケースですが、現実的には極めて稀です。

ただし、申告が不要と判断した場合でも、将来的に税務署から問い合わせがあった場合などに備え、なぜ申告不要と判断したのかの根拠となる資料(財産評価の明細、遺産分割の記録など)は、一定期間きちんと保管しておくことをお勧めします。

相続税申告の手続きの流れ(概要)

相続税の申告は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内という限られた期間内に行わなければなりません。その大まかな流れは以下の通りです。

  1. 相続開始(被相続人の死亡): まずは死亡届の提出など、基本的な手続きを行います。
  2. 遺言書の有無の確認・相続人の確定: 遺言書があればその内容を確認し、なければ戸籍謄本等を収集して法定相続人を確定します。この段階は、私たち行政書士が専門的にサポートできます。
  3. 相続財産の調査・評価、財産目録の作成: 被相続人がどのような財産をどれだけ持っていたのか、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も全て調査し、相続税法に基づいた評価を行います。この財産目録の作成も、行政書士がサポートし、複雑な評価は税理士と連携します。
  4. 遺産分割協議: 相続人全員で、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを話し合います。この協議が相続税額にも影響するため重要です。行政書士は、協議が円滑に進むようサポートします。
  5. 遺産分割協議書の作成: 話し合いでまとまった内容を法的に有効な書面(遺産分割協議書)にします。これも行政書士の重要な業務です。相続税申告書にも添付が必要な書類です。
  6. 相続税申告書の作成: 上記の資料に基づき、税理士が専門的な知識を駆使して相続税申告書を作成します。非常に多くの添付書類が必要となります。
  7. 相続税申告書の提出: 作成した申告書を、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署へ、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出します。
  8. 相続税の納付: 申告期限と同じく、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、算出された相続税額を納付します。

このように、申告・納税までには多くのステップがあり、それぞれに専門知識が必要です。10ヶ月という期間はあっという間に過ぎてしまうため、早期からの準備と、行政書士や税理士といった専門家との連携が非常に重要になります。

相続税の納税方法:原則は現金一括だが…

相続税の納税は、申告期限までに以下の方法で行うのが原則です。

  1. 現金一括納付(原則)

    • 金融機関の窓口: 日本銀行の歳入代理店となっている銀行や郵便局の窓口で納付書を使って納めます。
    • 所轄税務署の窓口: 現金で直接納付することも可能です(対応していない税務署もあるので事前に確認)。
    • e-Tax(電子申告)を利用した納付:
      • ダイレクト納付:事前に登録した預貯金口座から振替で納付。
      • インターネットバンキング等:インターネットバンキングやATMを利用して納付。
    • クレジットカード納付: 国税クレジットカードお支払サイトを通じて納付できますが、納税額に応じた決済手数料がかかり、納付できる金額に上限がある場合があります。
    • コンビニ納付: 税務署から発行(または国税庁ホームページで作成)されたバーコード付きの納付書を使って、30万円以下の税額であればコンビニエンスストアで納付できます。
  2. 延納(例外:分割払い) 相続税額が10万円を超え、申告期限までに現金で一括納付することが困難な理由があり、かつ一定の要件を満たす場合には、税務署長の許可を得て、担保を提供することにより、年賦(分割払い)で納めることができる制度です。

    • 主な要件: 納税額10万円超、金銭納付困難な理由、担保提供(延納税額や期間による)、申告期限までの延納申請書提出など。
    • 注意点: 延納期間中は、利子税がかかります。金利は変動します。
  3. 物納(例外:財産で納付) 延納によっても金銭での納付が困難な場合に、一定の要件を満たせば、相続財産そのもの(不動産や国債、地方債、上場株式など、定められた種類の財産に限る)で相続税を納めることができる制度です。

    • 主な要件: 延納困難、物納適格財産であること、申告期限までの物納申請書提出など。
    • 注意点: 物納できる財産の種類や順位には厳格な定めがあり、管理や処分が難しい「管理処分不適格財産」は物納できません。手続きも非常に複雑で、認められるハードルは高いと言えます。

延納や物納はあくまで例外的な措置であり、利用するには厳しい条件があります。基本的には現金一括納付を目指し、納税資金の準備を早期から計画しておくことが大切です。

申告・納税期限「10ヶ月」を守る!遅れるとどうなる?

相続税の申告・納税期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」です。この期限は非常に厳格で、1日でも遅れると以下のようなペナルティ(附帯税)が課される可能性があります。

  • 無申告加算税: 期限内に申告しなかった場合に課されます。自主的に期限後申告した場合と、税務調査を受けてから申告した場合とでは税率が異なります(通常は納付すべき税額に対して5%~20%。悪質な場合はさらに重くなることも)。
  • 過少申告加算税: 申告した税額が実際よりも少なかった場合に、追加で納める税金に対して課されます(通常10%~15%)。
  • 重加算税: 財産を隠蔽したり、事実を偽って申告したりするなど、特に悪質と認められる場合に課される最も重いペナルティです(無申告の場合は40%、過少申告の場合は35%)。
  • 延滞税: 法定納期限の翌日から実際に納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課されます。税率は年によって変動しますが、決して低くはありません。

これらのペナルティは、本来納めるべき相続税に上乗せして支払わなければならないため、大きな負担となります。期限を守ることの重要性を改めて認識し、計画的に準備を進めましょう。

相続税申告・納税に関する行政書士と税理士の連携

10ヶ月という限られた時間の中で、複雑な相続税の申告・納税手続きをスムーズに進めるためには、専門家のサポートが不可欠です。私たち行政書士と税理士が連携することで、ご依頼者様を強力にバックアップいたします。

  • 行政書士の役割:

    • 相続開始直後からの迅速な対応:遺言書の確認、正確な相続人調査(戸籍等の収集)、相続関係説明図の作成。
    • 相続財産の調査・把握の初動サポート:どのような財産があるのか、資料収集のお手伝い。
    • 遺産分割協議の円滑な進行支援:相続人間の話し合いがスムーズに進むよう、中立的な立場でサポートし、法的に有効な遺産分割協議書を作成します。これは相続税申告の前提となる非常に重要なプロセスです。
    • 相続税申告の要否に関する簡易的なアドバイスと、必要に応じた税理士への迅速な連携:当事務所では、提携している経験豊富な税理士をご紹介し、情報共有を密に行うことで、シームレスなサポート体制を整えています。
    • 納税資金の準備に関する一般的な助言:遺産分割の工夫(換価分割など)や、生命保険金の活用など、納税資金をどのように準備するかについて、遺産分割の段階からアドバイスできることがあります。
  • 税理士の役割:

    • 相続財産の専門的な評価と正確な相続税額の計算。
    • 各種特例(配偶者控除、小規模宅地等の特例など)の適用判断と、節税効果を最大限に引き出すためのアドバイス。
    • 相続税申告書の作成と税務署への提出代行。
    • 延納・物納の手続きに関する専門的なサポート。
    • 税務調査が行われる場合の対応。

私たち行政書士は、相続手続きの入口から、遺産分割という相続税申告の根幹に関わる部分までをサポートし、税理士の先生が専門性を最大限に発揮できるよう、しっかりとバトンをお渡しする役割を担います。

まとめ:申告・納税は期限内に!専門家への早期相談が鍵

今回は、相続税の申告が必要となる具体的なケース、申告・納税の手続きの流れ、そして最も重要な「10ヶ月」という期限について解説しました。

相続税の申告は、課税遺産総額が基礎控除額を超える場合のほか、有利な特例の適用を受けるためにも必要となることがあります。そして、その申告と納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内という厳格な期限内に完了させなければなりません。

納税は原則として現金一括ですが、困難な場合には延納や物納という制度もあります。しかし、これらはあくまで例外的な措置であり、手続きも複雑です。

期限を守り、ペナルティを避け、そして各種特例を適切に活用するためには、相続発生後できるだけ早い段階から準備を始め、私たち行政書士や税理士といった専門家に相談することが何よりも大切です。

次回は、相続税対策としても関心の高いテーマ、相続セミナー第48回「生前贈与の活用と注意点 ~暦年贈与と相続時精算課税制度~」をお届けします。ぜひ、引き続きご覧ください。

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